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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年1月22日03時55分 関門海峡西口付近 2 船舶の要目 船種船名
漁船第七光照丸 総トン数 369トン 全長 57.16メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 3 事実の経過 第七光照丸(以下「光照丸」という。)は、かつお一本つり漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人及びB受審人ほか22人が乗り組み、生餌(え)積込の目的で、魚倉に海水バラスト240トンを張り、船首2.50メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成11年1月20日07時00分静岡県焼津港を発し、速吸瀬戸及び関門海峡経由で長崎県佐世保港に向かった。 A受審人は、翌21日20時00分水ノ子島灯台北方4海里で自ら船橋当直に就き、甲板部員2名を2時間交替で見張りに当たらせ、翌22日02時00分ごろ昇橋したB受審人が見張りに加わって同時50分関門航路に入航した。 ところで、関門海峡西口の竹ノ子島西方沖合には、市ケ瀬及び平瀬と称する浅所が南北に350メートルばかり離れて位置し、市ケ瀬の北側と平瀬の西側に関門航路の側端を示す同じ灯質の関門航路第3号灯浮標(以下、灯浮標の名称に冠する「関門航路」を省略する。)及び第5号灯浮標がそれぞれ設置され、また水深3.1メートル以下の浅所が竹ノ子島西端から市ケ瀬南東方沖合50メートルのところまで拡延していた。 A受審人は、これまで船長として関門海峡を3回通航した経験があり、竹ノ子島沖合では、第5号灯浮標の南西方で針路を六連島のウドノ鼻に向く000度(真方位、以下同じ。)とし、第5号灯浮標の西方沖合320メートルのところを航過し、第3号灯浮標の西方沖合380メートルの地点に至って針路を北東に転じるよう操船していた。 こうして、A受審人は、操舵輪の後方に立ってレーダーにより周囲の状況を確認しながら操舵と操船に当たり、他の船舶との距離を保つため、適宜、速力の調整及び自動操舵と手動操舵との切替えを行って西行し、03時43分半少し過ぎ西山灯台から244度960メートルの地点に達したとき、針路を316度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進から少し下げた8.5ノットにかけ、折からの潮流に抗して7.8ノットの対地速力で進行した。 03時51分少し過ぎA受審人は、台場鼻灯台から221度680メートルの、ウドノ鼻を355度に見る地点に差し掛かったとき、右舷船首45度付近に竹ノ子島の北方沖合を南下する2隻の動力船の灯火を認め、両船と左舷を対して航過するよう針路を000度に転じ、航路の右側端を北上した。 A受審人は、03時53分少し前第5号灯浮標が右舷正横70メートルに並んだとき、接近した反航船に気を奪われ、灯火を一瞥(べつ)しただけで同灯浮標を転針目標としていた第3号灯浮標と思い、使用していたレーダーにより、台場鼻灯台や周囲の灯浮標の位置関係を確かめるなどして船位を十分に確認することなく、右転して針路を023度としたところ、竹ノ子島西端から市ケ瀬南東方沖合に拡延する浅所に向首する態勢となった。 一方、B受審人は、単独で関門海峡を通航した経験がなく、同海峡の通航方法を修得するため自主的に昇橋したもので、平素、A受審人が在橋中、同人が操舵や速力の調整などすべて1人で行っていたうえ、同人から灯浮標などを見るようにと言われたものの、特に船位を報告するようにとの具体的な指示がなかったことから、いつものように同人が1人ですべてを行って通峡するので船位を報告する必要はないものと思い、第3号及び第5号灯浮標の灯火などの目視により船位を同人に報告することなく、操舵室の右舷側で台場鼻潮流信号所の電光表示などを見ていた。 A受審人は、灯浮標を間違えて転針したことに気付かないまま続航し、03時55分台場鼻灯台から324度420メートルの地点において、光照丸は、原針路、原速力のまま、竹ノ子島西端から市ケ瀬南東方沖合に拡延する浅所に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には0.7ノットの南流があった。 乗揚の結果、中央部船底外板に凹損を、魚群探知器の送受波器及びプロペラに損傷を生じ、来援した引船によって引き下ろされ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、関門海峡西口付近において、竹ノ子島西方の関門航路を北上中、第3号灯浮標を転針目標にして針路を転じる際、船位の確認が不十分で、同島西端から拡延する浅所に向首進行したことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、船長が、自ら船位を確認しなかったばかりか、一等航海士に対して船位を報告するよう指示しなかったことと、一等航海士が、船位を報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、関門海峡西口付近において、竹ノ子島西方の関門航路を北上中、第3号灯浮標を転針目標にして針路を転じる場合、他の灯浮標と間違えて転針することがないよう、使用していたレーダーにより、台場鼻灯台や周囲の灯浮標の位置関係を確かめるなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、反航船に気を奪われ、灯火を一瞥しただけで間違いないと思い、レーダーにより台場鼻灯台や周囲の灯浮標の位置関係を確かめるなどして船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、第5号灯浮標を第3号灯浮標と間違えたまま右転し、竹ノ子島西端から市ケ瀬南東方沖合に拡延する浅所に向首進行して同浅所に乗り揚げ、中央部船底外板に凹損を、魚群探知器の送受波器及びプロペラに損傷をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人が、夜間、関門海峡西口付近において、竹ノ子島西方の関門航路を北上中、第3号及び第5号灯浮標などの目視により船位をA受審人に報告しなかったことは本件発生の原因となる。 しかしながら、このことは、いつものとおり、A受審人が1人で操舵と操船に当たって通峡していたうえ、同人から具体的な指示もなく、操船模様も知らなかった点、関門海峡の通航方法を修得するため自主的に昇橋していた点に徴し、B受審人の職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。 |