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2000年(平成12年)

平成11年広審第58号
    件名
漁船濱栄丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年5月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷奬一、工藤民雄、横須賀勇一
    理事官
岩渕三穂

    受審人
A 職名:濱栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
舵及び推進器に曲損、後部船底外板が大破、浸水

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月10日17時00分
広島県呉港北東方海域
2 船舶の要目
船種船名 漁船濱栄丸
総トン数 19トン
全長 22.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
濱栄丸は、船尾部に操舵室を有するFRP製の漁船で、A受審人のほか2人が乗り組み、かき約6トンを載せ、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成10年5月10日15時ごろ広島県宮島北端の聖埼の東方にある杉ノ浦沖のかき筏を発し、同県竹原港に向かった。
濱栄丸の運航形態は、竹原港を基地として、ほぼ連日、広島湾内でのかきの買付けに従事するもので、杉ノ浦沖を発航後は広島湾を東行し、同県江田島北方を航行して音戸瀬戸を南下し、その後猫瀬戸を東行したのちは広島県本土沿いに北東進して竹原港に至るものであった。

A受審人は、竹原港への帰途にあたり、平素視界の良いときは、猫瀬戸を航過後、下碇磯灯標の南側の広い海域を航行する進路をとっていたが、同灯標の南西方の海域一帯が漁場となっており、多数の漁船が密集して操業を行っていることが多く、これらの間を縫って航行することになることから、特に視界の悪いときにはこの海域を避けて、同灯標の西南西方1.3海里ばかりのところにある同県横島とその北側の本土との間に挟まれた可航幅約100メートルの湾曲した長さ約1,300メートルの水路を航行することにしていた。
ところで同水路には、横島の北端から約200メートルにわたって、干出岩からなる浅所が舌状に北方に向け拡延しており、同水路を航行するにあたっては、これらの浅所について航行上十分な警戒を要する海域で、A受審人は幾度となくこの水路を航行した経験があり、これら浅所の存在については十分承知していた。

こうしてA受審人は、猫瀬戸を16時37分ごろ航過してしばらく東行していたとき、同時48分ごろから、突然、驟雨(しゅうう)となり、このころ前路の下碇磯灯標の南西方一帯にかけて多数の漁船が密集しているのをレーダーで探知したので、急遽横島の北側の前示水路に向かうこととした。
16時54分A受審人は、下碇磯灯標から235度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき、針路を046度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけ13.0ノットの対地速力で進行した。
16時57分半A受審人は、下碇磯灯標から239度1.8海里の地点に達したとき、降雨のため平素操舵目標としていた山頂などを視認できないまま、針路を横島の北方水路に向けて025度に転じたが、GPSに表示させた水深を目安に北上して、水深が浅くなったのを認めればこのとき対処すればよいと思い、レーダーを利用するなどして船位の確認を十分行うことなく進行中、17時00分突然衝撃を受け、下碇磯灯標から251度2,550メートルの、横島の北西部に拡延する浅所に原針路、原速力のまま乗り揚げた。

当時、天候は雨で風力3の南南西風が吹き、視程は約1キロメートルで潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、濱栄丸は舵及び推進器に曲損を生じ、後部船底外板が大破して浸水し、その後離礁したが付近の海岸に任意座礁し、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、猫瀬戸を東行後、広島県本土とその南側の横島とに挟まれた狭い水路に向け北上する際、船位の確認が不十分で、横島の北方に拡延する浅所に向首進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、猫瀬戸を東行後、広島県本土とその南側の横島とに挟まれた狭い水路に向け北上する場合、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、測深を行いながら北上して水深が浅くなったのを認めれば、このとき対処すればよいと思い、レーダーを利用するなどして、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、横島北方に拡延する浅所に向首進行して乗揚を招き、濱栄丸の舵及び推進器に曲損を、後部船底外板を大破して浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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