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2000年(平成12年)

平成12年横審第59号
    件名
プレジャーボートスコーピオン乗揚事件(簡易)

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年9月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔
    理事官
河野守

    受審人
A 職名:スコーピオン船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部船底外板に破口

    原因
針路選定不適切

    主文
本件乗揚は、針路の選定が不適切で、高潮時に水面下に没している導水堤に向首進行したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月14日20時15分
三重県揖斐川河口
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートスコーピオン
総トン数 10トン
全長 11.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 270キロワット
3 事実の経過
スコーピオンは、製造者型式がTS37と称する、最大搭載人員14人のFRP製モーターボートで、A受審人が船長として乗り組み、友人3人を乗せ、船首0.8メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、主機整備後の試運転及び遊覧巡航の目的を兼ねて、平成11年8月14日11時00分定係場所としている、名古屋港第1区港域奥の堀川上流右岸にあるヨットヤードを出航し、知多半島南岸の内海港に向かい、14時ごろ同港岸壁に着けて休憩した後、15時00分同港を発し、長島温泉で行われる花火見物のため、揖斐川河口に向かった。
A受審人は、時間調整しながら揖斐川河口に向けて北上し、18時ごろ揖斐川口灯台の東200メートルばかりのところに至り、揖斐川導水堤(以下、「導水堤」という。)に沿って上航し、同時30分左岸から500メートル隔てた、桑名港灯台から033度(真方位、以下同じ。)950メートルの地点に錨を入れて待機していたが、同日花火の打ち上げは行われないことになったので、定係場所へ帰るため、20時07分錨を巻き揚げ、針路を桑名港灯台に向く215度とし、機関を半速力前進の毎分1,000回転にかけ、5.0ノットの速力で進行した。

ところで、導水堤は、揖斐川河口の右岸南端にある桑名港灯台から163度方向に2,900メートルの長さで築造され、導水堤から約250メートルの間が可航水深域となっていて、川幅約1,200メートルの中央部に浅洲があって、導水堤は高潮時に水面下に没する状況であったが、その先端に揖斐川口灯台が設置されており、夜間下航するに当たっては、導水堤が視認できなくても、揖斐川口灯台を正船首わずか右に見て163度の針路を保持することにより、航行可能であった。
20時10分A受審人は、桑名港灯台から035度350メートルの地点で、針路を180度に転じ、導水堤沿いに下航することとしたが、同灯台を右舷側に250メートル隔てて航過する状況であったので、折から高潮時に当たり、上航時に見えていた導水堤が、水面下に没していたことに気付かないまま、導水堤に近づけば視認できるものと思い、揖斐川口灯台の方位を確認するなどして適切な針路を選定することなく、もう少し導水堤に近寄るため、同時13分桑名港灯台から143度300メートルの地点で、針路を右に転じ、200度の針路としたところ、水面下に没している導水堤に向首することとなり、20時15分桑名灯台から163度550メートルの地点において、スコーピオンは、同針路、同速力のまま、導水堤に対して、船尾から右方に37度の角度で乗り揚げた。

当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
乗揚の結果、船首部船底外板に破口を生じ、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、高潮時に水面下に没する導水堤沿いに揖斐川を下航する際、針路の選定が不適切で、導水堤に向首進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、高潮時に水面下に没する導水堤沿いに揖斐川を下航する場合、揖斐川口灯台を正船首わずか右に見て導水堤に沿うよう適切な針路を選定すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、導水堤に近寄れば視認できるものと思い、導水堤が高潮時に水面下に没していることに気付かず、適切な針路を選定しなかった職務上の過失により、導水堤に向首進行して乗り揚げ、船首部船底外板に破口を生じさせるに至った。






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