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2000年(平成12年)

平成12年広審第3号
    件名
貨物船しんあさひ乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年6月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷獎一、工藤民雄、内山欽郎
    理事官
上中拓治、小寺俊秋

    受審人
A 職名:しんあさひ船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船底外板に破口を伴う亀裂、船底のバラストタンク内に浸水

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月27日20時20分
備讃瀬戸東部
2 船舶の要目
船種船名 貨物船しんあさひ
総トン数 150トン
全長 48.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 353キロワット
3 事実の経過
しんあさひは、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人が乗り組み、機関一式等約42トンを載せ、船首0.25メートル船尾2.25メートルの喫水をもって、平成10年11月27日17時兵庫県東播磨港を発し、愛媛県波方港に向かった。
同船の労働形態は、就航航路が主に神戸製鋼加古川製鉄所からの鋼材製品を阪神諸港及び瀬戸内海諸港に輸送するものであり、比較的短距離の航海が多かったことから、乗組員は、ほぼ連日の出入港作業とこれに引続く船橋当直、荷役監督作業に従事するほか、出港に際しては積荷の固縛作業にあたることになっていた。

A受審人は、同船の船橋当直体制を原則として輪番の3時間交替とし、当直時間帯については、格別定めず、労働時間を配慮したうえ、適宜、流動的に運用していた。
発航後、A受審人は、港内操船を終えて降橋して食事をとり、18時ごろB指定海難関係人に食事をとらせるために昇橋し、兵庫県家島諸島の北側海域を西行して19時少し前昇橋した同人と交替し、船橋当直を行わせることにした。
ところで、B指定海難関係人は、数日前から風邪気味で、当日の午前中、積荷の固縛作業を終えたのち、付近の病院で診察を受け、このときに投薬された風邪薬を夕食後服用していたものであるが、傭船者の神戸製鋼所からの内部規則では、眠気を催す風邪薬等の服用後は、単独での船橋当直に従事することを制限する旨の通達が行われていた。
A受審人は、B指定海難関係人が通院して風邪薬を服用していたことを知っていたが、当直を交替するに際し、同人に船橋当直を行わせても無難と思い、眠気を催したら報告する旨の指示をするなど、居眠り運航の防止措置を徹底することなく、船橋後部のソファーに横たわり仮眠をとることにした。

こうして、19時00分B指定海難関係人は、備前黄島灯台(以下「黄島灯台」という。)から070度(真方位、以下同じ。)12.5海里の地点に達したとき、針路を250度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.5ノットの対地速力で進行した。
B指定海難関係人は、その後、操舵輪後方のいすに腰かけた姿勢となって、眠気を感じると時折いすから立ち上がっては操舵室内を歩いて船橋当直に従事し、播磨灘北航路を西行して下津井瀬戸に向け航行した。
19時42分B指定海難関係人は、黄島灯台から070度6海里の地点に達し、播磨灘北航路第5号灯浮標(以下、播磨灘北航路と冠する灯浮標名については号数のみ表示する。)を左舷側約300メートルに見るようになったとき、黄島灯台と4号灯浮標のほぼ中央に向首する245度の針路に転じることとしたが、折からの南風と波浪により船体動揺が激しくなり、積荷の移動が不安であったことから、しばらくの間、原針路を維持して、北側の岡山県本土沿いに航行することとした。

その後B指定海難関係人は、服用していた風邪薬のためか強い眠気を感じるようになったが、平素、船橋当直中に居眠りをしたことがなかったので、しばらくすれば眠気が覚めるものと思い、仮眠中の船長に報告して当直を交替するなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに腰かけたままの姿勢となって当直にあたるうち、いつしか居眠りに陥った。
20時08分B指定海難関係人は、4号灯浮標を左舷側1,600メートルに航過し、黄島灯台の灯火を正船首2海里に認め得る状況となったが、依然、居眠りしていてこのことに気付かず、同灯台至近の南側の陸岸に向首して続航中、20時20分突然の衝撃を受け、黄島灯台から180度5メートルの地点に、しんあさひは原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は小雨で風力3の南風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。

A受審人は、衝撃により目覚め、事後の措置にあたった。
乗揚の結果、しんあさひは、船底外板に破口を伴う亀裂を生じ、船底のバラストタンク内に浸水したが、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、播磨灘北航路を西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、黄島灯台の南側陸岸に向首進行したことによって発生したものである。
しんあさひの運航が適切でなかったのは、船長が部下に船橋当直を行わせる際、眠気を催したら報告する旨を指示するなど、居眠り運航防止措置を徹底しなかったことと、当直者が、眠気を感じた際、船長に報告して当直を交替しなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、播磨灘北航路を西行中、船橋当直をB指定海難関係人に行わせる場合、同人が風邪気味で、通院して風邪薬を服用していることを知っていたのであるから、船橋当直中に同人が居眠りに陥ることのないよう、眠気を催したら報告する旨の指示をするなど、居眠り運航の防止措置を徹底させておくべき注意義務があった。しかるに同人は、当直交替に際し、B指定海難関係人に船橋当直を行わせても無難と思い、居眠り運航の防止措置を徹底しなかった職務上の過失により乗揚を招き、しんあさひの船底外板に破口を伴う亀裂を生じさせ、船底バラストタンク内に浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、播磨灘北航路を西行中、眠気を感じた際、船長に報告せず、居眠りに陥ったことは本件発生の原因となる。

B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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