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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年3月10日01時00分 沖縄県渡嘉敷港 2 船舶の要目 船種船名
引船第一阿蘇丸 台船石嶺3号 総トン数 19トン 全長 17.25メートル 45.00メートル 幅 16.00メートル 深さ
3.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
404キロワット 3 事実の経過 第一阿蘇丸(以下「阿蘇丸」という。)は、鋼製の引船で、専ら採石を積載した台船の曳航作業に従事し、A及びB両受審人が2人で乗り組み、船首0.9メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、曳航索200メートルを延出し、採石550トンを載せて船首尾とも1.5メートルの等喫水となった石嶺3号(以下「石嶺」という。)を船尾に引き、平成11年3月9日15時00分沖縄県本部港塩川地区を発し、同県渡嘉敷港に向かった。 ところで、渡嘉敷港は、渡嘉敷島東岸に位置し、同港の東方に位置する城島から西方に延びる珊瑚礁帯と南防波堤とによって囲われ、同防波堤から約250メートル入ったところに内防波堤があった。そして、南防波堤から岸壁に至る約600メートルの水路は屈曲しており、同水路の幅は100メートルばかりで、その両側には陸岸から拡延した浅礁が存在し、水路の南側の浅礁は両防波堤の先端を結んだ線より30メートルばかり張り出していた。そのうえ、夜間は内防波堤の先端に設置された簡易灯標の光力は弱く、南防波堤の先端にある渡嘉敷港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)の灯火しか目標とするものがなかった。 したがって、夜間、入港する場合には、安全に航行できるようレーダーを作動させ、両防波堤や岸壁角などを活用して避険線を設定し、これを監視することにより、船位が確認できるようにする必要があった。 A受審人は、発航後、単独で船橋当直に就き、翌10日00時00分南防波堤灯台から115度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点に達し、入港に備えて曳航索を35メートルに短縮したが、乗船して間がなく、B受審人のほうが自分より渡嘉敷港内の事情をよく知っており、夜間の入港経験も豊富に有していたことから、同受審人に入港操船を任せても大丈夫と思い、自ら同操船を行うことなく、B受審人に入港操船を委ねて船橋左舷側で見張りに就いた。 一方、B受審人は、渡嘉敷港への入港経験が豊富にあり、同港内の事情に精通していて、南防波堤と内防波堤との間に浅礁が拡延していることを知っていたので、夜間入港する際には、南防波堤灯台を目視し、両防波堤間の浅礁を迂回して入港していた。 B受審人は、操船を交代して、1.5ノットの曳航速力で、手動操舵により港口に向かって進行し、00時45分南防波堤灯台から146度520メートルの地点で針路を330度に定め、同時52分半針路を337度に転じ、同時56分少し過ぎ同灯台から053度30メートルの地点で左舵をとって針路を295度としたが、折からの南寄りの風によって北側の浅礁に石嶺が圧流されるのではないかと気になり、後方を見ていて、安全に航行できるようレーダー画面上に避険線を設定してこれを監視するなどして船位の確認を十分に行っていなかったので、南側の浅礁に向く針路で進行していることに気付かなかった。 阿蘇丸引船列は、同じ針路及び速力で続航し01時00分南防波堤灯台から303度155メートルの地点の浅礁に阿蘇丸が乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力3の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 乗揚の結果、阿蘇丸は推進器翼を曲損し、船尾船底に擦過傷を生じたが、救援船により引き降ろされ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、渡嘉敷港に入港する際、船位の確認が不十分で、浅礁に向けて進行したことによって発生したものである。 阿蘇丸の運航が適切でなかったのは、船長が自ら入港操船を行わなかったことと、甲板員が船位の確認を行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、渡嘉敷港に入港する場合、自ら入港操船を行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、B受審人が同港内の事情をよく知っており、夜間の入港経験も豊富に有していたことから、同人に入港操船を任せても大丈夫と思い、自ら入港操船を行わなかった職務上の過失により、浅礁に向かって進行していることに気付かず乗揚を招き、阿蘇丸の推進器翼を曲損させ、船尾船底に擦過傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、渡嘉敷港に入港する場合、港内の水路が狭く屈曲しているうえ、目標とする灯火は南防波堤灯台しかなかったのであるから、安全に航行できるようレーダー画面上に避険線を設定するなどして、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、折からの南寄りの風によって北側の浅礁に石嶺が圧流されるのではないかと気になり、後方を見ていて、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、浅礁に向く針路で進行して乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |