日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成12年函審第16号
    件名
漁船正宝丸乗揚事件(簡易)

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年5月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹
    理事官
堀川康基

    受審人
A 職名:正宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部船底及び中央部右舷側外板に亀裂を伴う凹損、船外機2基のプロペラを欠損、甲板員が頭部裂傷

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月28日08時10分
北海道厚岸湾末広(まびろ)埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船正宝丸
総トン数 1.6トン
登録長 8.26メートル
機関の種類 電気点火機関
漁船法馬力数 60
3 事実の経過
正宝丸は、船外機2基を備えた和船型のFRP製漁船で、A受審人が父親の甲板員と乗り組み、平成11年7月28日04時40分北海道厚岸郡厚岸町床潭(とこたん)漁港の船揚げ場を発し、04時50分同港南東方の末広埼の東方半海里ばかりの漁場に至り、昆布採取作業を開始し、昆布約200キログラムを採取し、船首0.22メートル船尾0.52メートルの喫水をもって、08時00分同漁場を発進し、帰途に就いた。
ところで、床潭漁港は、南方に突出する末広埼の西岸の北部に設けられ、床潭港西防波堤灯台の南東方800メートルばかりの末広埼の西岸から約200メートル及び約350メートル南西方沖合のところに、それぞれ孤立の干出岩が存在し、南西端の干出岩の南西方100メートルばかりのところに旗竿付きの標識浮子1個が設置されており、漁期には毎朝、昆布採取漁船群がこの標識浮子の南方に集合し、定められた時刻に発進して前示漁場に向かっていた。

A受審人は、毎年6月初めから9月末までの昆布採取漁業の漁期に前示漁場で昆布採取漁業に従事していたので、両干出岩付近の水路状況を熟知しており、帰航時には前示標識浮子を右舷側に通過したのち発航地点に向け右転していたが、霧で視界が狭められた際は、自船にレーダーを装備していないので、GPSビデオプロッターにより転針していたものの、GPSビデオプロッターの画面に映る末広埼西岸の岸線を見ただけで両干出岩と標識浮子の概略の位置が推測できることから、その画面に両干出岩と標識浮子の位置を前もって入力することなく、前示漁場往復航海を続けていた。
昆布採取漁場を発進したときA受審人は、霧で視界が狭められる状況となっていたので、GPSビデオプロッターを作動し、操舵スタンド後方に立って手動操舵と前方の見張りに当たり、機関を微速力前進にかけて末広埼東方の陸岸に沿って西行したのち、08時05分床潭港西防波堤灯台から137度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点に達したとき、針路を前示標識浮子の少し南方に向く283度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で進行した。

A受審人は、定針後間もなく濃霧となり、右舷方200メートルばかりの末広埼南岸付近の地形による船位の確認ができない状況となった。しかし、同人は、この付近の水路状況を熟知していることから、GPSビデオプロッターの画面に映っている末広埼西岸の岸線を見れば船位が確認できるものと思い、干出岩に向首することのないよう、その画面に干出岩と標識浮子の位置を前もって入力しておかなかったので、船位の確認を十分に行うことができないまま続航し、08時09分床潭港西防波堤灯台から164度1,060メートルの地点に達したとき、GPSビデオプロッターの画面を一見しただけで、標識浮子を右舷側に航過したものと推測し、針路を333度に転じたところ、南西端の干出岩に向首したが、このことに気付かず続航中、08時10分、突然、衝撃を受け、床潭港西防波堤灯台から167度860メートルの地点において、正宝丸の船首部船底が、原針路、半速力のまま、末広埼西岸沖合の水面下に隠れた南西端の干出岩に乗り揚げ、これを擦過した。
当時、天候は霧で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は50メートルであった。
乗揚の結果、正宝丸は船首部船底及び中央部右舷側外板に亀裂を伴う凹損を生じ、船外機2基のプロペラを欠損し、衝撃により甲板員が頭部裂傷を負った。


(原因)
本件乗揚は、霧で視界が狭められた北海道厚岸湾末広埼東方の昆布採取漁場から北海道床潭漁港船揚げ場に帰航中、末広埼南西方沖合から同船揚げ場に向け転針する際、船位の確認が不十分で、末広埼西岸沖合に存在する干出岩に向かって進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、北海道厚岸湾末広埼南西方沖合の干出岩付近を転針地点として北海道床潭漁港船揚げ場と末広埼東方の昆布採取漁場との間を往復航行する場合、自船にレーダーを備えず、霧で視界が狭められた際は船位確認の手段がGPSビデオプロッターだけであったから、末広埼西岸沖合に存在する干出岩に向かって進行することのないよう、その画面に干出岩と標識浮子の位置を前もって入力しておくべき注意義務があった。しかるに、同人は、干出岩付近の水路状況を熟知していたことから、GPSビデオプロッターの画面に映っている末広埼西岸の岸線を見ただけで干出岩と標識浮子の概略の位置が推測できるものと思い、その画面に干出岩と標識浮子の位置を前もって入力しておかなかった職務上の過失により、霧で視界が狭められた末広埼東方の昆布採取漁場から床潭漁港船揚げ場に帰航中、GPSビデオプロッターの画面を一見しただけで船位を十分に確認しないまま推測で転針し、干出岩に向かって進行して乗揚を招き、自船の船首部船底及び中央部右舷側外板に亀裂を伴う凹損を生じさせ船外機2基のプロペラを欠損させ、甲板員1人に頭部裂傷を負わせるに至った。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION