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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年11月20日05時40分 長崎県大立島北東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第八福宝丸 総トン数 19.48トン 登録長 16.97メートル 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数
130 船種船名 漁船第十八福宝丸 漁船海茂丸 総トン数 19トン 14.68トン 登録長 16.27メートル
14.18メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 190
120 3 事実の経過 第八福宝丸(以下「八号」という。)は、養殖漁業に従事するFRP製漁船で、通常、A、B両受審人のほか甲板員1人が乗り組み、月に3回ないし4回長崎県宿ノ浦漁港と同県相浦港間の養殖魚や養殖魚用餌の運搬にあたっていたところ、レーダーが故障した状態のまま、平成9年11月19日、翌日の未明に宿ノ浦漁港を発し、相浦港へ同餌を積み取りに行くことになった。 ところで、A受審人は、それまで自らが乗船できないときには、B受審人もほか1人の甲板員も八号の船長職を執ることができる有効な海技免状を有していなかったことから、有資格者である自分の弟や友人に依頼して八号を運航していたところ、19日夜遅く友人に差し迫った事態が生じて相談にのることとしたので、自ら八号に乗り組むことができなくなったが、翌日の天候は穏やかと推定されたうえ、B受審人には相浦港に何度も同行させ、操舵も幾度となく行わせていたから、ビデオプロッターを見ながら周囲の状況を目視することによって、同人が無難に航海を達成できるものと思い、出港を延期したり、有効な海技免状を受有する代人を乗船させたりするなどの無資格者による運航防止措置をとることなく、渋るB受審人に対して養殖魚用餌を積み取りに行くよう指示し、同人に八号の運航を任せた。 指示を受けたB受審人は、空倉のまま、船首2.60メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、翌20日03時00分宿ノ浦漁港を発し、発航後江ノ島までの船橋当直を甲板員に行わせ、同島から相浦港までの操船を自らが行うこととし、05時08分丸田港南防波堤灯台から195度(真方位、以下同じ。)650メートルの地点に達したとき、甲板員から船橋当直を引き継ぎ、同時31分大立島灯台から341度450メートルの地点に達したとき、針路をほぼ相浦港に向く052度に定めるつもりでいたところ、折から南方に流れる強い潮流があるものと考え、針路を黒島南岸に向く038度に定め、機関を全速力前進にかけて11.5ノットの対地速力とし、6度ばかり右方に圧流されながら手動操舵により進行した。 定針したころB受審人は、左舷船首方に集魚中の灯船の灯火を視認し、次いで同方向1.8海里ばかりのところに、中型まき網漁業船団所属の網船である第十八福宝丸(以下「十八号」という。)が法定灯火のほか多数の作業灯を点灯しているのを認めて続航中、同船の裏こぎ船と思われる船の灯火や周囲で操業中の他のまき網船団の灯火を多数視認する状況となった。 05時35分少し前B受審人は、大立島灯台から030度1,600メートルの地点に達したとき、正船首方1海里のところに船首を西方に向けて揚網中の十八号と同船の左舷側で船首を南方に向けて裏こぎ中の海茂丸の灯火をそれぞれ視認したが、海茂丸が十八号の船尾から離れて行くように見えたので、同船は裏こぎ作業を終えたものと思い、十八号と海茂丸の動向監視による操業模様の確認を十分に行うことなく、適切な避航動作をとらないで原針路のまま、両船間を航過することにし、両船間に張られた長さ約110メートルの裏こぎロープに衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないで進行した。 B受審人は、05時39分半わずか前十八号に左舷船首20度155メートルまで接近したとき、十八号と海茂丸の灯火の見え具合から、両船の中間を航過するつもりで針路を5度右転して続航中、05時40分大立島灯台から037度1.8海里の地点において、船首をほぼ250度に向けた十八号と船首をほぼ070度に向けた海茂丸との間に張られた裏こぎロープに八号の球状船首上部が81度の角度をもって衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は低潮時で、視界は良好であった。 一方、十八号は、灯船3隻及び運搬船3隻とで船団(以下「十八号船団」という。)を組み、C受審人ほか9人が乗り組み、いわしを獲る目的で、船首2.10メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、同月19日16時00分長崎県神崎漁港を発し、同県平戸島南方沖合の漁場に向かった。 23時ごろC受審人は、帆上ノ瀬の北東方1,500メートルばかりの漁場に至って第1回目の操業を始め、翌20日00時30分ごろ運搬船に漁獲物を積み込んだのち、漁場を移動することとし、すでに灯船が集魚していた伏瀬灯標の北東方1,100メートルばかりの漁場に向かい、03時45分ごろ第2回目の操業を開始したが、燃料油タンクの切り替えを忘れていたところから、燃料油サービスタンクが油量不足となって主機が停止し、主機駆動の油圧ウインチが使用できなくなり、網で魚群を囲んだまま、折からの南方に流れる約2ノットの潮流によって漂流し始め、衝突地点付近に達した05時25分ごろ同ウインチが使用できるようになったので、揚網を開始した。 ところで、C受審人は、乗組員の一部が休暇を取っていて人手不足であったところから、投網後、環締め作業を終えたあと自らも甲板上で揚網作業に従事し、周囲の見張りについては各船がそれぞれ適宜周囲の状況に注意を払うことにして操業に従事していた。 こうして、C受審人は、05時35分少し前左舷船首方1海里ばかりのところに、衝突のおそれがある態勢で接近する八号の白、紅、緑3灯を視認できる状況にあったが、接近する他船は操業中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、揚網作業に専念していて接近する八号に気付かず、警告信号を行えないまま揚網中、前示のとおり衝突した。 また、海茂丸は、十八号船団所属のFRP製運搬船で、D受審人ほか甲板員1人が乗り組み、船首0.82メートル船尾1.17メートルの喫水をもって、同月19日15時30分神崎漁港を発して漁場に向かった。 漁場に着いたD受審人は、法定灯火のほか作業灯などの多数の灯火を点灯し、翌20日05時25分ごろ衝突地点付近で、甲板員を手伝いのため僚船に移乗させたあと十八号の裏こぎ作業にかかり、その後、同船の動きに合わせて種々移動しながら同作業を続け、同時35分少し前右舷船首方1海里ばかりのところに、衝突のおそれがある態勢で接近する八号の白、紅、緑3灯を視認できる状況にあったが、十八号の動向に合わせて裏こぎすることに気をとられ、周囲の見張りを十分に行うことなく、警告信号を行えないまま同作業を続けた。 こうして、D受審人は、接近する八号に気付かないまま裏こぎ作業中、05時40分わずか前僚船からの無線連絡で接近する他船がいることを初めて知り、船尾方を見たところ左舷船尾から現われた八号の船首部を初めて視認し、裏こぎロープを緩めようと急ぎ機関を中立としたが、効なく、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、八号と十八号の両船は、ともに損傷がなく、裏こぎロープが切断したが、海茂丸は、切断する前の同ロープに引かれて左舷方へ転覆し、僚船によって長崎県黒島漁港に引き付けられ、のち修理された。また、D受審人は海中に投げ出されたが、まもなく僚船によって救助された。
(原因) 本件漁具衝突は、夜間、長崎県大立島北東方沖合において、八号が、操業模様の確認が不十分で、まき網漁に従事して揚網中の十八号と同船を裏こぎ中の海茂丸の間に向首進行したことによって発生したが、十八号と海茂丸の両船が、いずれも見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。 八号の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格者による運航防止措置をとらなかったことと、無資格の船橋当直者が、適切に避航するための操業模様の確認を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、甲板員2人とともに八号に乗り組んで運航に従事していたところ、急用を生じて乗り組めなくなった場合、甲板員2人はいずれも八号の船長職を執ることができる有効な海技免状を受有していなかったのであるから、同人らだけで八号を運航することのないよう、出港を延期したり、有効な海技免状を受有する代人を乗船させたりするなどの無資格者による運航防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、レーダーが故障していたものの、翌日の天候は穏やかと推定されたうえ、甲板員には相浦港に何度も同行させ、操舵も幾度となく行わせていたから、ビデオプロッターを見ながら周囲の状況を目視することによって、同人が無難に航海を達成できるものと思い、無資格者による運航防止措置をとらなかった職務上の過失により、同人に運航を任せ、本件を発生させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、長崎県大立島北東方沖合において、揚網中の十八号と同船を裏こぎ中の海茂丸を認めた場合、適切な避航動作がとれるよう、両船の動向を監視してその操業模様を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、十八号の船尾から海茂丸が離れて行くように見えたので、同船は裏こぎ作業を終えたものと思い、操業模様を確認しなかった職務上の過失により、両船間に向首進行して裏こぎロープとの衝突を招き、海茂丸を転覆させ、同ロープを切断するに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人が、夜間、まき網漁に従事して揚網中、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 しかしながら、このことは、C受審人が多数の灯火を点灯して揚網作業に従事しており、付近を航行する他船にとって明らかに操業中の漁船であることを識別できた点に徴し、C受審人の職務上の過失とするまでもない。 D受審人が、夜間、まき網漁に従事して裏こぎ中、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 しかしながら、このことは、D受審人が法定灯火のほか作業灯など多数の灯火を点灯して操船にあたり、網船の動きに合わせて種々移動しながら裏こぎ中であった点に徴し、D受審人の職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。 |