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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年10月1日01時30分 兵庫県明石港 2 船舶の要目 船種船名
油送船眞和丸 総トン数 237トン 全長 49.97メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 3 事実の経過 眞和丸は、船尾船橋型の油送船で、A及びB両受審人ほか1人が乗り組み、京浜から北九州間の諸港において菜種、大豆及び紅花などの搾り油の輸送に従事していたところ、平成10年9月29日13時40分神戸港第1区の兵庫ふ頭に着岸し、翌30日09時10分から14時30分までの間に搾り油約400トンを揚荷したのち、空倉のまま、海水バラスト約60トンを張り、船首0.9メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、翌々10月1日00時00分同ふ頭を発し、岡山県水島港に向かった。 A受審人は、船橋当直を、同人が08時から12時までと20時から00時までの時間帯に、次いでB受審人、機関長の順に3直4時間交替制で行うことにしていた。また、当直中に眠気を催したときには船長に報告するよう、平素から乗組員に指示していた。 00時26分A受審人は、和田岬南方1.0海里付近で、出港作業を終えて昇橋したB受審人に船橋当直を引き継ぐこととしたが、明石海峡航路東方灯浮標(以下「東方灯浮標」という。)に差し掛かれば自ら昇橋し、同航路通航時には操船の指揮を執るつもりでいたので、報告を求めなくても大丈夫と思い、B受審人に対し、同航路東側での昇橋地点を具体的に示して接近したら報告するよう指示することなく、同灯浮標に至るまでの間、一服するつもりで自室に退いた。 ところで、B受審人は、神戸港での揚荷の前後における岸壁シフト作業及び揚荷役に立ち会ったのち、夕食をとって20時に就寝し、23時50分に起床して出港作業に続き船橋当直に就いたもので、そのとき疲れや眠気はなく体調は良好であった。 当直に就いたB受審人は、舵輪の後方に置いた背もたれと肘掛けの付いたいすに腰を掛けて見張りに当たり、01時ごろ東方灯浮標の北方を通過後、同時06分平磯灯標から真方位197度1.1海里の、明石海峡航路東口近くに達したとき、針路を同航路に沿う303度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で進行した。 01時08分B受審人は、明石海峡航路に入航したものの、A受審人から当直を引き継ぐ際、昇橋地点や操船の指揮を執ることについての指示を受けていなかったので、航路内の操船を自分に任されているものと判断し、航路に入航したことをA受審人に知らせないまま同じ針路、速力で続航した。 一方、自室に戻ったA受審人は、寝台に横になって休息していたところ、いつしか眠り込んでしまい、東方灯浮標を通過したことも、明石海峡航路に入航したことにも気付かなかった。 01時18分B受審人は、明石海峡大橋の下を航過したころ、海上平穏で視界も良く、航路内には他船が見当たらなかったことから気が緩み、眠気を催すようになったが、転針地点を間近にしてまさか居眠りすることはあるまいと思い、A受審人に報告して操船の指揮に当たってもらうなど居眠り運航の防止措置をとることなく、依然いすに腰を掛けた姿勢で進行するうち、間もなく居眠りに陥った。 こうしてB受審人は、01時21分半明石海峡航路西口に向けて転針する予定地点に達したものの、居眠りしていたので転針することができず、明石港に向かってそのまま進行し、01時30分明石港中外港南防波堤灯台から真方位252度30メートルの消波堤に、眞和丸は、原針路、原速力で乗り揚げた。 当時、天候は小雨で風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には微弱な東南東流があり、視界は良好であった。 A受審人は、自室で寝入っていたところ、衝撃を感じて目覚め、直ちに昇橋して乗揚を知り、事後の措置に当たった。 乗揚の結果、船首部に破口及び船首船底外板に凹損をそれぞれ生じたが、間もなく自力で離礁し、ドックに回航のうえ修理され、消波堤が少し欠損したが、のち改修された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、明石海峡航路を西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、転針が行われないまま明石港の消波堤に向首進行したことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対して昇橋地点を具体的に示し、同地点に接近したら報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、眠気を催したときに船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、神戸港の出港操船を終え、明石海峡航路を経由して水島港に向かうにあたり、航海士に船橋当直を引き継ぐ場合、航路通航時には操船の指揮を執ることができるよう、同航路東側での昇橋地点を具体的に示して接近したら報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、東方灯浮標に差し掛かれば自ら昇橋し、操船の指揮を執るつもりでいたので、報告を求めなくても大丈夫と思い、同航路東側での昇橋地点を具体的に示して接近したら報告するよう指示しなかった職務上の過失により、自室で休息しているうちに寝入ってしまい、操船の指揮を執ることができなかったばかりか、船橋当直者が居眠りに陥って居眠り運航となり、明石港の消波堤への乗揚を招き、船首部に破口及び船首船底外板に凹損をそれぞれ生じさせ、同堤を欠損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、単独の船橋当直に就いて明石海峡航路を西行中、眠気を催すようになった場合、居眠り運航とならないよう、船長に報告して操船の指揮に当たってもらうなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針地点を間近にしてまさか居眠りすることはあるまいと思い、船長に報告して操船の指揮に当たってもらうなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、転針することができないまま、明石港の消波堤に向首進行して乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |