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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月28日07時50分 瀬戸内海備後灘 2 船舶の要目 船種船名
漁船昇栄丸 漁船平和丸 総トン数 1.61トン 0.90トン 登録長 7.00メートル 6.03メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 20
25 3 事実の経過 昇栄丸は、広島県因島市付近の海域で、主に定置網漁業に従事する、有効な音響装置を設備しない、全長12メートル未満の、船尾方に操舵室を有する木製漁船で、B(昭和8年1月25日生、一級小型船舶操縦士免状受有、受審人に指定されていたところ、平成11年11月9日死亡したので、これを取り消した。)が船長として1人で乗り組み、船首0.15メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、年に1度行う宮参りの目的で、平成9年10月28日07時35分同県土生港三庄地区を発し、その北東方約10海里のところにある同県福山港内の鞆港に向かった。 B船長は、発航後、土生港向浜防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)の北側を航行して三庄湾に入り、ここを東行中、07時41分防波堤灯台から076度(真方位、以下同じ。)880メートルの地点に達したとき、針路を074度に定め、機関を5.5ノットの半速力前進にかけて舵棒を操作しながら進行した。 07時46分B船長は、防波堤灯台から074度1,670メートルの地点に達したとき、突然、推進器の回転に異常を感じ、機関を停止させて船尾の海面を覗き込んだところ、浮遊中のロープが推進器翼に絡まっているのを認め、199度を向首して漂泊し、早速、絡んだロープを推進器翼から取り外す作業に取りかかることにしたが、同作業は船尾甲板上にうつ伏せの姿勢になって比較的長時間を要するものであったことから、周囲の他船の有無に十分気を配りながら実施する状況にあったものの、即刻の処置を取らないと、このまま漂流を続けることになると懸念し、周囲海域を一瞥しただけで自船に向けて来航する他船はいないものと思い、見張りを十分に行うことなく同作業を開始し、このとき左舷船首75度1,235メートルのところに自船に向けて平和丸が北西進していたが、このことに気付かなかった。 07時48分B船長は、平和丸が同一方位のまま自船に向首して620メートルとなり、その後、衝突のおそれのある態勢となって接近したが同作業に専念し、依然、見張り不十分でこのことに気付かず、呼笛を吹くなどして注意喚起の手段を講じずにいるうち、同時50分少し前平和丸の機関音を左舷正横付近に聞き、同方向を見たところ、至近に迫った同船を初めて視認したものの、どう対処することもできず、07時50分防波堤灯台から074度1,670メートルの地点において、昇栄丸の左舷船尾に平和丸の船首が前方から75度の角度をもって衝突し、その反発で平和丸の船尾が昇栄丸の船尾に再度衝突した。 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。 また、平和丸は、因島付近の海域で、1本釣りを行う船尾部に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、たちうお等の1本釣りの目的で、船首0.15メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、同日05時30分ごろ因島市鏡浦町の定係地を発し、愛媛県弓削島東方の釣場に向かった。 A受審人は、06時ごろ釣場に着き、1本釣りを行っていたが、不漁で、07時35分ごろ雑魚を数匹釣ったところで帰途に就くこととし、同時41分防波堤灯台から103度1.9海里の地点に達したとき、針路を304度に定め、機関を全速力前進よりわずかに減じた8.0ノットにかけて、舵棒を操作しながら進行した。 07時46分A受審人は、防波堤灯台から096度1.4海里の地点に達したとき、正船首1,235メートルのところに昇栄丸が漂泊していたものの、同船に気付かなかった。 07時48分A受審人は、防波堤灯台から088度1.2海里の地点に達したとき、正船首620メートルのところに漂泊中の昇栄丸を視認し得る状況となり、その後、同船と方位の変化なく、衝突のおそれのある態勢となって接近したが、このころ急に機関の点検を思い立ち、前屈した姿勢となり、右手に舵棒を握り、舵を中央に保持して機関室内を覗き込み、前路の見張りを十分に行うことなく進行した。 07時49分A受審人は、昇栄丸と同一方位のまま310メートルに接近したが、依然、見張り不十分で、このことに気付かず、同船を避けないまま進行中、平和丸は、突然、衝撃を受け、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、昇栄丸は、舵及び船尾部に損傷を、平和丸は、船首部に擦過傷、推進器及び舵にそれぞれ損傷を生じたが、のち、いずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、因島東側の三庄湾において、同湾を北西進する平和丸が、前路の見張り不十分で、前路に漂泊中の昇栄丸を避けなかったことによって発生したが、昇栄丸が、見張り不十分で、呼笛を吹くなど注意を喚起する手段を講じなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、因島東側の三庄湾を北西進して帰途に就く場合、前路に漂泊中の昇栄丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、機関の点検のため機関室内を前屈した姿勢となって覗き込み、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷、推進器及び舵に損傷を、昇栄丸の舵及び船尾部にそれぞれ損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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