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2000年(平成12年)

平成11年長審第90号
    件名
漁船第七十八漁生丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年5月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

森田秀彦、平野浩三、河本和夫
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:第七十八漁生丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船首部船底に数か所の凹損、ソナー及び魚群探知機が脱落

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月24日00時15分
五島列島中通島
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七十八漁生丸
総トン数 297トン
全長 52.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第七十八漁生丸(以下、「漁生丸」という。)は、大中型まき網漁業船団に属する船尾船橋型鋼製運搬船で、A受審人、B指定海難関係人ほか7人が乗り組み、平成10年5月14日08時00分船団とともに長崎県青方港を出航し、対馬東岸沖合において操業を始め、その後五島列島西岸沖合の漁場へと操業を続けながら南下し、同月23日06時20分漁獲物約25トンを載せて同漁場を発進し、同日12時20分佐賀県唐津漁港に至り、着岸して水揚げののち船首2.10メートル船尾3.20メートルの喫水でもって同日19時20分同漁港を発し、船団が操業を続けている五島白瀬灯台の南西方の漁場に向かった。

A受審人は、航海当直を自らと甲板員3人による2時間交替の単独当直制としていたが、B指定海難関係人が航海当直者として未熟で当直を任せることができず、B指定海難関係人の当直のときは常に在橋し、同人を見張りと操舵に当たらせ、適宜指示を与えながら自ら操船指揮を執っていた。
ところで、A受審人は、漁場発進後数時間ほど休息をとったが、唐津漁港入航操船、水揚げ作業、出航操船とほとんど休む暇がなく、前日までの操業と相まって疲労が蓄積した状態にあった。
こうして、A受審人は、出航操船に引き続いて航海当直に入り、20時00分他の甲板員と当直を交代したが、21時00分再び単独で航海当直につき、平戸島北部の白岳瀬戸、生月島南部の辰ノ瀬戸を航過し、22時36分生月長瀬鼻灯台から142度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点において、針路を五島列島津和崎瀬戸南側入り口に向首する231度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。

23時00分A受審人は、生月長瀬鼻灯台の南西方5.0海里の地点でB指定海難関係人が昇橋して来たとき、同人に対して針路速力と自動操舵である旨を告げて見張りに当たらせた。
A受審人は、津和崎瀬戸においては自ら操船指揮を執るつもりでいたものの、同瀬戸にかかるまでにはまだ1時間ほどあることから、それまでの間船橋右舷側のソファーで休むこととしたが、その際、居眠りに陥っていたときにはB指定海難関係人が起こしてくれるものと思い、同人に対して、居眠りに陥っていたときには必ず起こすよう指示するなど居眠り運航の防止措置をとることなく、また同瀬戸に接近し、島影が見えたときには報告するよう指示しないまま、ソファーに両足を伸ばして横になっているうち、いつしか居眠りに陥った。
一方、B指定海難関係人は、昇橋後見張りにつき、翌24日00時03分津和埼灯台から092度1.8海里の地点に達したとき、左舷前方1.5海里のところに前島の島影を認めたが、直ちに船長に報告せず、同時10分前島に並航して中通島まで1.0海里に接近したとき、A受審人に声をかけたが、返事がなく、同人が居眠りに陥っているのを認めたが、体をゆするなどして同人を起こすことなく、その後不安となって操舵を手動に切り替え、舵輪を持ったまま4、5回声をかけたものの、そのまま続航した。

00時15分漁生丸は、津和埼灯台から183度1.6海里の地点において、原針路、原速力のまま中通島北部の東岸に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、視程は良好であった。
A受審人は、衝撃で目覚め、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、船首部船底に数か所の凹損を生じ、ソナー及び魚群探知機を脱落した。


(原因)
本件乗揚は、夜間、五島列島北部に向けて西航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、陸岸に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が狭水道に達するまでの間、船橋内で休息をとる際、相当直の甲板員に対して、居眠りに陥っていたときには必ず起こすよう指示するなど居眠り運航の防止措置が十分でなかったこと及び狭水道に接近して島影を認めたときには報告するよう指示しなかったことと、相当直の甲板員が居眠りに陥っている船長を認めた際、同人を起こさなかったこと及び島影を認めた際、直ちに船長に報告しなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、航行中、狭水道に達するまでの間船橋内で休息をとる場合、同水道においては自ら操船の指揮を執るつもりでいたのであるから、操船指揮を執ることができるよう、相当直の甲板員に対して居眠りに陥っていたときには必ず起こすよう指示するなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は居眠りに陥っていたときには、相当直の甲板員が起こしてくれるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、中通島東岸に向首したまま進行して乗揚を招き、船首部船底に数か所の凹損を生じさせ、ソナー及び魚群探知機を脱落させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、居眠りに陥っている船長を認めた際、同人を起こさなかったことは、本件発生の原因となる。

B指定海難関係人に対しては勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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