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2000年(平成12年)

平成11年広審第107号
    件名
漁船第八勝栄丸乗揚事件(簡易)

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年8月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷奬一
    理事官
小寺俊秋

    受審人
A 職名:第八勝栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底全般にわたって凹損、左舷船首船底部外板に破口を伴う損傷

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月30日04時35分
鳥取県境港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八勝栄丸
総トン数 19.77トン
登録長 17.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
第八勝栄丸(以下「勝栄丸」という。)は、船尾に操舵室を有するFRP製の漁船で、A受審人ほか甲板手1人が乗り組み、いか釣り操業に従事する目的で、船首0.8メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成10年11月26日07時00分鳥取県境港を発し、隠岐諸島島後の北方約90海里の漁場に向かった。
同船の操業形態は、境港を基地とし、1回の操業期間を3日間連続して行っては基地に帰港し、翌日は休息をとった後、その翌日早朝基地を出航して漁場に至り、そこで引続いて夜間操業を行ったうえ昼間は漂泊して休息をとることを繰返すもので、操業の最終日は、境港における水揚開始時刻である10時を目安に帰途に就くものであった。

A受審人は、同日日没後に前示漁場に到着し、夜間は操業を、昼間は約6時間の睡眠をとる就労を行いながら適宜漁場を移動して操業に従事し、越えて同月29日の薄明時に操業を終え、当日は約3時間の睡眠をとった後、漁場を移動することにしたが、折りから南風が強くなりだしたことから翌日の基地での水揚げ時刻に余裕をもって間に合わすことを考慮して基地に近い海域に移動して操業を行うこととした。
こうしてA受審人は、操業終了後、引続き操船にあたり、18時ごろ島後北北東方約37海里の地点に至り、ここで最後の操業を開始したが不漁で、予定を早めて20時30分帰途に就くことになった。
A受審人は、その後島後東方沖合を南下して翌30日01時17分美保関灯台から001度(真方位、以下同じ。)31.5海里の地点に達したとき、針路を同灯台に向首する181度の針路に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.5ノットの対地速力で進行した。

A受審人は、定針後当分の間このままの針路で美保関灯台を船首目標に南下することになったことからレーダーレンジを2海里とし、同レーダーに装備された他船接近の警報装置を1海里に設定し、暖房のきいた操舵室内で船橋当直に従事することになったが、操業に引続く長時間の連続労働で疲労を感じたことから操舵室右舷後方に置いたいすに腰かけ、壁面に背をもたれた姿勢となって当直にあたることにした。
A受審人は、その後、うとうととした状態となって当直にあたっていたところ、03時57分美保関灯台から001度5海里の地点に達したとき、他船接近の警報装置が作動し、前路に小型漁船を視認して同装置の警報スイッチを切とし、同船を避航し終え、04時ごろ原針路に復したが、このころから強い眠気を催すようになったものの、入航まであとわずかの間だから、がまんして耐えればよいと思い、休息中の甲板員を昇橋させて2人で当直を行うなど、居眠り運航を防止する措置をとることなく、警報装置の警報スイッチを切としたまま再度いすに腰かけて当直に従事した。

その後A受審人は、いすに腰かけたままいつしか居眠りに陥り、04時29分美保関灯台にほぼ向首したまま1海里に接近したが、依然、居眠りしてこのことに気付かず、勝栄丸は04時35分突然、衝撃を受け、美保関灯台から310度300メートルの地蔵埼東岸の浅所に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
乗揚の結果、勝栄丸は、船底全般にわたって凹損を、左舷船首船底部外板に破口を伴う損傷を生じたがのち修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、隠岐海峡において、夜間操業に引続く航海当直に従事中、居眠り運航を防止する措置が不十分で、地蔵埼東岸の浅所に向首したまま進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、隠岐海峡において、夜間操業に引続く航海当直に従事中眠気を感じた場合、連続労働によって居眠り運航となる可能性があったから、船橋当直中に居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を昇橋させて2人で当直を行うなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、入航まであとわずかの間だからがまんして耐えればよいと思い、2人で当直を行うなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、船橋当直中に居眠りに陥り、地蔵埼東岸の浅所に向首したまま進行して乗揚を招き、勝栄丸の船底全般にわたって凹損を、左舷船首船底部外板に破口を伴う損傷を生じさせるに至った。






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