日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年広審第32号
    件名
貨物船ひたち丸貨物船第五住吉丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、杉崎忠志、横須賀勇一
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:ひたち丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第五住吉丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
ひたち丸・・・右舷船首部に凹損
住吉丸・・・・左舷後部に凹損

    原因
住吉丸・・・・動静監視不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
ひたち丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、ひたち丸を追い越す第五住吉丸が、動静監視不十分で、ひたち丸の進路を避けなかったことによって発生したが、ひたち丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月23日20時40分
来島海峡航路 西水道
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ひたち丸 貨物船第五住吉丸
総トン数 691トン 499トン
全長 78.21メートル 65.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,103キロワット 735キロワット
3 事実の経過
ひたち丸は、国内各港間において鋼材の運搬に従事し、可変ピッチプロペラを装備する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.9メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成10年4月22日14時50分名古屋港を発し、翌23日途中鳴門海峡手前で同海峡通過時刻調整を行ったのち来島海峡経由で呉港に向かった。
A受審人は、備後灘を西行中、19時10分ごろ視界が悪化模様となり、且つ、来島海峡通過が迫っていたので、備後灘航路第1号灯浮標付近で昇橋して操船指揮に就き、一等航海士を操舵に、また、機関長を見張りにそれぞれ当たらせ、更に視界が悪化した際には今治港沖に錨泊して視界の回復を待つつもりで、視界状況を観測しながら同港沖に向けて航行した。

こうしてA受審人は、今治港沖に到着したころ視界回復の兆しが見えたので、予定どおり通峡するつもりで、20時15分わずか前竜神島灯台から181度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、針路を311度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、航行中の動力船の灯火を表示し、手動操舵により来島海峡航路の南外側を進行した。
A受審人は、20時20分半少し過ぎ右舷船尾63度730メートルのところに第五住吉丸(以下「住吉丸」という。)の表示する灯火を初認して進行し、同時28分わずか前ウズ鼻灯台から160度1,820メートルの地点で、針路を324度に転じ、同時29分わずか過ぎ来島海峡航路に入り、これに沿って西水道に向かった。
A受審人は、20時33分少し前ウズ鼻灯台から193度650メートルの地点に達したとき、レーダーで船首方に第三船らしき映像を探知したので機関を半速力前進の4.0ノットの速力に減じて続航し、同時37分わずか過ぎ同灯台から245度500メートルの地点で船尾方290メートルのところに住吉丸を視認していたものの、追越し船となる住吉丸が自船を避航するものと思い、その後同船に対する動静監視を行うことなく進行し、同時37分半わずか前同灯台から251度520メートルの地点で、前示映像との航過距離を開くため、更に機関を微速力前進の2.0ノットの速力に減じるとともに右舵約7度をとり、徐々に右転を開始した。

20時38分わずか過ぎA受審人は、ウズ鼻灯台から256度510メートルの地点に達したとき、住吉丸が右舷船尾方220メートルのところで右転し、その後自船と衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然、動静監視が不十分で、このことに気付かず、警告信号を行わず、更に接近するに及んで転舵するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく右転中、機関長の「危ない」の声で同船を右舷方至近に認め、直ちに舵中央とするも及ばず、ひたち丸は、20時40分ウズ鼻灯台から269度500メートルの地点で、000度を向首し、原速力のまま同船の右舷船首部が住吉丸の左舷船橋部に後方から13度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、来島海峡は南流の末期で、衝突地点付近には1.5ノットの南流があった。
また、住吉丸は、船尾船橋型砂利採取運搬船で、B受審人ほか4人が乗り組み、土砂1,550トンを積載し、船首4.2メートル船尾5.4メートルの喫水をもって、同月23日06時大阪港を発し、来島海峡経由で福岡県苅田港沖の埋立地に向かった。

B受審人は、19時30分ごろ船橋当直に就き、甲板員1人を見張りに当たらせて西行し、20時22分少し前来島海峡航路内の竜神島灯台から205度1.1海里の地点で、針路を310度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して8.5ノットの速力で、航行中の動力船の灯火を表示し、手動操舵により進行した。
B受審人は、20時25分左舷船首41度610メートルのところにひたち丸の表示する灯火を初認して続航中、同時33分少し前560メートル前方を航行している同船が減速したのを認めたので、自船も速力を5.8ノットの速力に減じて進行した。
その後B受審人は、先行しているひたち丸との船間間隔が更に狭まってきたので、同船の右舷側を追い越すつもりで、20時38分わずか過ぎウズ鼻灯台から232度530メートルの地点に達したとき、針路を347度に転じ続航したところ、ひたち丸を船首少し左220メートルのところに視認するようになり、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、無難に同船の右舷側を追い越すことができるものと思い、ひたち丸に対する動静監視を十分に行わなかったため、このことに気付かず、減速するなどして同船の進路を避けないまま進行中、同時40分少し前自船の船首とひたち丸船橋部とがほぼ並行したので増速中、住吉丸は、ほぼ原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。

衝突の結果、ひたち丸は右舷船首部に、住吉丸は左舷後部に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、両船が来島海峡航路西水道を北上中、ひたち丸を追い越す住吉丸が、動静監視不十分で、ひたち丸の進路を避けなかったことによって発生したが、ひたち丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、夜間、来島海峡航路西水道を北上中、船首方に同航するひたち丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、無難に同船の右舷側を追い越すことができるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、減速するなどしてひたち丸の進路を避けないまま進行して衝突を招き、ひたち丸の右舷船首部及び住吉丸の左舷後部にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、来島海峡航路西水道を北上する場合、船尾方に同航する住吉丸の存在を知っていたのであるから、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、追越し船となるひたち丸が自船を避航するものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、住吉丸に対し警告信号を行わず、更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION