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2000年(平成12年)

平成11年門審第88号
    件名
漁船第七十八新栄丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年6月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

原清澄、佐和明、西山烝一
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:第七十八新栄丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
ほぼ中央部船底外板に破口を伴う凹傷等

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月22日05時00分
大分県佐伯湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七十八新栄丸
総トン数 80トン
全長 37.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 672キロワット
3 事実の経過
第七十八新栄丸(以下「新栄丸」という。)は、従業区域を丙区域とし、大中型まき網漁業船団の網船として操業に従事する鋼製漁船で、灯船3隻、運搬船2隻の6隻で船団を組み、A受審人ほか14人が乗り組み、主としてあじを漁獲する目的で、船首2.3メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、平成10年10月21日16時30分大分県二又漁港を発し、同港北東方沖合12海里ばかりの漁場に向かった。
ところで、大分県南海部郡鶴見町を根拠地とするまき網漁船は、旧暦の15日から19日までと、各月の第2、第4土曜日及び盆と年末年始の市場の休みに合わせて休業するほか、周年にわたり、荒天時を除く日没から日出までの操業に従事していた。

A受審人は、出港後、機関を11.0ノットの全速力前進にかけて佐伯湾を航行し、蒲戸埼を左舷正横付近に見るようになったころ、速力を種々調整しながら魚群の探索を始め、18時ごろ高甲岩灯台から076度(真方位、以下同じ。)4.2海里ばかりの漁場に至り、しばらく付近海域を探索したのち、翌22日00時同灯台から117度5海里の地点で投網を開始し、02時30分第1回目の操業を終え、付近で錨泊して集魚中の、漁ろう長が乗り組んだ灯船の周辺海域で、対象魚の有無や潮流模様の調査を終えたのち、次の操業予定が決まっていなかったので、03時30分竹ケ島灯台から052度5.8海里のところに、錨索を130メートルばかり繰り出して錨泊し、仮眠をとりながら漁ろう長からの操業の指示を待った。
04時10分ごろA受審人は、漁ろう長から無線電話で対象魚がいないので操業を打ち切る旨の連絡を受けて帰港することにし、他の乗組員2人とともに揚錨作業にかかり、同時24分同作業を終えたのち、単独の船橋当直に就き、針路をプロッターに入力した二子島と西ノ瀬灯浮標のほぼ中間に向く227度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折りからの潮流で2度ばかり左方に圧流されながら、11.3ノットの対地速力で進行した。

発進時、A受審人は、第4土曜日の定休日を翌々日に控えて疲労が蓄積していたうえ、短時間の仮眠の後で眠気がいくぶん残った状態で、このまま単独の船橋当直を続けると居眠りするおそれがあったが、いつものことでまさか居眠りすることはあるまいと思い、発進するにあたり、休息中の乗組員を昇橋させて2人で当直するなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、操舵輪の後方に置いたいすに腰を掛け、操舵室前面左舷側に設置したレーダーを作動させて1.5海里レンジとし、同レーダーの画面を見たり、前路を見たりしながら続航した。
04時47分ごろA受審人は、竹ケ島灯台から074度1.4海里ばかりの地点に達したころ居眠りに陥り、自船の針路が野崎鼻東岸に向首していることに気付かないまま進行中、たまたま甲板上に出て平素と周囲の状況が異なるのを認めた機関長に起こされ、急いで機関を全速力後進にかけたが、及ばず、05時00分竹ケ島灯台から194度1.4海里の野崎鼻東岸に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。

当時、天候は晴で風力1の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
乗揚の結果、船体ほぼ中央部船底外板に破口を伴う凹傷などを生じたが、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、大分県佐伯湾北東方沖合において、同県二又漁港に向けて帰港中、居眠り運航の防止措置が不十分で、野崎鼻東岸に向けて進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、漁場での操業を終えたのち、大分県佐伯湾北東方沖合を同県二又漁港に向け、単独の船橋当直にあたって帰港する場合、連日の夜間操業で疲労が蓄積していたうえ、短時間の仮眠の後で眠気がいくぶん残った状態にあったから、当直中に居眠りしないよう、他の乗組員を昇橋させて2人で当直するなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、発進時に仮眠の後で眠気がいくぶん残っていたものの、いつものことでまさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いすに腰を掛けて当直中に居眠りに陥り、野崎鼻東岸に向首したまま進行して同岸への乗揚を招き、船底ほぼ中央部外板に破口を伴う凹傷などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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