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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年5月27日22時40分 福岡湾 2 船舶の要目 船種船名
貨物船太完丸 総トン数 534トン 全長 68.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
1,176キロワット 3 事実の経過 太完丸は、福岡県博多港を基地とし、専ら同港から島根県北西方沖合80海里に設定された指定海域への産業廃棄物投棄に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか7人が乗り組み、建設汚泥1,360トンを載せ、海中投棄の目的で、船首4.20メートル船尾5.20メートルの喫水をもって、平成10年5月27日21時40分博多港を発し、指定海域に向かった。 これより先、A受審人は、同27日前示海域からの帰途、01時30分から船橋当直と入航操船に当たり、07時30分博多港須崎埠頭に着岸したあと12時00分まで積荷役が行われたが、自らは、09時00分から17時00分までの間、福岡海上保安部に出頭して産業廃棄物の海中投棄方法に関する事情聴取を受け、同時20分帰船したものの、気分が高まって睡眠をとることができないまま、来船していたR株式会社の社員を相手に500ミリリットル入りの缶ビールを2本ばかり飲み、そのあと1時間休息しただけで同港を発航した。 ところで太完丸は、博多港から17時間ばかり要して指定海域に到着したのち、対水速力をおよそ5ノットに調整して約2時間で産業廃棄物を海中投棄し、その後同港に戻っていたもので、A受審人は、船橋当直を同人と一等航海士を含む4人による単独4時間交替制とし、自らは、出入航操船、海中投棄中の操船及び作業指揮並びに発航後及び入航前各4時間の船橋当直に当たり、他の乗組員が船橋当直の際に休息をとっていた。また、同船は、07時00分から24時00分の間に入航し、積荷役を当日または翌日の日中に行い、満潮を待って発航していたことから、入航後あるいは積荷役終了後に、同受審人はじめ乗組員全員が、自宅に帰るなどして休息をとることが多かった。 A受審人は、発航操船ののち単独の船橋当直に当たって博多港中央航路を西行し、同航路出口付近で操業中の漁船を右舷側に替わし、22時05分少し過ぎ博多港端島灯台から219度(真方位、以下同じ。)860メートルの地点に達したとき、針路を292度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行した。 定針したあとA受審人は、睡眠不足と発航前に飲んだビールの酔いが多少残った状態で、操舵室左舷側のいすに腰を掛け、志賀島南西端の叶ノ鼻を右舷正横に見たとき転針するつもりで見張りに当たっていたところ、やがて眠気を催すようになった。しかし、同人は、狭隘(きょうあい)な福岡湾内を航行中に、まさか居眠りすることはないものと思い、次直の一等航海士を呼んで2人当直にするなど、居眠り運航の防止措置をとることなく船橋当直を続けるうち、いつしか居眠りに陥った。 こうしてA受審人は、22時17分叶ノ鼻南方沖合の転針予定地点に差し掛かったものの、居眠りしていたのでこのことに気付かず、転針が行われないまま福岡湾西部のクタベ瀬に向首進行し、22時40分西浦岬灯台から059度1,420メートルの地点において、太完丸は、クタベ瀬北側の浅所に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の末期であった。 乗揚の結果、船首部船底外板に破口を伴う凹損を生じて浸水したが、来援した引船によって引き下ろされて自力で博多港に戻り、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、福岡湾において、博多港中央航路を通過後、同湾口に向けて西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われず、クタベ瀬に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、福岡湾において、博多港中央航路を通過後、同湾口に向けて西行中、眠気を催した場合、睡眠不足と発航前に飲んだビールの酔いが多少残った状態であったから、居眠り運航とならないよう、次直の一等航海士を呼んで2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、狭隘な福岡湾内を航行中に、まさか居眠りをすることはないものと思い、次直の一等航海士を呼んで2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、予定の転針ができないままクタベ瀬に向首進行して乗揚を招き、太完丸の船首部船底外板に破口を伴う凹損を生じて浸水させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |