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2000年(平成12年)

平成11年神審第102号
    件名
漁船第六十八福佳丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年5月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、西田克史、小須田敏
    理事官
清水正男

    受審人
A 職名:第六十八福佳丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
船底外板に凹損、両舷ビルジキールに亀裂を伴う曲損及び推進器翼に曲損

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月13日19時25分(アイスランド標準時)
アイスランド共和国レイキャビク港外
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十八福佳丸
総トン数 409トン
全長 56.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第六十八福佳丸(以下「福佳丸」という。)は、遠洋まぐろ延縄漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか日本人9人及びインドネシア人など11人が乗り組み、平成9年12月15日高知県高知港を発し、西インド洋に至り操業を行った。そして、翌10年7月26日カナリア諸島ラスパルマス港に寄港したのち、北大西洋において引き続き操業に従事し、まぐろ50トンを獲たところで燃料、食料などを補給する目的で、船首2.8メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、同年10月11日09時30分(アイスランド標準時、以下同じ。)北緯58度39分西経21度54分の地点を発進し、最寄りのアイスランド共和国レイキャビク港に向かった。

レイキャビク港は、アイスランド島南西岸に位置し、レイキャビク市街地から北西方に突き出た半島の北側で北西に開いた湾口幅約5海里を有するコトラ湾の南奥にあり、湾口の南部に港口が形成されていた。また、同半島の南側には、西方に開いた湾口幅約2海里のスキェーリャ湾があり、レイキャビク港の南西方にあたるその湾口一帯に浅所域が拡延していた。
ところで、福佳丸は、主たる漁場が北大西洋であり、沿岸の水路誌、灯台表及び潮汐表などの水路書誌を所有していなかったものの、漁場付近の海岸図及び寄港できる諸港の港泊図を揃え、レイキャビク港については、英版海図第2733号(アイスランド南西岸、縮尺30万分の1、以下海図は英版である。)、同第2734号(レイキャビク港付近、縮尺10万分の1)及び同第2735号(レイキャビク港、縮尺1万分の1)を備えていた。

A受審人は、レイキャビク港への寄港を決めた際、海図第2733号を見て、アイスランド島南西部にあるレイキャネース半島の北端カーギ岬北西方沖合に向けて北上し、そこから東行して同港に向かうこととしたものの、これまで一度も寄港したことがなかったので、その所在場所に疎かった。
越えて同月13日17時05分半A受審人は、単独で船橋当直に当たり、カーギ岬北西方沖合の、グロゥッタ灯台から267度(真方位、以下同じ。)21.5海里の地点に達したとき、レイキャビク港口に向首することとし、海図台に広げた海図第2733号を見た。しかし、同受審人は、同海図上ではレイキャビク港の所在場所を示す記載が見当たらなかったけれども、同港はレイキャビク市の西方に湾口を有するスキェーリャ湾に面しているものと思い、海図第2734号及び同第2735号にあたって同港の位置を確認するなど、水路調査を十分に行うことなく、針路をスキェーリャ湾に向かう095度に定め、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。

こうして、A受審人は、18時00分グロゥッタ灯台から259度10.8海里の地点において、船首方に見えてきた街の明かりをレイキャビク港の明かりと思い、同じ針路のまま6.5ノットに減速して続航した。
A受審人は、依然としてレイキャビク港の所在場所を間違えていることに気付かず、原針路、原速力のまま進行中、福佳丸は、19時25分グロゥッタ灯台から207.5度3.3海里の暗礁に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、潮候は低潮時であった。
乗揚の結果、船底外板に凹損、両舷ビルジキールに亀裂を伴う曲損及び推進器翼に曲損を生じたが、翌14日01時ごろ来援した引船により引き降ろされ、のちレイキャビク港において修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、アイスランド島のレイキャビク港に向かうにあたり、水路調査が不十分で、同港の南西方に拡延する浅所域に向首進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、アイスランド島南西部のカーギ岬沖合からレイキャビク港に向かう場合、同港への寄港は初めてでその所在場所に疎かったから、大縮尺の海図にあたって同港の位置を確認するなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、小縮尺の海図ではレイキャビク港の所在場所を示す記載が見当たらなかったものの、レイキャビク市の西方にある湾口に向かえばよいものと思い、大縮尺の海図にあたって同港の位置を確認するなど、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同港の南西方に拡延する浅所域に向首進行して乗揚を招き、船底外板に凹損、両舷ビルジキールに亀裂を伴う曲損及び推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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