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2000年(平成12年)

平成11年神審第32号
    件名
漁船第十専西丸漁船第十七重福丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年1月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、工藤民雄、西林眞
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:第十専西丸漁労長兼機関長 海技免状:六級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第十七重福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
専西丸・・・船首部に擦過傷
重福丸・・・左舷側中央部に破口、浸水

    原因
専西丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(衝突回避措置)不遵守
重福丸・・・各種船間の航法(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、第十専西丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、第十七重福丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月6日07時30分
石川県金沢港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十専西丸 漁船第十七重福丸
総トン数 41.68トン 19トン
全長 27.70メートル 23.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 411キロワット 404キロワット
3 事実の経過
第十専西丸(以下「専西丸」という。)は、沖合底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、船長C及びA受審人ほか4人が乗り組み、かに漁解禁の初日に操業する目的で、船首1.00メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成9年11月5日22時00分石川県金沢港を発し、十数隻の同業船と相前後して同港西北西方沖合の漁場に向かった。
翌6日00時00分A受審人は、目的の漁場に到着したとき、船橋において、引き続き操船に当たるとともに漁労の指揮を執り、C船長を含む乗組員を漁労作業に就かせ、同時20分左回りのかけ回しにより1回目の投網を開始し、その後繰り返し操業を行った。

07時20分A受審人は、大野灯台から281.5度(真方位、以下同じ。)20.3海里の地点で、トロールにより漁労に従事していることを示す形象物を掲げないまま、C船長にゴム製浮標を海面に投じさせて5回目の投網に取り掛かり、針路を225度に定め、機関を全速力前進より少し下げた回転数毎分770にかけ、左舷側の曳網索の投入を開始し、9.0ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で自動操舵により進行した。
A受審人は、07時24分半曳網索を1,200メートル延出したとき、これに連結した重り用のチェーンを投入して左転を始め、更に曳網索を延出しながら、同時25分少し前針路を113度に転じた。このとき、右舷船首3度1,000メートルにトロールにより漁労に従事していることを示す形象物を掲げ、045度に船首を向けて低速力で曳網中の第十七重福丸(以下「重福丸」という。)を視認することができる状況であったが、自船の延出している曳網索の監視及び右舷後方近距離のところに曳網している第三船に気を奪われ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、重福丸の存在に気付かなかった。

こうしてA受審人は、07時27分曳網索を600メートル延出したとき、減速のうえ針路を090度に転じて漁網の投入を始め、同時28分その投入を終え、右舷側の袖網に次いで左舷側と同じ長さの曳網索を延出するため、再度9.0ノットに増速した。この時点で、右舷船首11度480メートルに重福丸が存在し、その後その方位が変わらずに接近し衝突のおそれがあったが、依然、操舵室右舷側で後方を向いて曳網索の延出状況などに注目していたことから、このことに気付かず、速やかに機関を停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
そして、A受審人は、07時30分少し前「すーさん危ないぞ。」との無線電話による重福丸からの呼び掛けを聞き漏らしているうち、同時30分わずか前、船橋前の上甲板で漁獲物の整理に当たっていた乗組員の叫び声を聞いて船首方を振り向いたとき、至近に迫った重福丸を初めて視認し、急いで機関を全速力後進にかけたが効なく、07時30分大野灯台から280度20.0海里の地点において、専西丸は、右舷側の曳網索をほぼ600メートル延出したとき、原針路、原速力のまま、その船首が重福丸の左舷側中央部に後方から45度の角度で衝突した。

当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあった。
C船長は、船尾甲板で投網作業に当たっていたところ、船体に衝撃を受けて衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、重福丸は、沖合底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか4人が乗り組み、かに漁解禁の初日に操業する目的で、船首0.70メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、同月5日22時00分金沢港を発し、十数隻の同業船と相前後して同港西北西方沖合の漁場に向かった。
翌6日00時30分B受審人は、目的の漁場に到着したとき、操船に当たるとともに操業の指揮を執って、かけ回しによる投網に取り掛かり、その後繰り返し操業を行い、06時30分大野灯台から275.5度21.2海里の地点で、針路を045度に定め、機関を全速力前進より少し下げた回転数毎分800にかけ、船尾両舷から長さ1,800メートルの曳網索を延出して4回目の曳網を開始し、トロールにより漁労に従事していることを示す形象物をマストに掲げ、2.0ノットの速力で手動操舵により進行した。

07時20分B受審人は、左舷船首45度1,480メートルに専西丸を初めて視認し、その後その動静を監視していたところ、同船が漁労に従事していることを示す形象物を掲げていなかったものの、船尾から曳網索を延ばしながら左転を繰り返していることから、トロールにより漁労に従事しているかけ回し中の船舶であり、やがて自船と同じ方向に船首を向けて曳網するものと判断した。
こうしてB受審人は、07時27分少し過ぎ専西丸が左舷船尾59度500メートルのところで針路を090度に転じて漁網を入れ、同時28分同船まで480メートルになったとき、増速しながら曳網索の延出に移り、その後方位が変わらずに接近することから、衝突のおそれがあることが分かり、その動静を見守っていたところ、同時29分290メートルに近づいたのを認めたが、自船が低速力で曳網中であり、かけ回し中で操船が比較的自由な専西丸がそのうちに自船を避航してくれるものと思い、直ちに機関を停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく、同じ針路及び速力で続航した。

そして、B受審人は、07時30分少し前、無線電話で「すーさん危ないぞ。」と呼び掛けたが、専西丸が応答のないまま迫ってくるので危険を感じ、急いで機関を中立とし、次いで全速力後進にかけたが効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、専西丸は船首部に擦過傷を生じたのみであったが、重福丸は左舷側中央部に破口を生じて浸水し、僚船によって金沢港に引き付けられ、のち修理された。
 
(原因)
本件衝突は、金沢港西北西方沖合の漁場において、トロールにより漁労に従事する両船が互いに接近中、専西丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、重福丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
A受審人は、金沢港西北西方沖合の漁場において、操船に当たるとともに漁労の指揮を執ってかけ回しを行う場合、曳網中の重福丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船の延出している曳網索の監視及び右舷後方近距離のところに曳網中の第三船に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、重福丸に気付かずに進行して同船との衝突を招き、専西丸の船首部に擦過傷を、重福丸の左舷側中央部に破口をそれぞれ生じさせ、同船を浸水させるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、金沢港西北西方沖合の漁場において、操船に当たるとともに漁労の指揮を執って低速力で曳網中、かけ回し中の専西丸が針路を左に転じ、左舷後方から衝突のおそれのある態勢となって近距離に接近するのを認めた場合、直ちに機関を停止するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、かけ回し中で操船が比較的自由な専西丸がそのうちに自船を避航してくれるものと思い、直ちに機関を停止するなど、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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