日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年横審第41号
    件名
貨物船新幸成丸貨物船オーシャン スティーマー衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、長浜義昭、河本和夫
    理事官
小金沢重充

    受審人
A 職名:新幸成丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:オーシャンスティーマー水先人 水先免状:伊良湖三河湾水先区
    指定海難関係人

    損害
新幸成丸・・・右舷前部外板及び同船首ブルワークに曲損
オ号・・・・右舷船首部外板に擦過傷

    原因
新幸成丸・・・船員の常務不遵守、狭視界時の航法(レーダー、信号、速力)不遵守(主因)
オ号・・・・狭視界時の航法(速力)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、視界制限状態下の海上交通安全法適用海域において、新幸成丸が、航路から出航する際の運航が適切でなかったことによって発生したが、航路に入航するオーシャンスティーマーが、行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月23日08時16分
伊良湖水道
2 船舶の要目
船種船名 貨物船新幸成丸
総トン数 359トン
全長 59.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
船種船名 貨物船オーシャンスティーマー
総トン数 12,923トン
全長 155.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 5,913キロワット
3 事実の経過
新幸成丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、鋼材1,072トンを積載し、船首3.10メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、平成8年6月23日05時50分(日本標準時、以下特記しないものは日本標準時である。)愛知県豊橋港(平成9年10月17日港則法施行令の改正により「三河港」と改名された。)を発し、千葉港に向かった。
A受審人は、発航操船に引き続き、機関長を船橋の機関リモコン操作に就けて一人で操舵操船に当たり、折から霧模様で視界が狭まった渥美湾を西航し、中山水道を経て、07時56分伊勢湾第3号灯浮標を右舷側100メートルに見る、神島灯台から345度(真方位、以下同じ。)2.45海里の地点において、針路を135度に定め、機関を全速力前進にかけ、10ノットの対地速力で自動操舵により進行した。

A受審人は、定針後視界が急速に悪化し、視程が150メートルばかりの視界制限状態になったが、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力とすることもせず、またレーダー見張りも行わないまま同針路、同速力で続航し、08時01分神島灯台から001度1.7海里の地点で、伊良湖水道航路に入り、同航路を南方に出航することとなったが、前路に入航船舶はいないものと思い、レーダー見張りを行っていなかったので、伊勢湾第2号灯浮標の付近を北上中のオーシャンスティーマー(以下「オ号」という。)を認めなかった。
08時09分A受審人は、伊良湖水道航路第2号灯浮標の手前0.7海里にあたる、神島灯台から057度1.3海里の地点に達したとき、左舷船首7度1.5海里のところに存在したオ号の映像を探知しないまま、伊良湖水道航路を南方に出航する船舶に要請されている伊勢湾第2号灯浮標を左舷側に見て航過する航法を遵守せず、早めに目的地方面に向けるつもりで自動操舵のまま、オ号の船首方向に転針し、同時09分半120度の針路となって同船と著しく接近することを避けることができない事態を生じさせたばかりか、依然レーダー見張りを行わず、同船の吹鳴する霧中信号にも気付かないまま、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また必要に応じて行きあしを止めずに続航した。

08時14分少し過ぎA受審人は、オ号の霧中信号に初めて気付き、レーダーをのぞいて船首間近に接近した同船の映像を認め、あわてて手動操舵に切り替え、左舵を取ったが、効なく、08時16分神島灯台から085度1.95海里の地点において、新幸成丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が、オ号の右舷船首部に、前方から5度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、付近には微弱な北流があり、視程は約150メートルであった。
また、オ号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長Cほか25人が乗り組み、小麦21,000トンを積載してアメリカ合衆国ポートランド港を出港し、同年6月7日01時24分(現地時刻)コロンビアリバーパイロットを下船させ、同時30分(現地時刻)機関を航海全速力前進として機関部出航配置を解き、名古屋港に向かった。

越えて23日06時00分C船長は、神島灯台の東方24海里ばかりに至り、伊良湖三河湾水先区の水先人乗船地点まで約1時間の航程になったので、入航に備えて機関用意を発令して自ら操船の指揮を執り、暫時速力を減じながら同地点に接近した。
一方、B受審人は、オ号から水先人乗船地点着予定時刻の電信を受け、同日06時00分水先艇に乗って師崎港を出発し、伊勢湾第1号灯浮標の東方水先人乗船地点に向かい、07時25分神島灯台から105度5.8海里の地点でオ号に乗船し、水先艇を伊良湖港に帰し、船橋に赴いて、喫水が船首9.65メートル船尾9.92メートルであることのほか操船に必要な事項を船長に確かめた後、オ号の嚮導に当たった。
B受審人は、種々機関を使用し、適宜の針路で伊勢湾第2号灯浮標に向かい、07時50分神島灯台から103度3.4海里の地点で、針路を305度に定め、海上交通安全法適用海域に入ったところ、霧のため視程が150メートルばかりの視界制限状態となったので、霧中信号を吹鳴させ、機関微速力前進、停止を繰り返して針路を保つことができる最小限度の速力とし、3.9ノットの平均速力で進行した。

08時05分B受審人は、伊勢湾第2号灯浮標の東方700メートルにあたる、神島灯台から095度2.5海里の地点に達したとき、3海里レンジのレーダーでほぼ正船首2.5海里のところに新幸成丸の映像を探知し、その後同映像はレーダーの船首輝線から少しずつ左方に開いていたところ、同時09分同映像との距離が1.5海里になったあたりから同映像が再び船首輝線に近づき、伊良湖水道航路を南方に出航する新幸成丸が同灯浮標を左舷側に見て航過する針路とせずに自船の船首方向に転針し、著しく接近することを避けることができない事態が生じていたが、自船はすでに航路への入航態勢となり、完全に行きあしを止めることなく、引き続き霧中信号を吹鳴しながら、針路を保つことができる最小限度の速力で進行中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、新幸成丸は右舷前部外板及び同船首ブルワークに曲損を、オ号は右舷船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、伊良湖水道航路南口の海上交通安全法適用海域において、視界制限状態下、同航路を出航する新幸成丸が、伊勢湾第2号灯浮標を左舷側に見て航過する針路をとらず、オ号の船首方向に向けて同航路内で転針し、同船と著しく接近することを避けることができない事態を生じさせたばかりか、レーダー見張りを行わず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、霧中信号を吹鳴しながら針路を保つことができる最小限度の速力で同航路に入航するオ号が、行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、伊良湖水道航路南口の海上交通安全法適用海域において、視界制限状態下、同航路を出航する場合、伊勢湾第2号灯浮標を左舷側に見て航過する針路をとるべき注意義務があった。しかしながら同人は、前路に入航船舶はいないものと思い、同航路の右側に寄って航行するよう、同灯浮標を左舷側に見て航過する針路をとらなかった職務上の過失により、同航路に入航するオ号の存在に気付かないまま同船の船首方向へ転針して、同船と著しく接近することを避けることができない事態を生じさせたばかりか、レーダー見張りを行わず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めずに進行して同船との衝突を招き、新幸成丸の右舷前部外板及び同船首ブルワークに曲損を、オ号の右舷船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
B受審人は、伊良湖水道航路南口の海上交通安全法適用海域において、視界制限状態下、霧中信号を吹鳴しながら針路を保つことができる最小限度の速力で同航路に入航するにあたり、レーダーで前路に同航路を出航してくる新幸成丸の映像を認め、自船の船首方向に転針し、著しく接近することを避けることができない事態が生じた際、行きあしを止め得なかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら同人の所為は、同航路への入航態勢に入っており、同航路入口水域で舵効を失うことは更なる危険を生じさせるおそれがあることに鑑み、行きあしを止めなかったことをもって職務上の過失とは認めない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION