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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月17日05時20分 八代海黒之瀬戸 2 船舶の要目 船種船名
貨物船新福栄丸 総トン数 173トン 全長 49.99メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
441キロワット 3 事実の経過 新福栄丸は、主に博多港と鹿児島県米ノ津港及び北九州諸港間の飼料輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長B及び受審人Aが機関長としてほか1人が乗り組み、空船で、船首1.8メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成10年9月17日04時15分米ノ津港を発し、八代海から外洋に通じる常用の黒之瀬戸経由で博多港に向かった。 ところで、黒之瀬戸は、ほぼ南北方向に延び、長さ約2海里で、瀬戸南部に位置する淵ノ尻灯標付近が最狭部で陸岸から浅瀬が張り出していて、船舶の可航幅が約200メートルであった。 B船長は、米ノ津港の出港から操船指揮に当り、04時50分名護港防波堤灯台から102度(真方位、以下同じ。)4.2海里の地点において船長経験豊富な父親のA受審人と交代して食事のため降橋した。 05時14分A受審人は、黒之瀬戸橋梁灯(C1灯)の直下に達し、淵ノ尻の浅瀬を約50メートル離して航過するよう針路を193度に定め、機関を10.0ノットの全速力前進にかけて手動操舵とし、法定灯火を表示し、0.5ノットの潮流に乗じて進行した。 05時15分A受審人は、前路の水道の両側に多数の操業中の漁船の灯火を認め、機関を半速力前進に減じるとともに、注意喚起信号のつもりで汽笛による短音1回を吹鳴し、同針路のまま7.5ノットの対地速力で続航し、同時18分右舷船首10度300メートルに不規則な動きをする漁船を認め、その後淵ノ尻の浅瀬付近から自船の前路を左方に移動を始め、このままでは衝突のおそれがあると知ったが、更に接近してから操舵により漁船を避けても浅瀬を替わすことができると思い、浅瀬を無難に航過できるよう、減速のうえ漁船の航過を待つなどして針路を保持しなかった。 05時20分少し前A受審人は、同浅瀬が船首わずか右80メートルに接近したとき、同漁船と衝突の危険を感じて、右舵一杯、機関を中立として右回頭し、同漁船が左舷側に替わると同時に左舵一杯としたが、及ばず、05時20分小平瀬鼻灯台から350度1,150メートルの地点において、船首が170度に向いて4.0ノットの行きあしとなったとき、浅瀬を乗り切った。 B船長は、機関が中立になって自船の異変に気付き、急いで昇橋して事後の処理に当たった。 当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、潮流は0.5ノットの南流で、潮候は上げ潮の末期であった。 乗揚の結果、船底部に凹損を生じたが、最寄りの造船所に自力航行し、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、八代海から外洋に通じる黒之瀬戸において、浅瀬が存在する最狭部付近を航行中、前方に不規則な動きをする漁船を認めた際、針路の保持が不十分で、前方の漁船を避けようとして右転したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、一人で当直中、八代海から外洋に通じる黒之瀬戸において、浅瀬が存在する最狭部付近を航行中、前方に不規則な動きをする漁船を認めた場合、右舷船首方に淵ノ尻の浅瀬があったから、同浅瀬を無難に航過できるよう、減速のうえ漁船の通過を待つなどして針路を保持すべき注意義務があった。しかしながら、同人は前方の漁船に更に接近してから操舵により避けても浅瀬を無難に航過できると思い、減速のうえ漁船の通過を待つなどして針路を保持しなかった職務上の過失により、漁船と著しく接近する事態を招き、同漁船を避けようとして右転して浅瀬に乗り揚げ、船底部に凹損を生じるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |