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2000年(平成12年)

平成11年門審第23号
    件名
プレジャーボートきよ丸プレジャーボートありさ丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年1月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

西山烝一、宮田義憲、供田仁男
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:ありさ丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
きよ丸・・・・右舷船首部のかんぬきを破損、船外機が脱落して濡損
ありさ丸・・・右舷船首外板に凹損、B船長が転落し、溺水により死亡

    原因
ありさ丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
きよ丸・・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
補佐人前野宗俊

    主文
本件衝突は、ありさ丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢のきよ丸に対し、新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたことによって発生したが、きよ丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月2日06時02分
鹿児島県垂水南漁港(新城地区)南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートきよ丸 プレジャーボートありさ丸
全長 4.92メートル 4.22メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 7キロワット 7キロワット
3 事実の経過
きよ丸は、和船型の船外機付きFRP製プレジャーボートで、船長Bが1人で乗り組み、魚釣りの目的で、平成10年8月2日05時30分鹿児島県垂水南漁港(新城地区)(以下「垂水南漁港」という。)の小谷南防波堤先端(以下「防波堤先端」という。)から125度(真方位、以下同じ。)600メートルばかりにあたる同県垂水市大都の海岸の係留地を発し、同漁港西方沖合の釣り場に向かった。
ところで、垂水南漁港では西方に延びる小谷南防波堤がほぼ完成しており、同防波堤の南東方には、海岸に沿って130メートルばかり沖合に、6個の消波堤が築造され、それぞれの間が狭い水路となっていた。

B船長は、船尾部に腰を掛け、同沖合の釣り場を南東方に移動しながらいか引き縄釣りを行い、05時58分防波堤先端から223度210メートルの地点において、針路を095度に定め、機関を2.0ノット(対地速力、以下同じ。)の極微速力前進にかけて手動操舵とし、同防波堤の南方70メートルのところから南東方に延びる消波堤のほぼ中央部に向かって進行した。
B船長は、06時01分わずか過ぎ防波堤先端から163度175メートルの地点に達したとき、右舷船首36度435メートルのところに消波堤の間を出てきたありさ丸を視認することができる状況であったが、見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かなかった。
B船長は、06時01分少し過ぎありさ丸が右回頭を終えたとき、同船が右舷船首40度395メートルとなり、自船の前路に向かう針路として増速し、新たな衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったものの、依然として見張りが不十分で、このことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに釣りを続けながら続航中、同時02分わずか前右舷船首間近に迫ったありさ丸を初めて認め、大声を出したが、何をするいとまもなく、06時02分防波堤先端から150度200メートルにあたる、鹿屋港北防波堤灯台から328.5度3.0海里の地点において、きよ丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部に、ありさ丸の右舷船首が前方から45度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
また、ありさ丸は、和船型の船外機付きFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同日06時00分防波堤先端から125度600メートルばかりにあたる同県垂水市大都の海岸の係留地を発し、垂水南漁港内の釣り場に向かった。
ところで、ありさ丸は、全速力前進で航走すると船首が浮上し、船尾中央に腰掛けて操船に当たると、船首部の見通しが妨げられ、正船首から左右それぞれ約14度の範囲に死角を生じる状況であった。
A受審人は、発航後、竿を使用して少し沖合に出たところで船外機を降ろし、ほぼ船尾中央に腰を掛け、左手で操縦ハンドルを持って操船に当たり、機関を微速力前進として消波堤の間を通過した。

06時01分わずか過ぎA受審人は、防波堤先端から140度590メートルの地点に達したとき、船首を垂水南漁港に向けるため徐々に右回頭を始めたが、右舷側至近の消波堤を注視することに気をとられ、見張りを十分に行わなかったので、右舷船首87度435メートルのところに、きよ丸を視認することができる状況にあったものの、同船の存在に気付かなかった。
A受審人は、06時01分少し過ぎ防波堤先端から143度560メートルの地点において、右回頭を終えて針路を同漁港方に向く320度に定めたとき、きよ丸が左舷船首5度395メートルとなり、そのまま進行すれば前路180メートルばかりを同船が無難に航過する状況であったものの、機関を16.0ノットの全速力前進に増速し、同船と新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたことに気付かず、その後船首方向の死角を補う見張りが不十分で、依然として右舷方の消波堤を注視しながらこれに沿って進行中、中央部に腰掛けて釣りの準備作業をしていた同乗者が、きよ丸を至近に認めて叫び声をあげたので、機関を中立回転としたが効なく、ありさ丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、きよ丸は、右舷船首部のかんぬきを破損したほか船外機が海中に脱落して濡損を生じ、ありさ丸は、右舷船首外板に凹損を生じ、また、B船長(昭和10年5月25日生、四級小型船舶操縦士免状受有)は、衝突の衝撃で海中に転落し、病院に搬送されたが溺水により死亡した。

(原因)
本件衝突は、垂水南漁港南方沖合において、ありさ丸が、見張り不十分で、前路を無難に航過する態勢のきよ丸に対し、新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたことによって発生したが、きよ丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、垂水南漁港南方沖合において、消波堤の間を通過し、同漁港方に向けて回頭する場合、回頭方向の他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷側至近の消波堤を注視することに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、きよ丸に対し新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたことに気付かず、そのまま進行して同船との衝突を招き、きよ丸の右舷船首部のかんぬきを破損させたほか船外機の濡損を、ありさ丸の右舷船首外板に凹損を生じさせ、B船長を溺死させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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