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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年11月4日01時30分 瀬戸内海安芸灘南部 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第十一鋼運丸 総トン数 498トン 全長 77.06メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 3 事実の経過 第十一鋼運丸(以下「鋼運丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか2人が乗り組み、小塊コークス1,313トンを積載し、船首3.13メートル船尾4.47メートルの喫水をもって、平成10年11月3日20時30分広島県福山港を発し、富山県伏木富山港に向かった。 ところで、同船における積荷役中の乗組員の就労体制は、小塊コークスを陸上に固定設置されたシューターで直接船倉にばら積みして行うものであったことから、荷役中を通じて、船体のシフト作業及び積荷の終了した船倉内でのコークスの荷繰り作業に連続して従事することのほか、出港に先立ち、甲板上にこぼれ落ちたコークスの清掃作業などにも全員があたらざるを得ず、これらの作業に引き続いて船橋当直に従事する場合、一部の船橋当直者について一時的に労働が偏ることが避けられない状況となっていた。 A受審人は、このような事情を知りつつも、現状の実態からして、適切な労働配分を行うことができなかったので、船橋当直体制を画一的に毎0時から4時迄の時間帯をB受審人、毎4時から8時までの時間帯を次席一等航海士、そのほかの時間帯は自らが行うことのほか出入港時及び狭水道における操船にもあたることに定めていた。 こうしてA受審人は、出港操船に引き続いて船橋当直に従事し、23時55分来島海峡航路中水道に入り、翌4日00時10分ごろ同航路西口を航過したのち、狭水道での操船を終えてB受審人と船橋当直を交替することにした。 A受審人は、当直交替にあたり、B受審人が、他の社船において船長経験もあり、この付近の海域の航行経験もあったことから、針路、速力を告げて降橋することにしたが、当直中の居眠り防止については、平素から折あるごとに注意を行っており、同人も自覚しているはずで、居眠りの気配があれば報告するであろうから、そのとき対処すればよいものと思い、いちいち注意することはしなかった。 他方、B受審人は、福山港発航日の前日同船に乗船し、翌3日12時30分の荷役開始から20時10分の荷役終了の間、荷繰り作業等に従事し、その後は甲板上の清掃作業を行ったのち身支度後昇橋したものであるが、この間が連続労働となっており、これに引き続く船橋当直で、腰が痛く、立った姿勢で当直にあたることがつらかったことから操舵輪後方にいすを置き、ここに腰かけて当直を行うことにした。 00時30分B受審人は、野忽那島灯台から041度(真方位、以下同じ。)12.5海里の地点の、安芸灘南航路第4号灯浮標(以下「安芸灘南航路」と冠する灯浮標名については号数のみを表示する。)を左舷側900メートルに認めたとき、針路を同灯台に向首する221度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて12.5ノットの対地速力で推薦航路に沿って西行した。 B受審人は、その後窓を閉めて、いすの後方に設置された暖房のきいた操舵室で腰かけた姿勢となって当直を続け、周辺に支障となる他船も見当たらず、視界もよく船首目標に定めた前示灯台の灯光も視認していたことから気がゆるみ、00時54分野忽那島灯台から041度7.5海里の、3号灯浮標を左舷側に視認して航過したあたりから眠気を感じるようになったが、これまで当直中に居眠りをしたことはなかったので、しばらくの間がまんすれば眠気も覚めるだろうと思い、船長に報告するなどして、居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。 01時17分B受審人は、野忽那島灯台から041度2.6海里の地点に達し、2号灯浮標を左舷方に見る状況となって、釣島水道への変針点に達したが、このころ居眠りに陥り、転針しないまま進行中、01時30分突然衝撃を受け、野忽那島灯台から090度50メートルの同島東岸に鋼運丸は原針路・原速力のまま乗り揚げた。 A受審人は、自室で就寝中、衝撃で目覚め、昇橋して事後の措置にあたった。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。 乗揚の結果鋼運丸は、バルバスバウに亀裂を伴う凹損を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、連続労働に従事したのち、安芸灘南航路を単独で船橋当直にあたって西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、野忽那島の東岸に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、連続労働に従事したのち、安芸灘南航路を単独で船橋当直にあたって西行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、船長に報告するなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに同人は、これまで当直中に居眠りをしたことがなかったので、しばらくの間がまんすれば眠気も覚めるだろうと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、野忽那島東岸に向け進行して乗揚を招き、バルバスバウに亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |