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2000年(平成12年)

平成11年広審第3号
    件名
貨物船第52児島丸貨物船第八栄福丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年1月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、黒岩貢、中谷啓二
    理事官
向山裕則

    受審人
A 職名:第52児島丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第八栄福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
児島丸・・・船首船底部に凹損及び左舷船首部に亀裂を伴う凹損
栄福丸・・・左舷船首部及び左舷船橋部に凹損

    原因
児島丸・・・狭視界時の航法(速力)不遵守
栄福丸・・・狭視界時の航法(速力)不遵守

    主文
本件衝突は、第52児島丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第八栄福丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月25日02時12分
瀬戸内海 広島県豊田郡大崎上島東方海域
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第52児島丸 貨物船第八栄福丸
総トン数 499トン 199トン
全長 65.30メートル 47.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 625キロワット
3 事実の経過
第52児島丸(以下「児島丸」という。)は、液体化学薬品の運搬に従事する船尾船橋型液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成10年4月24日21時50分香川県丸亀港を発し、燃料油補給のため、来島海峡・大下瀬戸経由で広島県豊田郡大崎上島の鮴(めばる)崎南方の洋上補油地点に向かった。
児島丸の船橋当直は、単独4時間3交替制となっていたが、来島海峡手前から霧のため視界が制限される状態となったので、A受審人が操船指揮を執り、甲板長及び一等機関士を見張りに就け、時折手動操作により霧中信号を吹鳴しながら航行した。

こうして翌25日01時47分A受審人は、大下瀬戸北方の中ノ鼻灯台から075度(真方位、以下同じ。)650メートルの地点に至り、針路を014度に定め、機関を半速力前進にかけ、折からの潮流に抗して8.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、航行中の動力船の灯火を表示し、自動操舵により進行した。
A受審人は、02時02分鮴埼灯台から186度1.65海里の地点で船首方1.76海里ばかりのところにレーダーにより第八栄福丸(以下「栄福丸」という。)の映像を初認したので、同船と右舷を対して航過するつもりで、自動操舵のまま針路を007度に転じて続航した。
A受審人は、02時03分鮴埼灯台から186度1.50海里の地点に達したとき、栄福丸のレーダー映像を右舷船首6度1.46海里ばかりのところに認めるようになり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めることなく進行し、同時06分補油地点が近づいたので、機関を微速力前進の3.4ノットの速力に減じ、更に同時10分ごろ針路を002度として続航中、同時12分少し前右舷船首方近距離に栄福丸を視認し、直ちに右舵一杯をとるも及ばず、児島丸は、02時12分鮴埼灯台から186度1,300メートルの地点で、ほぼ原針路・原速力のまま同船の船首部が栄福丸の左舷船首部に前方から30度の角度で衝突した。

当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、衝突地点付近には1.6ノットの南流があり、視程は約60メートルであった。
また、栄福丸は、主に瀬戸内海で専らメタノールの運搬に従事する船尾船橋型引火性液体物質ばら積船兼油タンカーで、B受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.3メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、同月24日15時50分尼崎西宮芦屋港を発し、大崎上島の木江港に向かった。
 栄福丸の船橋当直は、B受審人と甲板長の2名による単独6時間交替制となっていたが、因島大橋を通過したころから霧のため視界が制限される状態となったので、B受審人が操船指揮を執り、甲板長を手動操舵に就け、自動吹鳴装置により霧中信号を吹鳴して三原瀬戸を航過して航行した。
こうして翌25日01時49分B受審人は、鮴埼灯台から060度1.90海里の地点で、針路を258度に定め、機関を半速力前進にかけ折からの潮流に乗じて8.6ノットの速力で、航行中の動力船の灯火を表示し、手動操舵により進行した。

B受審人は、01時55分鮴埼灯台から046度1.15海里の地点で、左舷船首方3.63海里ばかりのところに児島丸のレーダー映像を初認し、小舵角をとって左転して02時00分同灯台から041度850メートルの地点で針路を199度に定めて続航した。
B受審人は、02時03分鮴埼灯台から110度300メートルの地点に達したとき、児島丸のレーダー映像を左舷船首6度1.46海里ばかりのところに認めるようになり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、自船は大崎上島に接航しているから、そのうち児島丸が右転して左舷を対して航過するものと思い、行きあしを止めることなく、機関を微速力前進に減じたのみで4.6ノットの速力で進行中、児島丸と更に接近するので、同時12分少し前機関を後進にかけて行きあしを止めた直後、左舷船首近距離に児島丸を視認し、直ちに後進一杯をかけるも及ばず、栄福丸は、212度を向首して前示のとおり衝突した。

衝突の結果、児島丸は船首船底部に凹損及び左舷船首部に亀裂(きれつ)を伴う凹損を生じ、栄福丸は左舷船首部及び左舷船橋部に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、霧のため視界が制限された大崎上島東方海域において、北上する児島丸が、レーダーで前路に探知した栄福丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、南下する栄福丸がレーダーで前路に探知した児島丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、霧のため視界が制限された大崎上島東方海域を北上中、前路に栄福丸のレーダー映像を認め、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、衝突を招き、児島丸の船首船底部に凹損及び船首左舷部に亀裂(きれつ)を伴う凹損を、栄福丸の船首左舷部及び船橋左舷部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、霧のため視界が制限された大崎上島東方海域を南下中、前路に児島丸のレーダー映像を認め、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は大崎上島に接航しているから、そのうち児島丸が右転して左舷を対して航過するものと思い、行きあしを止めなかった職務上の過失により、衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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