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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年11月3日20時20分 長崎県壱岐島南西岸沖合赤部瀬戸 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三徳光丸 漁船海洋丸 総トン数 4.5トン 0.8トン 全長 12.90メートル 6.26メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 200キロワット 漁船法馬力数
25 3 事実の経過 第三徳光丸(以下「徳光丸」という。)は、採介藻漁業に従事するFRP製漁船で、長崎県郷ノ浦町漁業協同組合の任意団体である潜水業者協力会の監視船として、休漁期に当たる9月1日から12月15日までの期間、同漁業協同組合の共同漁業権内の密漁監視業務を行っており、同業務を行う目的で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.35メートル船尾0.55メートルの喫水をもって、平成10年11月3日20時05分長崎県小崎漁港を発し、前、後部各マスト灯、両舷灯及び船尾灯を表示し、壱岐島西岸沖合の監視区域に向かった。 A受審人は、20時15分わずか過ぎ壱岐大島港東防波堤灯台(以下「大島港東防波堤灯台」という。)から088度(真方位、以下同じ。)1,620メートルの地点で、針路を240度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)とし、操舵室中央部で操舵に当たって進行した。 ところで、徳光丸は、機関を全速力前進にかけて航行すると、船首が浮き上がり、操舵室中央部で操舵に当たると、正船首から各舷5度の死角を生じ、船首方向の見通しが悪い状況にあった。 A受審人は、20時17分半わずか過ぎ、大島港東防波堤灯台から133度790メートルの地点に達したとき、長島と原島との間の赤部瀬戸を通行することとし、針路を235度に転じたところ、正船首方1,030メートルに海洋丸のマスト灯と船尾灯を兼ねた白色全周灯を認め得る状況にあったが、左舷方の鉾埼付近と右舷船首方の長島東岸沖合で操業している漁船に気を取られ、船首を振るなどの死角を補う見張りを十分に行うことなく、海洋丸の存在に気付かず、左右の漁船に対して持ち運び式探照灯を照射したりしながら続航した。 A受審人は、その後海洋丸を追い越す態勢で接近したが、依然見張り不十分で、これに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく、同じ針路、速力のまま進行中、20時20分大島港東防波堤灯台から195度1,220メートルの地点において、徳光丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、海洋丸の左舷船尾に後方から20度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はなく、視界は良好であった。 また、海洋丸は、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、水いか釣りを行う目的で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.1メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日17時30分長崎県和歌漁港を発し、法定灯火を表示し、赤部瀬戸付近の釣場に至って釣りを行った。 B受審人は、20時15分大島港東防波堤灯台から189度1,090メートルの地点で、針路を235度に定め、機関を極微速力にかけ、1.2ノットの速力とし、両舷からいか針を付けた竿を各1本ずつ延出し、操舵室で操舵に当たって進行した。 ところで、海洋丸の法定灯火は、操舵室上部のマストにマスト灯と船尾灯を兼ねた白色全周灯1個を、その下方に両色灯を連掲して設置し、いずれも12ボルトの蓄電池を電源とする20ワットの電球により表示されていた。 B受審人は、20時17分半わずか過ぎ、大島港東防波堤灯台から192.5度1,170メートルの地点に達したとき、正船尾方1,030メートルに白、白、紅、緑4灯を表示して後方から接近する徳光丸を認め得る状況にあったが、通常赤部瀬戸を通航する船舶は同瀬戸の中央部を航行するので、まさか長島寄りを通航する船はいないものと思い、後方の見張りを十分に行うことなく、その存在に気付かないまま続航した。 B受審人は、20時19分半徳光丸が避航動作をとらないまま自船を追い越す態勢で220メートルに接近したが、依然見張り不十分で、これに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行し、同時20分少し前至近距離に徳光丸を初めて認め、左舵一杯を取ったが、船首が215度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、徳光丸は右舷船首及び同舷外板に擦過傷を生じ、海洋丸は操舵室が離脱して海中に没したがのち修理され、B受審人が頭部打撲などの負傷を負った。
(原因) 本件衝突は、夜間、壱岐島南西岸沖合の赤部瀬戸において、海洋丸を追い越す徳光丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、海洋丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、赤部瀬戸を西行する場合、船首方に死角を生じる状況であったから、先航する他船を見落とさないよう、船首を振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左右で操業している漁船に気を取られ、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、海洋丸の存在に気付かず、同船を確実に追い越し、かつ十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま進行して衝突を招き、自船の右舷船首及び同舷外板に擦過傷を生じ、海洋丸の操舵室を離脱させ、B受審人に頭部打撲などの負傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、赤部瀬戸を水いか釣りを行いながら西行する場合、後方から接近する他船を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、通常赤部瀬戸を通航する船舶は同瀬戸中央部を航行するので、まさか長島寄りを通航する船はいないものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、徳光丸の存在に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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