|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年2月1日22時40分 愛媛県岩城島沖離岸堤 2 船舶の要目 船種船名
交通船第六よし正丸 総トン数 2.9トン 全長 9.93メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
102キロワット 3 事実の経過 第六よし正丸(以下「よし正丸」という。)は、FRP製交通船で、A受審人が1人で乗り組み、友人5人を乗せ、船首尾とも0.4メートルの等喫水をもって、平成11年2月1日22時30分広島県因島土生港を発し、愛媛県伯方島伯方港に向かった。 A受審人は、22時36分半小漕港小漕西防波堤灯台(以下、「西防波堤灯台」という。)から035度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点に達したとき、手動操舵により針路を同灯台の北方沖合に向く236度に定め、機関を全速力前進にかけて18.9ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、岩城島西岸に沿って進行した。 ところで、岩城島西岸は、北端にある西防波堤灯台からその南南西方にかけて凹凸のある海岸線が延びており、同灯台の南南西方約1海里に位置する赤石海岸は、北方に舌状に突出した海岸となっていて、その北端から西方約60メートル沖合にかけては、長さ60メートル上底幅6メートル、水面上高さ約1メートルの離岸堤が6基、約25メートル間隔で縦一列に南方に向けて海岸線と平行に設置されており、夜間、この付近を航行するにあたっては、赤石海岸を十分に離す安全な針路を選定する必要のある海域で、A受審人は、同海岸の風景画を描いたこともあって赤石海岸沖の同離岸堤の位置、形状については十分に知っていた。 22時37分少し前A受審人は、西防波堤灯台から280度120メートルの地点での転針点に達したことを知り、前示赤石海岸北端の突出部から南南西方約900メートルのところに設置されている三床礁灯標の灯光を船首目標に針路を212度に転じて進行したが、これを目安に航行すれば赤石海岸沖合の離岸堤を無難に航過できるものと思い、同海岸を十分に離す安全な針路を選定することなく続航し、同離岸堤に向首していることに気付かず進行中、よし正丸は、22時40分三床礁灯標から032度900メートルの地点において、原針路、原速力のまま、離岸堤に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、視界は良好で潮候は上げ潮の末期であった。 乗揚の結果、船底全体に擦過傷及びシャフトブラケットに折損を生じ、のちクレーン船により引き下ろされ、乗揚時の衝撃で乗船者Bは左前額部切創で9日間、同Cは左前額部切創で1週間の通院加療を要する負傷をした。
(原因) 本件乗揚は、夜間、岩城島赤石海岸沖合を伯方港に向け南南西進中、針路の選定が不適切で、赤石海岸沖に設置されている離岸堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、岩城島赤石海岸沖合を航行する場合、同海岸沖合には離岸堤があることを知っていたのであるから、同離岸堤に乗り揚げることのないよう、赤石海岸を十分に離す安全な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、三床礁灯標を船首目標にして進行すれば無難に離岸堤の西方を航過できるものと思い、同海岸を十分に離す安全な針路を選定しなかった職務上の過失により、同離岸堤に向首したまま進行して乗揚を招き、船底全体に擦過傷及びシャフトブラケットに折損を生じさせ、乗船者2人に9日間及び1週間の通院加療を要する負傷をさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |