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2000年(平成12年)

平成11年長審第48号
    件名
貨物船ふじとく丸岸壁衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年1月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、原清澄、保田稔
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:ふじとく丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
ふじとく丸・・・右舷船尾外板に凹損
西岸壁5号・・・コンクリート製壁面の一部を欠損

    原因
見張り不十分

    主文
本件岸壁衝突は、着岸作業やり直し中の見張りが不十分で、岸壁を離れ、接近する小型漁船との衝突を避けるため、機関を後進にかけ、後進行きあしのついたまま、岸壁に向かって進行したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月12日01時50分
千葉県木更津港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ふじとく丸
総トン数 497トン
全長 73.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット
3 事実の経過

19時00分A受審人は、西岸壁6号の西北西方1.6海里ばかりの地点で投錨し、同岸壁が空くのを待ったのち、翌12日01時10分抜錨して一等航海士と二等航海士を船首配置に、機関長と一等機関士を船尾配置にそれぞれ就け、自ら手動操舵に当たりながら操船の指揮を執り、機関を8.5ノットの港内全速力前進にかけて掘り下げ水路沿いに進行し、同時20分同岸壁沖合150メートルに設置された新日本製鉄君津第12号仮設灯浮標(以下「仮設灯浮標」という。)の手前450メートルの地点で、機関を3.0ノットの微速力に減じ、同時21分半木更津港防波堤西灯台から187度(真方位、以下同じ。)1.5海里の、西岸壁3号上に存在する験潮所から288度510メートルの地点に達し、仮設灯浮標を左舷前方200メートルに見るようになったとき、機関を停止して左舵を取り、仮設灯浮標を左舷側に見るように惰力で回頭を始めた。
ところで、西岸壁6号は、その前面から23.8メートル隔てた海上に長さ84.0メートルの建家基礎部を同岸壁と平行に設け、同岸壁と同基礎部をまたいで幅51.0メートル同岸壁上の高さ32.2メートルの屋根をかけた全天候型の岸壁で、着岸するには、いったん南東側に隣接する西岸壁5号に右舷付け係留としたのち、係留索を西岸壁6号上のビットに取り直し、係船ウインチで同索を巻き締めながら岸壁沿いに船体を前進させて同岸壁に至り、離岸するには、西岸壁5号上のビットに係留索を取り直したのち、岸壁沿いに船体を後進させて同岸壁に戻り、その後、同岸壁から離れて掘り下げ水路に向かう方法がとられていた。
01時25分少し前A受審人は、験潮所から284度260メートルの地点に達して針路が034度となったとき、験潮所から321度280メートルの、ドルフィン上に設けられた西岸壁6号入口を示す黄色回転灯を正船首少し左に見るようになったので、回頭を止めて同灯を船首目標として続航し、同時25分船首が同灯まで50メートルばかりに接近したならば報告するよう指示していた一等航海士からその旨報告を受け、平素と比べて同灯まで遠いと感じたものの、左舷錨を投下し、約1.0ノットの前進行きあしで、同灯まで100メートルばかりあることに気付かないまま、同錨鎖を延ばしながら西岸壁5号に接近した。

01時30分A受審人は、船首と船尾の係留索を西岸壁5号上のビットに取って同岸壁に係留したのち、西岸壁6号上のビットに同索を取り直して同時40分同岸壁へ進行し始めた。
ところが、A受審人は、1節の長さ28メートルの左舷錨鎖7節全部を延ばしても船体が西岸壁6号の所定の位置に達せず、積荷役に支障を生じることから、同岸壁への着岸やり直しのため、投錨地点を変更することとし、01時45分船体を後進させて西岸壁5号に戻り、いったん同岸壁を離れることとしたが、付近に操船の支障となるような他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、そのころ掘り下げ水路を南下し、仮設灯浮標と自船との間に向かって低速力で接近する態勢の小型漁船に気付かないで、左舷錨鎖を巻いて同岸壁を離れ始めた。
01時49分A受審人は、左舷錨鎖を2節まで巻き上げて船尾が西岸壁5号から30メートルばかり離れ、船首が90度左方に回頭して239度を向いたとき、右舷船首至近に迫った小型漁船を認め、同船との衝突を避けるため、同錨鎖の巻き上げを中止して少し延ばし、前進行きあしを止めようとして機関を微速力後進にかけ、同時49分少し過ぎ機関を停止した。

ふじとく丸は、小型漁船が依然避航の気配を見せずに接近するので、A受審人が機関を前進にかけないまま惰力後進中、01時50分験潮所から324度240メートルの地点において、船首が254度を向いたとき、約1.0ノットの後進行きあしをもって、右舷船尾が西岸壁5号に75度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
衝突の結果、ふじとく丸は、右舷船尾外板に凹損を生じたが、のち修理され、西岸壁5号は、コンクリート製壁面の一部を欠損した。


(原因)
本件岸壁衝突は、夜間、千葉県木更津港において、西岸壁6号への着岸やり直しのため、投錨地点を変更することとし、いったん隣接する西岸壁5号を離れる際、見張りが不十分で、錨鎖を巻きながら同岸壁を離れ、至近に迫った小型漁船との衝突を避けようとして機関を後進にかけ、後進行きあしのついたまま、同岸壁に向かって進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、千葉県木更津港において、西岸壁6号への着岸やり直しのため、投錨地点を変更することとし、いったん隣接する西岸壁5号を離れる場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、付近に操船の支障となるような他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷前方から低速力で接近する小型漁船に気付かないで、錨鎖を巻きながら同岸壁を離れ、至近に迫った同船との衝突を避けようとして機関を後進にかけ、後進行きあしのついたまま、同岸壁に向かって進行して衝突を招き、ふじとく丸の右舷船尾外板に凹損を、西岸壁5号のコンクリート製壁面の一部に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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