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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年5月2日18時13分 愛媛県井ノ口港東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
交通船かすが 登録長 10.32メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
169キロワット 3 事実の経過 かすがは、船体のほぼ中央部に操舵室を有するFRP製の交通船で、A受審人が1人で乗り組み、同乗者2人を乗せ、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成11年5月2日18時10分半井ノ口港洲ノ鼻防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から231度(真方位、以下同じ。)170メートルの、愛媛県井ノ口港の係留地を発し、荷物受取りの目的で、同港南南東約3海里の同県伯方島西岸の熊口港に向かった。 A受審人は、自動車運搬船等7隻の所有者として運送業を営む傍ら、平成3年にかすがを新造以降、専ら同船をさんぱん用として自らがその操船にあたり、月に幾度か広島県生口島、愛媛県今治港など周辺海域の航行に従事していた。 A受審人は、発航後、防波堤灯台の南側海域を航行し、同灯台から130度1,500メートルの多々羅埼から、その東方の生口島間に架けられた多々羅大橋橋下を航過する進路で目的地に向けて南下することにしたが、多々羅埼の北側約100メートルのところからその北方約200メートルにかけては、幅が約100メートルの楕円形状に延びる浅所があり、その北端から南方にかけては、沖ノ磯、中ノ磯及びコシキ岩が存在し、同浅所は暗岩、洗岩が点在する険礁地で、これらの周辺には変色水が観測されるのを知っており、干潮時に同浅所内を安全に航行することは困難な状況にあったが、平素、幾度か同浅所内を航行した経験もあって、今回もいつものとおり無難に航過することができると思い、発航に先立ち、潮汐表等にあたり、同浅所航行時における可航水深を精査するなど、水路調査を十分に行うことなく航行を開始した。 こうしてA受審人は、18時11分半防波堤灯台から148度380メートルの地点に達したとき、針路を100度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけて21.6ノットの対地速力で進行した。 18時12分少し過ぎA受審人は、防波堤灯台から120度790メートルの地点に達したとき、131度の針路に転じ、中ノ磯に向かう針路となって進行したが,依然、同浅所を無難に航行できると思い、同乗者と談話しながら続航中、18時13分、防波堤灯台から124度1,340メートルの地点において、突然、船底部に衝撃を感じ、中ノ磯の0.2メートルの干出岩に原針路、原速力のまま乗り揚げ、船底を擦過した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であり、潮位は約42センチメートルであった。 乗揚の結果、かすがは、推進器翼、推進器軸及び舵柱を曲損し、乗揚時の衝撃で同乗者のうち1人が右鎖骨を骨折する負傷を負った。
(原因) 本件乗揚は、干潮時愛媛県井ノ口港の係留地を発し、同県伯方島西岸の熊口港に向けて南下する際、同県多々羅埼北側の浅所内を航行するにあたり、発航に先立ち、同浅所内の可航水深に対する水路調査が不十分で、中ノ磯の干出岩に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、干潮時愛媛県井ノ口港の係留地を発し、同県伯方島西岸の熊口港に向けて南下する際、同県多々羅埼北側の浅所内を航行しようとする場合、浅所内で乗り揚げることのないよう、発航に先立ち、潮汐表等にあたり、同浅所内の可航水深に対する十分な水路調査を行うべき注意義務があった。しかるに同人は、平素、幾度か同浅所内を航行した経験もあって、今回もいつものとおり無難に航過することができると思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、乗揚を招き、かすがの推進器翼、推進器軸及び舵柱を曲損し、乗揚時の衝撃で同乗者のうち1人に右鎖骨骨折の負傷を生じさせるに至った。 |