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2000年(平成12年)

平成11年函審第62号
    件名
漁船第三十六功晶丸漁船ボレイ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:第三十六功晶丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
功晶丸・・・船首楼を圧壊、船底付海水吸入弁を破損、機関室内に浸水、操舵室及び機関室内の機器に濡れ損、船長が右膝打撲皮下血腫、甲板員1人が右大腿四頭筋断裂、甲板員1人が左肩甲部打撲傷
ボレイ・・・船首部左舷側外板に凹損

    原因
功晶丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、レーダー)不遵守
ボレイ・・・狭視界時の航法(信号、速力、レーダー)不遵守

    主文
本件衝突は、第三十六功晶丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、ボレイが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月28日02時20分
北海道歯舞漁港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十六功晶丸 漁船ボレイ
総トン数 4.9トン 172トン
全長 14.50メートル
登録長 30.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 264キロワット 225キロワット
3 事実の経過
第三十六功晶丸(以下「功晶丸」という。)は、さんま流し網漁業に従事するFRP製漁船で、操業の目的でA受審人ほか2人が乗り組み、平成10年8月27日12時00分北海道根室市歯舞漁港西船だまりを発し、同日13時30分落石岬の南東方8海里ばかりの漁場に至り、魚群探索ののち、14時30分投網を開始し、さんま約500キログラムを獲て操業を打ち切り、船首0.53メートル船尾1.73メートルの喫水をもって、翌28日01時00分落石岬灯台から144度(真方位、以下同じ。)18.0海里の地点を発進して帰途についた。

発進したときA受審人は、単独船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示したほか船橋上部マストの黄色回転灯1個を点灯して歯舞漁港に向け北上し、01時30分落石岬灯台から127度14.8海里の地点に達したとき、針路をハボマイモシリ島灯台の少し西方に向く357度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、12海里レンジとしたレーダーで前方に霧堤の映像を認め、01時45分、落石岬灯台から115度12.8海里の地点に達したとき、霧堤の中に進入し、雨模様の濃霧で視界が200メートルに狭められる状況となったが、レーダーに他船の映像が認められなかったことから、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることも行わず、全速力のまま続航した。
A受審人は、02時04分ハボマイモシリ島灯台から179度11.1海里の地点に達したとき、レーダーで右舷船首32度4.1海里に西行するボレイの映像を探知できる状況となった。しかしながら、同人は、レーダーを一見して他船の映像が認められなかったことから、前方に他船はいないものと思い、遠距離レンジとしたレーダーで正船首遠方の歯舞漁港から出漁する予定になっている同業船の映像を探知することに気を取られ、レーダーを適切に調整するなどして前方の見張りを十分に行わなかったので、ボレイの映像に気付かないまま進行した。

A受審人は、02時12分ハボマイモシリ島灯台から180度9.3海里の地点に達したとき、ボレイの映像を右舷船首32度2.0海里に探知できるようになり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、正船首遠方の歯舞漁港から出漁する予定になっている同業船の映像を探知することに気を取られてボレイの映像に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま続航中、02時20分ハボマイモシリ島灯台から180度7.4海里の地点において、功晶丸の右舷船首が、原針路、全速力のままボレイの船首部左舷側に後方から67度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力3の南風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視程は200メートルであった。
また、ボレイは、かにかご漁業に従事する中央部船橋型の鋼製漁船で、船長Bほか16人が乗り組み、便乗者6人を乗せ、同月26日10時00分国後島古釜府(ふるかまっぷ)港を発し、同日15時ごろ色丹島の北方沖合漁場に至り、投かご作業を開始し、毛がに約800キログラムを獲て操業を打ち切り、翌27日15時00分同漁場を発進し、北海道花咲港に向かった。

ところでB船長は、航海中の船橋当直を、一等航海士、二等航海士及び三等航海士の3人による4時間交替の3直制とし、各直に甲板長又は甲板員1人を配置して2人で当直を行わせ、霧で視界が狭められたときは直ちに報告させて操船指揮に当たっていた。
漁場発進後B船長は、色丹水道を南下したのち歯舞諸島の南岸に沿って西行し、同月27日22時00分志発島の東方12海里ばかりのところで船橋当直の二等航海士から雨模様の濃霧で視界が200メートルに狭められる状況となった旨の報告を受けて昇橋し、航行中の動力船の灯火が表示されていることを確認し、二等航海士を前方の見張りに、甲板長を手動操舵に就かせ、レーダー見張りと操船指揮に当たったが、レーダーに他船の映像が認められなかったことから、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることも行わず、全速力のまま西行した。

B船長は、翌28日01時30分ハボマイモシリ島灯台から138度10.4海里の地点に達したとき、針路を花咲港南方のユルリ島に向く272度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.4ノットの対地速力で進行した。
B船長は、02時00分二等航海士から次直の一等航海士に船橋当直を引き継がせ、同時04分ハボマイモシリ島灯台から164度7.8海里の地点に達したとき、レーダーで左舷船首62度4.1海里に北上する功晶丸の映像を探知できる状況となったが、あと30分ばかりで右舷前方の花咲港に向け転針予定地点に達することから、遠距離レンジとしたレーダーで右舷船首遠方の陸岸の映像により船位を確認することに気を取られ、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、左舷前方の功晶丸の映像に気付かないまま続航した。
B船長は、02時12分ハボマイモシリ島灯台から172度7.5海里の地点に達したとき、レーダーで功晶丸の映像を左舷船首62度2.0海里に探知できるようになり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、右舷船首遠方の陸岸の映像により船位を確認することに気を取られて同船の映像に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま進行中、同時20分少し前、左舷船首62度120メートルに功晶丸の黄色回転灯を初認し、甲板長に右舵一杯を、一等航海士に機関全速力後進を令して右転中、290度に向いたとき、7ノットばかりの前進行きあしで前示のとおり衝突した。

衝突の結果、功晶丸は、船首楼を圧壊し、重量物の移動により船底付海水吸入弁を破損して機関室内に浸水し、ボレイの左舷側に横付けされて花咲港に入航したが、操舵室及び機関室内の機器に濡れ損を生じ、ボレイは、船首部左舷側外板に凹損を生じ、A受審人が右膝打撲皮下血腫を、甲板員Cが右大腿四頭筋断裂を、甲板員Dが左肩甲部打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、両船が、雨模様の霧のため視界制限状態となった北海道歯舞漁港南方沖合を航行中、北上する功晶丸が、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、レーダーによる見張りが不十分で、前路のボレイと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、西行するボレイが、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、レーダーによる見張りが不十分で、前路の功晶丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独船橋当直に就いて雨模様の霧のため視界制限状態となった北海道歯舞漁港南方漁場から同漁港に向け北上する場合、右舷前方から接近するボレイのレーダー映像を見落とすことのないよう、レーダーを適切に調整して前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、正船首遠方の歯舞漁港から出漁する予定の同業船の映像を探知することに気を取られ、レーダーを適切に調整して前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、ボレイと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して衝突を招き、自船の船首楼を圧壊させ、機関室内に浸水させ、ボレイの船首部左舷側外板に凹損を生じさせ、自身が右膝打撲皮下血腫を、甲板員2人にそれぞれ右大腿四頭筋断裂傷及び左肩甲部打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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