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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月8日05時58分 宮崎県都井岬北方 2 船舶の要目 船種船名
瀬渡船富丸 全長 10.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
147キロワット 3 事実の経過 富丸は、宮崎県串間市市木漁港の石波船だまりを基地とし、都井岬から同漁港間の沿岸沖合に散在する水上岩への釣客輸送に従事するFRP製瀬渡船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客12人を乗せ、船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成10年2月8日05時20分同船だまりを発し、都井岬東方沖合に向けて南下した。 ところで、富丸にはレーダーを装備していなかったが、A受審人は、長年同海域で瀬渡し業務に携わって地形を十分に知っていたので、夜間の航海では、装備していた磁気コンパスや都井岬灯台の灯火及び陸影を確認しながら航行し、目的の釣場に近づいたときに岩場を探照灯で照射して接岸し、釣客を渡すことにしていた。 A受審人は、都井岬灯台東方500メートルばかりにある通称大黒瀬に3人の釣客を降ろしたのち、05時40分反転して北上し、同瀬から北方1.8海里の通称中ノ瀬に向かい、同瀬で3人の釣客を降ろし、同時48分中ノ瀬北東方1.3海里にある七ツ岩と称する釣場に向かい、同時55分ここで4人の釣客を降ろした。 七ツ岩は、海岸線から150メートルほど南方沖合にある水上岩群で、すでに先船で来た釣客が良い釣場所を占めており、A受審人は、陸側に近い水上岩に4人を降ろしたものの、残る2人連れの釣客のうち、酒気を帯びた釣客から、明るくなってからでも良いから魚が釣れそうな他の場所に連れていくよう要求され、話し合ったのち、七ツ岩からさらに北東方1,300メートルばかりにある、ゴットリと称する水上岩に向かうことになった。 当時、A受審人は、七ツ岩や都井岬灯台の灯火を視認することができる状況であったものの、ゴットリの方向は陸岸が東の方に張り出しており、針路目標となる灯火などがなく、また、月が出ていなかったので陸影や海岸線も十分に視認できる状態でなかった。しかし、酒気を帯びた釣客との応対に気が立って冷静さを失い、陸岸に著しく接近することのないよう、備え付けの磁気コンパスで針路を東にとるなど、いったん陸岸を十分離す針路とすることなく、05時57分七ツ岩北側の、都井岬灯台から016度(真方位、以下同じ。)3.1海里の地点において、七ツ岩や都井岬灯台との関係からおよその見当を付け、針路が040度となる方向に発進し、機関回転を徐々に上げながら進行した。 こうして、富丸は、05時58分都井岬灯台から016.5度3.3海里の海岸の岩場に、原針路のまま機関半速力前進で18.0ノットの対地速力をもって乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、日出は07時03分であった。 乗揚の結果、船首船底部外板に破口を生じて浸水したほか、推進器翼等を曲損したが、自力離礁して石波船だまりに帰港し、のち修理された。 また、船首部のやり出し甲板で座っていた釣客が、乗揚の衝撃で前方の岩場に転落し、腰椎圧迫骨折など3箇月の入院加療を要する重傷を負った。
(原因) 本件乗揚は、夜間、都井岬北方の七ツ岩で釣客を降ろしたのち、次の瀬渡地点に向かう際、針路の選定が不適切で、七ツ岩北東方の陸岸に著しく接近する針路で進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、都井岬北方の七ツ岩において、釣客を瀬渡ししたのち、他の瀬渡地点に向かう場合、レーダーを装備していなかったうえ、付近に針路目標となる適切な航路標識などがなかったのであるから、陸岸に著しく接近することのないよう、装備していた磁気コンパスにより、陸岸を十分に離す適切な針路を選定すべき注意義務があった。しかし、同人は、酒気を帯びた釣客との応対で気が立って冷静さを失い、陸岸を十分に離す針路を選定しなかった職務上の過失により、陸岸に著しく接近する針路で進行して乗揚を招き、船首部船底に破口を生じさせたほか、釣客1人を海岸の岩場に転落させて腰椎圧迫骨折等の重傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |