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2000年(平成12年)

平成11年広審第25号
    件名
旅客船しらしま引船列乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年7月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

内山欽郎、竹内伸二、工藤民雄
    理事官
安部雅生

    受審人
A 職名:しらしま船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
しらしま及び第八しらしまが、共にプロペラ翼及び推進器軸ブラケットを曲損

    原因
操舵不能(操舵装置用リンク機構連結部の外れ)、操船不適切(乗揚回避措置)

    主文
本件乗揚は、操舵装置用リンク機構の連結部が外れて操舵不能になったことと、操舵不能となった際、乗揚回避のための措置が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月13日16時40分
島根県中村漁港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船しらしま 旅客船第八しらしま
総トン数 17トン 17トン
全長 15.20メートル 15.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 382キロワット 382キロワット
3 事実の経過
しらしまは、出力191キロワットのディーゼル機関2基を主機とし、3枚翼のプロペラ2個を推進器とする2基2軸のFRP製旅客船で、油圧式の操舵装置を備え、船首及び船尾の各格納庫に錨を格納しており、島根県隠岐郡西郷町の中村漁港を基地として、同じ会社に所属するニューしらしま及び自船と同型船の第八しらしまとともに島後周辺の遊覧観光業務に従事していた。
しらしまの操舵装置は、操舵室の舵輪を操作することにより、油圧ポンプからの作動油を操舵機室に設けた油圧シリンダに作用させて同シリンダ付属のレバーを回転させ、同レバーの動きを接続リンクを介して左右舷の舵柄に伝えて左右の舵板を動かす機構になっていたが、操舵室に舵角指示器は設置していなかった。一方、油圧シリンダ付属レバーと接続リンクの連結部は、付属レバーに取り付けたボールジョイントを接続リンクにはめ込んで連結し、ボールジョイントが接続リンクから抜け出さないようセットボルト付きの円筒型のキャップを連結部に被せており、右舵の場合には接続リンクが押されるだけでキャップには力がかからないが、左舵の場合にはキャップが抜け出す方向に力がかかるような構造となっていた。

しらしまが基地とする中村漁港は、島後のほぼ北端に位置する北東方向に開口した湾奥の港で、北護岸に続く東防波堤と東沖防波堤との間が港口となっており、港奥は、中央部に北東方向に設けられた長さ175メートルの内防波堤でほぼ2分され、西側が漁港、東側が長さ約270メートルの砂浜を有する海水浴場となっていた。
ところで、海水浴場側は、内防波堤の対岸から、幅約5メートル長さ約30メートルの下元屋岸壁と通称される岸壁が内防波堤方向に直角に突き出しており、また、同岸壁の45メートルほど砂浜寄りには、消波用として、内防波堤側から1号人工リーフ及び2号人工リーフと称する、いずれも長さ100メートル上部幅25メートルの台形の潜堤が砂浜とほぼ平行に設けられていて、両潜堤の5メートルほど沖側の内防波堤側と対岸側の端には、目印として各々灯浮標が設置されていた。

A受審人は、昭和46年甲板員としてR株式会社に入社し、免状取得後の同50年に船長となり、同59年4月にしらしまが就航してからは、専ら同船に乗り組んで運航及び整備等に携わり、平成7年に同社を定年退職後は、月間7日間ほど、臨時雇いの船長として同船の運航のみに従事していたが、その間、他船を曳航したことも機関や操舵装置の故障を経験したこともなかった。
ところで、A受審人は、喫水が浅く風波の影響を受けやすいしらしまを操船する場合、離・接岸等の行きあしがないときには舵効きが悪かったので、両舷主機を種々操作することによって操船を行っており、また、下元屋岸壁の離・接岸時には、築造当初から潜堤のことをよく知っていたので、当初は潜堤に注意を払っていたものの、次第に慣れ、いつしかほとんど注意を払わずに操船するようになっていた。

平成10年9月13日15時30分ごろしらしまは、A受審人が1人で乗り組み、3回の遊覧観光業務を終えて東防波堤に係留していたところ、船長Bが1人で乗り組んだ第八しらしまが内防波堤で乗客を降ろして基地である西郷港に戻ろうとした際に推進器に異状が生じたとの連絡を受け、原因を調べるため、同船を水深の浅い下元屋岸壁まで移動させ、潜堤側の岸壁に左舷付けさせた。
16時25分ごろしらしまは、点検を終えた第八しらしまを曳航するため、約20メートルの曳航索を第八しらしまの船尾から自船の船首に取り、舵及び機関を種々操作しながら、第八しらしまを潜堤とほぼ平行に20メートルほど内防波堤側に引き出したのち、同索を第八しらしまの船首及び自船船尾の左舷側のたつに付け替えて曳航準備を終えたものの、最後の左舵をとったときに、前示のキャップが長年にわたるセットボルトの緩みから脱落し、舵板が少し左に回転して左舵をとった状態となったまま、油圧シリンダ付属レバーと接続リンクとの連結部が外れ、操舵不能の状況となった。

こうして、16時30分ごろしらしまは、船首0.45メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、潜堤と平行よりやや沖側に向首した状態から、自船とほぼ同喫水の第八しらしまの曳航を開始した。
A受審人は、両舷主機の回転数を毎分550(以下、回転数は毎分のものとする。)の微速前進として曳航索を緊張させたのち、両主機の回転数を1,000に上げ、右舵40度として港口に向かおうと航走を開始したが、船首が右に回頭しないのを認めたので、16時32分一旦曳航を中断した。
ところが、A受審人は、舵効きに異状を感じたものの、今迄に曳航や操舵装置の故障を経験したことがなかったので、操舵装置の故障とは思わず、曳航索を左舷側のたつに取って曳航しているから舵が効かないのだろうと思い込むとともに、機関操作により何とか対処できるものと思い、潜堤に接近して同堤に乗り揚げることのないよう、錨を投入して原因を調査するなど、乗揚回避のための適切な措置を講じることなく、曳航索を右舷側のたつに付け替える作業だけを行い、その間に、しらしま及び第八しらしまが共に湾口からの風と潮流によって圧流されて潜堤に接近したが、このことに気付かなかった。

16時39分半しらしまは、A受審人が、曳航索の付け替え作業を終えたのち、右回頭するため、左舷機の回転数を1,500右舷機の回転数を1,000とし、約3ノットの速力で、左舵をとった状態のまま風波の影響を受けながら進行しているうち、16時40分中村港北防波堤灯台から真方位216度1,070メートルの地点において、潜堤にほぼ平行の状態で自船の船尾部が潜堤の斜面に乗り揚げ、続いて、第八しらしまの船尾部も同堤に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、海上は穏やかで、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、船尾部に衝撃を感じて潜堤に乗り揚げたことを知り、会社に事態を報告してニューしらしまによる曳航を要請するとともに、折から入港してきた漁船に潜堤からの引き下ろしを依頼した。
一方、B船長は、曳航準備作業を終えたのち、第八しらしまの船内で舵の点検のために着用していたウエットスーツを脱いでいたところ、船尾部に異音を認め、同船が潜堤に乗り揚げたことを知った。

乗揚の結果、しらしま及び第八しらしまは、共にプロペラ翼及び推進器軸ブラケットが曲損するなどの損傷を生じ、のちいずれも修理された。

(原因)
本件乗揚は、島根県中村漁港内において、潜堤近くの岸壁から僚船の曳航を開始して間もなく、操舵装置用リンク機構の連結部が外れて操舵不能になったことと、操舵不能になった際、乗揚回避のための措置が不適切で、操舵不能のまま潜堤に接近したこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、島根県中村漁港内において、普段係留岸壁として使用している潜堤近くの岸壁から第八しらしまの曳航を開始して間もなく、舵効に異状を感じた場合、近くの潜堤に乗り揚げることのないよう、投錨して原因を調査するなど、乗揚回避のために適切な措置を講ずべき注意義務があった。ところが、同人は、曳航索を左舷側のたつに取って曳航しているから舵効が悪いものと思い込み、機関操作により何とか対処できるものと思い、乗揚回避のための適切な措置を講じなかった職務上の過失により、操舵不能のまま進行して同堤への乗揚を招き、しらしま及び第八しらしまの各プロペラ翼及び推進器軸ブラケット等に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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