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2000年(平成12年)

平成10年広審第107号
    件名
引船第11神海丸引船列プレジャーボートウォーターメロン衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年1月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

中谷啓二、釜谷奬一、織戸孝治
    理事官
前久保勝己

    受審人
A 職名:第11神海丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:ウォーターメロン船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
メロン号・・・・左舷中央部を破損して転覆

    原因
第11神海丸引船列・・・狭視界時の航法(速力)不遵守
メロン号・・・狭視界時の航法(速力)不遵守

    主文
本件衝突は、第11神海丸引船列が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、ウォーターメロンが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月25日11時15分
瀬戸内海伊予灘北部
2 船舶の要目
船種船名 引船第11神海丸 サンドコンパクション船神
第2不動
総トン数 250.13トン 約1,554トン
全長 50メートル
幅 22メートル
深さ 4メートル
登録長 26.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,912キロワット
船種船名 プレジャーボートウォーターメロン
全長 7.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 77キロワット
3 事実の経過
第11神海丸(以下「神海丸」という。)は、前部に船橋を備えた押船兼引船で、A受審人ほか5人が乗り組み、船首尾とも約2メートルの喫水で作業員7人を乗せた、非自航の箱型土木作業船神第2不動(以下「不動」という。)を引き、神海丸の船尾から不動の船尾端まで約100メートルの長さの引船列となり、船首2.6メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成10年4月25日06時05分山口県平生港を発し、神戸港に向かった。

A受審人は、出航操船に従事したのち休息をとり、その後10時ごろ昇橋して平郡水道を東進していたところ霧模様になり、まもなく視程が約100メートルに低下したのを認め、自ら操船指揮を執ることとし、当直中の一等航海士を操舵に、甲板手を見張りにそれぞれ当たらせ、10時15分沖家室島長瀬灯標(以下「長瀬灯標」という。)から259度(真方位、以下同じ。)4.9海里の地点に達したとき、針路を海図記載の平郡水道推薦航路に沿う087度に定め、機関を全速力前進にかけ、5.5ノットの対地速力で、霧中信号を行わずに、手動操舵により進行した。
11時10分A受審人は、レーダーにより、右舷船首45度0.7海里ばかりに、微弱な反射の小映像を探知し、同映像が漂泊中のウォーターメロン(以下「メロン号」という。)のものであったが、船舶かどうか判別がつき難く、レーダーを0.75海里レンジに切り替えて監視を行いながら続航した。

11時12分A受審人は、長瀬灯標から147度1,450メートルの地点に達したとき、前示映像を右舷船首57度1,100メートルのところに、明確に船舶のものとして認め、そのころメロン号が発進し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを知ったが、汽笛により短音を数回吹鳴したものの、接近に伴い同映像の方位が右方へ変化するのを認めて同船が右舷側を航過するものと思い、速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じることなく進行した。
11時14分半ごろA受審人は、メロン号が右舷正横近く150メートルばかりに近づいたとき、同船のレーダー映像が海面反射の中に入ったことから、これを見失ったまま続航中、11時15分長瀬灯標から135度1,700メートルの地点において、原針路、原速力のまま、不動の船首部右端がメロン号の左舷中央部に後方から60度の角度で衝突した。

当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視程は約50メートルであった。
A受審人は、不動の作業員からの報告で衝突したことを知った。
また、メロン号は、レーダー及び汽笛を装備しないFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、知人4人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日09時00分岩国港を発し、屋代島西岸沿いに南下して平郡水道を横切り、10時ごろ平郡島南東部沖の釣場に至って釣りを開始した。
10時54分ごろB受審人は、釣果を求めて移動することとし、伊予灘航路第7号灯浮標の北方0.3海里ばかりの地点を発進し、沖家室島周辺の釣場に向け北上中、同島南方2海里付近に達したころ、霧のため視界が悪化してきたのを認め、まもなく視程が約10メールに低下したことから、11時09分長瀬灯標から146度2,550メートルの地点で、機関を中立にして漂泊を始めた。

ところで漂泊地点から沖家室島に至る海域は、多数の船舶が平郡水道推薦航路に沿って東西方向に航行する海域で、B受審人は、長年の付近航行経験からこのことを知っていた。
11時12分B受審人は、漂泊を打ち切って航行を開始すると、自船の機関音によって他船の発する音響信号は聞き取れないことがあり、他船に至近距離に接近するまで気付くことができないおそれがあったが、他船の音響信号を聴取できるものと思い、再度北上して沖家室島沿岸で待機しようと、視界が回復するまで進行を中止することなく、GPSプロッターの表示を見て、針路を沖家室島東端に向け347度に定め、機関を微速力の約1,500回転にかけて前示漂泊地点を発進し、10.0ノットの対地速力で、手動操作によって進行した。
発進したころB受審人は、左舷船首23度1,100メートルのところを東進中の第11神海丸引船列の前路に向首し、その後神海丸による汽笛の吹鳴も聞き取れずに続航中、11時15分わずか前同乗者の叫び声で至近に迫った不動に気付き、全速力後進をかけたが及ばず、027度に向首して前示のとおり衝突した。

衝突の結果、不動にほとんど損傷はなかったが、メロン号は左舷中央部を破損して転覆し、船体は神海丸により沖家室島本浦地区に引き付けられ、乗船者は海中に飛び込み、不動及び付近航行船に救助された。

(原因)
本件衝突は、霧のため視界が制限された沖家室島沖合において、東進中の第11神海丸引船列が、レーダーにより前路に認めたメロン号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じなかったことと、北上中のレーダーを装備しないメロン号が、視界が回復するまで進行を中止しなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人が、霧のため視界が制限された沖家室島沖を東進中、レーダーにより前路に認めたメロン号と著しく接近することを避けることができない状況であることを知った場合、速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船が自船の右舷側を航過するものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じなかった職務上の過失により、衝突を招き、メロン号の左舷中央部に破損を生じさせ転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が、沖家室島沖合を北上中、霧のため視界制限状態となったことを認めた場合、進行すると自船の機関音で他船の発する音響信号を聞きとれないことがあり、他船に至近距離に接近するまで気付くことができないおそれがあったから、視界が回復するまで進行を中止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、他船の音響信号を聴取できるものと思い、視界が回復するまで進行を中止しなかった職務上の過失により、第11神海丸引船列の存在に気付くことができずに衝突を招き、メロン号の左舷中央部に破損を生じさせ転覆させるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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