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2000年(平成12年)

平成11年広審第20号
    件名
貨物船第拾五玉吉丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年5月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、釜谷奬一、織戸孝治
    理事官
向山裕則

    受審人
A 職名:第拾五玉吉丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船底外板全般に擦過傷及び付近のかき筏の一部に損傷

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月13日02時30分
広島県竹原港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第拾五玉吉丸
総トン数 499トン
全長 65.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第拾五玉吉丸(以下「玉吉丸」という。)は、船尾船橋型の砂利採取運搬船で、船長B及びA受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首2.0メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成10年4月12日23時30分広島県福山港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
玉吉丸の運航形態は、九州沿岸で採取した海砂を福山港まで輸送するもので、途中広島県三原港沖合に寄せて、給水船を横付けして海砂の洗浄を行っており、その間、乗組員は、同洗浄及び海砂の荷役作業に適宜輪番制で従事し、同作業を終えると出航することを繰り返していた。

B船長は、船橋当直体制を同人、次席一等航海士及びA受審人による単独3時間交替の輪番制としていたが、当直時間については、各人の労働時間が不均衡とならないよう、当直時間を適宜割り当てて運航していた。
B船長は、発航後、出港操船を終えて次席一等航海士に当直を任せ、いつものように、航海中不安を感じたとき及び眠気を催したときは報告するように伝え、次直者にも申し送るよう指示して降橋した。
ところで、A受審人は、12日16時ごろ福山港で荷役当直終了後外出して飲食し19時ごろに帰船して3時間半ほど睡眠をとり、22時30分から23時45分まで出港作業に従事し、その後自室で就寝した。
こうして、A受審人は、三原瀬戸を西行中、就寝して1時間半ほど経った翌13日01時15分ごろ昇橋し、断続的な睡眠のもと、同時20分広島県小佐木島北東沖に差し掛かったとき、前直者から船長の指示事項を聞いて、船橋当直に就き、操舵輪後方に立ち、霧模様であったことから、その左側に設置された2台のレーダーをそれぞれ0.75及び3海里レンジに設定して、これらを頼りに磁気コンパス上部の自動操舵用針路設定ツマミ(以下「針路設定ツマミ」という。)を操作しながら湾曲した狭い水路の操舵操船に当たり青木瀬戸に向け航行した。

01時40分A受審人は、青木瀬戸の最狭部を航過し終え、高根島灯台から329度(真方位、以下同じ。)570メートルの地点に達したとき、大下瀬戸を経て安芸灘に入る予定で、針路を239度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて12.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
このころ、A受審人は、針路設定ツマミに手をかけて立ち、前屈した姿勢のまま操舵輪に寄り掛かり当直に従事していたところ、広い海域に出たことと周辺水域に支障となる他船も見当たらなかったことから、眠気を催すようになってきたが、しばらく我慢すれば眠気は覚めるものと思い、船長に報告して2人当直にするなどして、居眠り運航の防止措置をとらなかった。
A受審人は、三原瀬戸西部を南西進しているうち、間もなく居眠りに陥り、02時01分半大久野島灯台から138度490メートルの地点に達したとき、居眠りに陥った状態で手にかけていた針路設定ツマミが何かの弾みで回転し、針路が予定針路を外れて273度となったが、このことに気付かず、竹原港西部に向首する態勢となったまま続航した。

02時27分半少し前A受審人は、碇島灯標の北東方約0.8海里の竹原港港界に差し掛かったが、依然、居眠りしていてこのことに気付かず、竹原港明神鼻の干出浜に向首して進行中、玉吉丸は、02時30分碇島灯標から000度950メートルの竹原港明神鼻の干出浜に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、付近には約1ノットの西流があった。
B船長は、自室で休息中、衝撃を感じて目覚め、昇橋して事後の措置に当たった。
乗揚の結果、船底外板全般に擦過傷及び付近のかき筏の一部に損傷をそれぞれ生じ、満潮を待って自力離礁し、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、三原瀬戸を南西進中、居眠り運航の防止措置が不十分で、竹原港明神鼻の干出浜に向首進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、三原瀬戸を南西進中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、船長に報告し2人で当直に当たるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、しばらく我慢すれば眠気は覚めるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、竹原港明神鼻の干出浜に向首進行して乗揚を招き、船底外板全般に擦過傷及びかき筏の一部に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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