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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年4月6日02時50分 瀬戸内海広島湾南西部 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第十八かねと丸 総トン数 497トン 全長 65.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
1,176キロワット 3 事実の経過 第十八かねと丸(以下「かねと丸」という。)は、船尾船橋型の石材兼砂利運搬船で、大分県津久見港と広島県広島港との間の航海に従事していたところ、A受審人ほか5人が乗り組み、石灰石1,300トンを積載し、船首3.27メートル船尾4.07メートルの喫水をもって、平成10年4月5日21時55分津久見港を発し、広島港に向かった。 A受審人は、発航後、次席一等航海士と交替で船橋当直を行い、速吸瀬戸を経て伊予灘及び平郡水道を北上したのち、翌6日01時40分山口県八島付近で、同航海士と交替して単独の当直に就き、広島湾南西部の大畠瀬戸を通航することにして北上を続けた。 ところで、A受審人は、船長として津久見港から広島港への航海の経験が豊富で、これまで幾度も大畠瀬戸を通航していたことから、同瀬戸周辺海域の水路状況をよく承知しており、平素、平郡水道から大畠瀬戸に向かうとき、山口県本土とその東側の屋代島との間の、幅約2海里の南北方向に延びる水路のほぼ中央部に水路沿いに設置された大畠航路第1号灯浮標(以下、灯浮標名については「大畠航路」を省略する。)から第3号までの各灯浮標を目標にして航行していた。 こうしてA受審人は、屋代島南西岸沖合の下荷内島と本土の黒崎鼻との間を抜け、02時27分下荷内島灯台から318度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点に達したとき、針路を第1号灯浮標の東方に向ける351度に定めて自動操舵とし、引き続き機関を全速力前進にかけ、折からの降雨で視程が約1海里となったなか、11.0ノットの対地速力で進行した。 A受審人は、やがて左舷船首方に第1号灯浮標の灯火を視認できるようになり、前示各灯浮標を目標に、これらを順次確認して大畠瀬戸西口に向かうこととし、02時35分半第1号灯浮標を左舷側に400メートル離して通過した。 このころA受審人は、南下する反航船、続いて自船の前路を横切る態勢で接近する漁船の灯火を認めたので、しばらくこのまま北上を続けることとし、付近がよく漁船の出漁する海域であったことから、レーダーに映りにくい小型漁船が出漁しているのではないかと気にかけながら、これら反航船と漁船に注意を払って大畠瀬戸西口の野島に向首する状況で進行した。 その後、A受審人は、前示反航船及び漁船と無難に航過し、左舷船首方に第2号灯浮標の灯火を視認するようになり、02時47分少し過ぎ同灯浮標を左舷側に800メートル離して通過したとき、次の目標の第3号灯浮標を視認することができなかったが、慣れたところであったことに気を許し、同灯浮標を視認してから針路を修正すればよいと思い、作動中のレーダーを使用するなどして、船位の確認を十分に行うことなく、船橋右舷端に立ち目視で第3号灯浮標や漁船の確認に当たり、野島に向首したまま続航中、02時50分わずか前、前方に黒い島影を認め、驚いて機関を停止し、次いで左舵をとったが及ばず、02時50分下荷内島灯台から344度5.2海里の地点において、かねと丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、野島南岸に乗り揚げた。 当時、天候は雨で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近には微弱な北流があり、視程は約1海里であった。 乗揚の結果、かねと丸は、船首船底外板に亀裂をともなう凹損を生じて船首水槽に浸水し、サルベージ船の来援を得て引き下ろされ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、降雨のため視界がやや狭められた山口県本土と東側の屋代島との間の水路を大畠瀬戸に向け北上中、船位の確認が不十分で、同瀬戸西口の野島に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、降雨のため視界がやや狭められた山口県本土と東側の屋代島との間の水路を大畠瀬戸に向け北上する場合、同瀬戸西口の野島に乗り揚げることのないよう、作動中のレーダーを使用するなどして、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、慣れたところであったことに気を許し、第3号灯浮標を視認してから針路を修正すればよいと思い、船橋右舷端に立ち目視で第3号灯浮標や漁船の確認に当たり、作動中のレーダーを使用するなどして、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、野島南岸に向首進行して乗り揚げ、かねと丸の船首船底外板に亀裂をともなう凹損を生じさせて船首水槽に浸水させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |