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2000年(平成12年)

平成11年広審第49号
    件名
押船第七北斗丸被押バージ(船名なし)漁船博洋丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年1月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、釜谷奬一、中谷啓二
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第七北斗丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:博洋丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
北斗丸押船列・・・バージ左舷船首部に擦過傷
博洋丸・・・・・・右舷中央部に破口を生じて転覆、のち廃船処理、 船長が頭部などに1ヶ月の治療を要する打撲傷

    原因
北斗丸押船列・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
博洋丸・・・・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
理事官川本豊

    主文
本件衝突は、第七北斗丸被押バージ(船名なし)が、見張り不十分で、漂泊中の博洋丸を避けなかったことによって発生したが、博洋丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月13日13時15分
広島県安芸郡 三之瀬瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 押船第七北斗丸 被押バージ(船名なし)
総トン数 19トン 約908トン
全長 16.66メートル 45.00メートル
幅 13.00メートル
深さ 3.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 809キロワット
船種船名 漁船博洋丸
総トン数 4.90トン
全長 11.27ートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 253キロワット
3 事実の経過
第七北斗丸(以下「北斗丸」という。)は、専ら瀬戸内海で石材の運搬に従事する鋼製引船兼押船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか甲板員1人が乗り組み、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、船首1.0メートル船尾0.6メートルとなった空倉の非自航式鋼製バージ(船名なし)(以下「バージ」という。)の船尾凹部に、ワイヤ等により船首を押し付け、全長約60メートルの押船列(以下、北斗丸及びバージの両船を総称するときには、「北斗丸押船列」という。)を構成し、平成10年11月13日13時12分わずか過ぎ蒲刈港丸谷外防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から158度(真方位、以下同じ。)1,220メートルばかりの蒲刈大橋付け根近くの広島県上蒲刈島道路工事土木現場を発し、同県倉橋島に向かった。

ところでA受審人及び他の甲板員は、B指定海難関係人の子供で、同人等が北斗丸押船列の荷役及び荷役後の後片付けや掃除を行い、B指定海難関係人は、乗船経験が長いことなどから離着岸操船を行っており、当日も前示土木現場に船首付けをして荷揚を終了したのち離岸操船を同人が行うこととし、他の乗組員は、バージ上で後片付け等を行っていた。一方、A受審人は、B指定海難関係人が父親でもあることから見張りに対する指導を徹底することなく操船をB指定海難関係人に行わせていた。
こうしてB指定海難関係人は、発航時機関を後進1,500回転にかけて右回頭を行い、13時13分北斗丸押船列船首部が防波堤灯台から162度1,100メートルになったところで、船首を蒲刈大橋にほぼ直角に向け、機関を前進1,750回転にかけて三之瀬瀬戸の南下を開始した。
B指定海難関係人は、機関を前進にかけたとき操舵室右舷側の海面に他船の航走波のような波立ちを視認したが、このことに特に留意することなく進行し、13時13分半少し過ぎ北斗丸押船列の船首部が蒲刈大橋下付近の防波堤灯台から165度1,160メートルの地点になったとき、針路を210度に定めて手動操舵とし、速力も整定して8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。

定針したころB指定海難関係人は、ほぼ正船首方400メートルばかりのところに漂泊中の博洋丸を視認でき、その後衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、マイクを片手に保持して、バージ上で後片付け中のA受審人等に作業指示を与えるなどしながら操船していたので、前路の見張りが不十分となり、博洋丸に気付かず、13時14分同船と310メートルばかりに接近したが、同船を避けることなく、同針路、同速力で続航中、同時15分直前博洋丸のマストを左舷船首至近に認め、衝突の危険を感じて機関を全速力後進とするも及ばず、北斗丸押船列は、13時15分防波堤灯台から175度1,460メートルの地点で、原針路、原速力のままバージの左舷前部が博洋丸の右舷ほぼ中央部に後方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は薄曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、衝突地点付近には1.7ノットの北北東流があった。

A受審人は、バージで作業中、博洋丸と衝突したことを知り、海中に飛び込みC受審人を救助するなど事後の措置に当たった。
また、博洋丸は、1本釣り漁業に従事し、汽笛を装備するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、同日09時ごろ呉港広区の根拠地を発し、漁場に向かった。
発航後C受審人は、呉港仁方区で操業の後、蒲刈大橋南方の水域へ漁場移動することとし、機関をほぼ全速力前進にかけ20.0ノットの速力で航行中、13時13分防波堤灯台から164度1,100メートルの地点で北斗丸押船列の右舷側を針路197度で追い抜いて南下して衝突地点付近で右転し、同時14分少し前防波堤灯台から176度1,520メートルの地点で機関を中立として漂泊し、南西方を向首して折からの潮流により北北東方に1.7ノットで圧流されながら操業準備を開始した。

漂泊開始直後、C受審人は、操業準備をしているとき、船尾方400メートルばかりのところに蒲刈大橋下付近を南下する北斗丸押船列を視認し、13時14分同押船列が船尾少し右310メートルばかりとなったとき衝突のおそれのある態勢で接近していたが、一瞥(いちべつ)しただけで、同押船列は無難に航過していくものと思い、同押船列に対する動静監視を行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、更に接近するに及んで機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとることなく漂泊して船首部で腰をかけ操業準備中、博洋丸は、225度を向首したまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、北斗丸押船列はバージ左舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、博洋丸は右舷中央部に破口を生じて転覆し、のち廃船処理された。また、C受審人は頭部などに1ヶ月の治療を要する打撲傷を負った。


(原因)
本件衝突は、三之瀬瀬戸において、航行中の北斗丸押船列が、見張り不十分で、漂泊中の博洋丸を避けなかったことによって発生したが、博洋丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、更に接近するに及んで衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
北斗丸押船列の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に見張りを十分行うよう指導を徹底しなかったことと、同当直者が見張りを十分行わなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、無資格の当直者に船橋当直を任せる場合、見張りを十分行うよう指導を徹底すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同当直者が父親で、かつ、乗船経験が豊富であったことから、見張りを十分行うよう指導を徹底しなかった職務上の過失により、同当直者が博洋丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、博洋丸を転覆させ、C受審人に打撲傷を負わせると共に、北斗丸押船列に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、三之瀬瀬戸において漂泊中、北斗丸押船列を視認した場合、同押船列との衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥しただけで、同押船列は無難に航過していくものと思い、動静監視を行わなかった職務上の過失により、同押船列が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わず、更に接近するに及んで衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続け、北斗丸押船列との衝突を招き、両船に前示のとおり損傷を生じさせ、自身も負傷するに至った。

以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、船橋当直に就いて三之瀬瀬戸を南下する際、見張りが不十分であったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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