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2000年(平成12年)

平成11年広審第37号
    件名
貨物船第十一大栄丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年4月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷奬一、黒岩貢、織戸孝治
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第十一大栄丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第十一大栄丸次席一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船底外板に凹損

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月23日12時40分
瀬戸内海来島海峡航路
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十一大栄丸
総トン数 499トン
全長 75.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第十一大栄丸(以下「大栄丸」という。)は、主に三重県四日市港、千葉県千葉港と関門港両港間を瀬戸内海経由で就航する国内コンテナ輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A及びB両受審人ほか2人が乗り組み、20フートコンテナ66個を載せ、船首3.05メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成10年4月22日12時10分四日市港を発し、関門港に向かった。
同船の船橋当直体制は、2直交代制で、原則として毎0時から6時までの時間帯をB受審人が、毎6時から12時までの時間帯をA受審人がそれぞれあたることになっており、各時間帯には適宜、機関長が見張り要員として入直することになっていた。

A受審人は、船橋当直のほか出入港時の操船にも従事していたが、狭水道の操船については、同受審人の休暇下船中、B受審人が船長職を執っていたこと及び同人が瀬戸内海の航行経験が幾度もあったことなどから、船橋当直中の同人にその操船を行わせていた。
こうして、大栄丸は、翌23日05時25分鳴門海峡を航過し、備讃瀬戸を西行して備後灘に至り、11時30分ごろ愛媛県高井神島の北方付近に至ったとき、A受審人は、B受審人と船橋当直を交代することにした。
A受審人は、交代にあたり、ほとんど無風状態で、小雨模様ではあったものの、視程が約3海里であったことから、周囲の状況を告げたのみで引継ぎを終えたが、この季節の瀬戸内海は霧の多発時期であり、特に霧中における狭水道の航行に際しては、他船との相対位置関係を考慮しながら、航路内の進路を保持するなど複雑な操船が要求されていたことから、船長が自ら船舶を指揮しなければならない状況であったが、同人はB受審人に操船を任せてもよいと思い、視界制限状態の狭水道を航行する状況となったときには報告を行う旨の指示を徹底することなく降橋した。

B受審人は、12時05分備後灘航路第1号灯浮標を航過したあたりから霧模様となって視程は約1海里となったのを認め、このころVHF無線電話設備により周辺の霧情報を傍受して来島海峡航路付近の視程は更に悪化することを知ったが、自分は船長経験もあり、A受審人から視程が低下したら報告する旨の指示もなかったことから、同人に報告せず、レーダーを監視しながら航行し、同時12分ごろ操舵を手動に切り替えて折から昇橋していた機関長を見張りにたて、操舵操船に従事した。
12時25分B受審人は、竜神島灯台から139度(真方位、以下同じ。)1,350メートルの、来島海峡航路東口に差し掛かったとき、視程が約500メートルとなったのを認め、機関回転数を徐々に減じ始め、同時32分半、ウズ鼻灯台から123度1.4海里の地点に達したとき、針路を314度に定めて機関を6.5ノットの微速力前進にかけ、折からの3.5ノットの潮流に乗じ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で中水道に向けて北上した。

このころB受審人は、操舵輪の左側に設置されたレーダーを1.5海里レンジに切り替えてこれを監視していたところ、右舷船首方の中渡島南側付近のところを中水道に向けて西進する模様の他船の映像を探知し、自船が間もなく右転して中水道を北上すれば、操船上支障となる状況となり、その後、狭水道内での複雑な操船を強いられる状態となったが、目視により同船の動静を確認しようとレーダーから目を離し、右舷方に気を配りながらA受審人に報告するまでのことはないと思い続航した。
12時38分B受審人は、ウズ鼻灯台から111度925メートルの地点に達し、中水道を北上する転針点に差し掛かり、このままの針路で進行すると馬島東岸に向首する状況となったが、右舷側に見えるはずの前示他船の目視にのみ気を奪われ、レーダーを観測するなどして船位の確認を行うことなく続航中、ふと船首方を見たとき、目前に迫った島影を認め、あわてて右舵一杯としたが効なく、12時40分ウズ鼻灯台から060度500メートルの馬島東岸に原速力のまま320度を向首したとき乗り揚げた。

当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約200メートルで、潮候は下げ潮の中央期で乗揚地点付近には約3.5ノットの北流があった。
A受審人は、乗揚の衝撃を感じて昇橋し事後の処理にあたった。
乗揚の結果、大栄丸は、船底外板に凹損を生じたが、曳船の来援を待ち離礁し、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、霧により視界制限状態となった来島海峡航路を中水道に向け北上中、レーダーで操船上支障となる他船の映像を探知して、同船の目視に努めながら転針点に差し掛かる状況となった際、船位の確認が不十分となり、馬島東岸に向首進行したことによって発生したものである。
大栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直を引き継ぐにあたり視界制限状態の狭水道を航行する状況となったとき、報告を行う旨の指示を徹底させていなかったことと、船橋当直者が、この状況を船長に報告せず、船位の確認を十分に行わなかったこととによるものである。


(受審人の所為)
B受審人は、霧により視界制限状態となった来島海峡航路を中水道に向け北上中、レーダーで操船上支障となる他船の映像を探知して、同船の目視に努めながら転針点に差し掛かる状況となった場合、前路の水域に余裕がなかったから、予定進路から離脱して馬島東岸に乗り揚げることのないよう、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、他船の目視にのみ気を奪われ、レーダーを観測するなどして船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、馬島東岸に向首進行して乗揚を招き、船底外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、霧の多発時期の瀬戸内海を航行中、船橋当直を交代する場合、霧により視界制限状態となった狭水道を航行する状況となったとき、自ら操船指揮にあたることができるよう、報告を行う旨の指示を徹底しておくべき注意義務があった。しかるに同人は、B受審人に操船を任せてもよいと思い、報告を行う旨の指示を徹底しなかった職務上の過失により、乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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