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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年10月20日04時40分 北海道幌泉郡えりも町庶野漁港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第26長宝丸 総トン数 4.96トン 全長 14.25メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
220キロワット 3 事実の経過 第26長宝丸(以下「長宝丸」という。)は、ししゃもけた網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成11年10月20日04時35分北海道幌泉郡えりも町にある庶野漁港中央突堤東側の岸壁を発し、同港南方の沿岸漁場に向かった。 ところで庶野漁港は、東西に延びる岸壁の東端から屈曲して南方に延びる東防波堤と、同岸壁の西端から南方に延びる岸壁の南端から東方に延びる西防波堤に囲まれ、港内は同岸壁の中央部の突堤により東西に2分され、西防波堤の水路幅は約70メートルに狭められ、同防波堤突端には庶野港西防波堤灯台が設置されていた。東防波堤の南南東方に約350メートルに延びる外東防波堤が築造され、その南端から50メートルのところまで同防波堤の延長工事が行われており、また、外東防波堤の中央部付近の西方110メートルのところから西方に120メートルに延びる南防波堤が築造されており、その東端から東方25メートルのところまで防波堤延長工事が行われており、両防波堤の入口の水路幅は約100メートルに狭められ、両防波堤には標識灯が設置されていなかった。 A受審人は、庶野漁港を基地として毎日出漁していたので、前示水路状況を熟知しており、出航する際は、東防波堤と西防波堤の入口を通過したのち外東防波堤の内側に沿って南下し、南防波堤の東端の目測により同防波堤東端を十分離して南下していた。 A受審人は、発航時から1人で操舵に当たり、レーダーは作動させていなかったものの、拡大表示としたGPSプロッターを作動させて同プロッター画面上に庶野漁港の防波堤を表示させ、操舵室屋上に装備された探照灯を点灯して周囲の状況を目視により確認し、低速力で適宜変針しながら港内の突堤の間を通り抜けたのち東防波堤の内側に沿って南下し、04時39分庶野港西防波堤灯台から153度(真方位、以下同じ。)80メートルの地点に達したとき、外東防波堤と南防波堤との間を航過するつもりで、針路を169度に定め、機関を回転数毎分1,200の半速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。 定針したときA受審人は、庶野漁港に常時出入航して慣れた水域であり、左舷方の外東防波堤に沿って南下すれば無難に出航できるものと思い、探照灯を同方向に照射して、前日嵩(かさ)上げ工事が実施された同防波堤を見ていたため、前路の見張りが不十分となり、南防波堤東端の防波堤延長工事中の水面下の消波ブロックに向首していることに気付かず続航中、長宝丸は、04時40分庶野港西防波堤灯台から164度270メートルの地点で、同消波ブロックに原針路、原速力のまま乗り揚げ、擦過した。 当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。 A受審人は、そのまま漁場向け続航したところ、間もなく魚倉内に浸水していることに気付いて、僚船に同航を依頼して、急ぎ庶野漁港に引き返した。 乗揚の結果、右舷側船底部に破口を生じ、港内岸壁に係留したところ、同破口部からの浸水のため海底に着座し、機器その他に濡損を生じ、その後クレーン船により引き揚げられ、廃船処分された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、庶野漁港を発航中、見張り不十分で、同港内の南防波堤東端の防波堤延長工事中の海面下の消波ブロックに向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、庶野漁港を発航する場合、南防波堤東端の防波堤延長工事中の海面下の消波ブロックに乗り揚げないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、常時出入航して慣れた水域であり、外東防波堤に沿って南下すれば無難に出航できるものと思い、探照灯を左舷方に向けて、前日嵩上げ工事が実施された外東防波堤を見ることに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、南防波堤東端の防波堤延長工事中の海面下の消波ブロックに向首していることに気付かないまま進行して乗揚を招き、右舷側船底部に破口を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |