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2000年(平成12年)

平成11年長審第87号
    件名
漁船向井丸乗揚事件(簡易)

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年5月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

平野浩三
    理事官
尾崎安則

    受審人
A 職名:向井丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首船底板に破口、船長が胸部打撲、同人の妻が3週間の治療を要する全身打撲

    原因
針路保持不十分

    主文
本件乗揚は、針路の保持が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
1 事件発生の年月日及び場所
平成10年8月26日04時05分
長崎県臼浦港、相浦港間の水路
2 船舶の要目
船種船名 漁船向井丸
総トン数 2.1トン
登録長 7.22メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 25
3 事実の経過
向井丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が船長としてほか同人の妻が乗り組み、船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成10年8月26日04時01分長崎県臼浦港柳ノ浦の係留岸壁を発し、前日仕掛けた網を揚げるため、同県相浦港魚見鼻沖合の刺網設置場所に向かった。
ところで、発航地点から目的地沖合に至るまでは、長さ約1海里で水深が2メートルから10メートルの屈曲した水路で、両岸から低潮時に干出する岩礁が張り出し、可航幅が100メートルから200メートルに狭められており、A受審人が常時航行している水路で慎重な操舵により水路の中央部を航行する必要があった。

04時04分少し過ぎA受審人は、肥前大平瀬灯標(以下「大平瀬灯標」という。)から019度(真方位、以下同じ。)2,440メートルの地点において、可航幅が約120メートルに狭められた水路の屈曲部に差し掛かったとき、針路を121度に定め、機関を全速力前進にかけ、19.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
04時04分半少し過ぎ船首部にいた妻のことが気になっていたA受審人は、大平瀬灯標から025度2,420メートルの転針予定地点に達したとき、狭い水路を高速力で航行中、船首が偏向し始めると短時間で岩礁に著しく接近するから、厳重に針路を保持する必要があるにもかかわらず、転針したのちわずかの間操舵を放置しても直進するものと思い、同速力のまま、両岸の島影を頼りに針路を水路の中央部に向く155度に転じたが、操舵により針路を保持することなく、舵を中央として操舵位置から離れ、妻の様子を見に船首部に赴いた。

その途中A受審人は、船首が次第に右方に偏向し、右舷前方約200メートルの母島付近の岩礁に向かっていることに気付かず、同速力で進行し、04時05分肥前大平瀬灯標から027度2,200メートルの地点において、船首が200度に向いて岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船首船底板に破口を生じ、乗揚の衝撃により、A受審人は胸部打撲、妻Bは3週間の治療を要する全身打撲を負った。


(原因)
本件乗揚は、夜間、長崎県臼浦港、相浦港間の屈曲した狭い水路において、高速力で航行中、針路の保持が不十分で、岩礁に向かって進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、長崎県臼浦港、相浦港間の屈曲した狭い水路を航行する場合、高速力で航行中、船首が偏向し始めると短時間で岩礁に著しく接近するから、厳重に針路を保持すべき注意義務があった。しかしながら同人は、わずかの間操舵を放置しても直進すると思い、操舵により針路を保持しなかった職務上の過失により、舵を中央として操舵位置を離れた結果、船首が偏向して岩礁に向かって進行して乗揚を招き、船首船底板に破口を生じ、A受審人が胸部打撲、同人の妻が3週間の治療を要する全身打撲を負うに至った。






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