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2000年(平成12年)

平成11年函審第71号
    件名
漁船第五十八拓進丸漁船第八十二吉進丸衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗
    理事官
堀川康基

    受審人
A 職名:第五十八拓進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第八十二吉進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
吉進丸・・・右舷船首部外板のペイントを一部剥離
拓進丸・・・左舷後部ブルワークに軽度の凹損

    原因
吉進丸・・・見張り不十分、追い越しの航法不遵守

    主文
本件衝突は、第五十八拓進丸を追い越す第八十二吉進丸が、見張り不十分で、第五十八拓進丸の前路に進出したことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月14日13時25分
北海道知床半島ペキンノ埼南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八拓進丸 漁船第八十二吉進丸
総トン数 19.0トン 19.0トン
全長 21.57メートル 21.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190 190
3 事実の経過
第五十八拓進丸(以下「拓進丸」という。)は、延縄漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか3人が乗り組み、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成10年10月14日02時00分北海道目梨郡羅臼港を発し、03時半ごろ知床半島南岸のペキンノ埼の南東方2海里ばかりの漁場に至り、投縄作業を開始した。
A受審人は、投縄作業を開始したとき、漁労に従事している船舶を示す形象物を掲げないまま、南下しながら投縄を続け、05時ごろ相泊港南防波堤灯台の東方2海里ばかりの地点で長さ8,100メートルばかりの延縄の投縄を終了し、漂泊待機したのち、06時ごろ同地点で揚縄作業を開始した。

A受審人は、操舵室内で操船に当たり、3人の甲板員を前部上甲板のラインホーラーに配置して揚縄作業に当たらせ、北方に向かって揚縄を続行中、13時15分相泊港南防波堤灯台から041度(真方位、以下同じ。)4.7海里の地点に達したとき針路を014度に定め、機関を適宜使用して1.0ノットの対地速力で進行しながら揚縄を続けた。
定針したときA受審人は、ほぼ正船尾230メートルばかりのところに北方に向首して延縄の揚縄作業中の第八十二吉進丸(以下「吉進丸」という。)を初認し、同船が揚縄を終えて北上してきても、同船が自船を追い越す態勢となるから自船を替わしてくれるものと思って続航した。
こうしてA受審人は、前部甲板の揚縄作業を監視しながら進行していたところ、13時20分吉進丸が揚縄を終えて北方に向け航行を開始し、その後拓進丸を追い越す態勢で接近し、同時25分少し前吉進丸の船首が拓進丸の左舷船尾41度20メートルばかりに迫ったとき、吉進丸が突然右転して拓進丸の前路に進出し、13時25分船尾部に衝撃を感じ、相泊港南防波堤灯台から040度4.8海里の地点において、右転中の吉進丸の右舷船首が、3.5ノットの速力で、拓進丸の左舷船尾に後方から45度の角度で衝突した。

当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、吉進丸は、延縄漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか3人が乗り組み、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同日02時00分羅臼港を発し、03時半ごろペキンノ埼の南東方2海里ばかりの漁場に至り、延縄漁業に従事し、13時15分相泊港南防波堤灯台から042度4.6海里の地点において、きんき約150キログラムを獲て揚縄作業を終え、延縄北端の錨、瀬縄及び標識浮標を揚収したのち同時20分同地点を発進し、帰途に就いた。
ところで、B受審人は、数日前に漁場発進地点の北方500メートルばかりのところを南端として北方に延びる底刺網を設置しており、その南北両端の瀬縄に標識浮標を取り付けていた。
発進したときB受審人は、前示底刺網の南端の標識浮標の設置状況を確認したのち反転して羅臼港に向かうこととし、操舵室左舷側に立ち、遠隔操舵装置で操舵に当たり、針路を同浮標の東方110メートルのところに向く012度に定め、機関を微速力前進にかけ、3.5ノットの対地速力で進行した。

定針して間もなく、B受審人は、ほぼ正船首380メートルばかりのところに、低速力で延縄を揚げながら北上中の拓進丸を視認できる状況で、その後同船の左舷側を追い越す態勢で接近したが、左舷船首前方の前示底刺網の標識浮標を見ながら操舵することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、13時25分少し前、同浮標を左舷側110メートルに航過し、拓進丸の船尾が右舷船首45度20メートルばかりに迫ったとき、左舷正横の同浮標の設置状況を確認しながら、左舷船尾方の羅臼港に向け右舵一杯をとって反転を開始したところ、同船の前路に進出し、同時25分わずか前、前方に顔を向けて同船の船尾を認めたが、どうすることもできず、13時25分059度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、吉進丸は、右舷船首部外板のペイントを一部剥離し、拓進丸は、左舷後部ブルワークに軽度の凹損を生じた。


(原因)
本件衝突は、北海道知床半島ペキンノ埼の南東方沖合において、吉進丸が、見張り不十分で、延縄を揚縄しながら低速力で北上中の拓進丸を追い越す態勢で接近して羅臼港に向け反転し、拓進丸の前路に進出したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
B受審人は、北海道知床半島ペキンノ埼の南東方沖合において、延縄の操業を打ち切り、その北方に設置しておいた底刺網の標識浮標の設置状況を確認するため拓進丸を追い越す態勢で接近したのち反転して羅臼港に帰航する場合、右舷船首方で低速力で延縄を揚縄しながら北上中の拓進丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、左舷船首方の前示底刺網の南端の標識浮標を見ながら操舵することに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷船首方で低速力で延縄を揚縄しながら北上中の拓進丸を追い越す態勢で接近していることに気付かず、同船に接近したのち右転し、同船の前路に進出して衝突を招き、吉進丸の右舷船首部外板のペイントを一部剥離させ、拓進丸の左舷後部ブルワークに凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


参考図






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