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2000年(平成12年)

平成11年広審第17号
    件名
プレジャーボートあさなぎ丸プレジャーボート真希III衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

中谷啓二
    理事官
尾崎安則

    受審人
A 職名:あさなぎ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:真希III船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
あさなぎ丸・・・右舷外板、同トップレールなどに擦過傷、同乗者1人が背部挫創
真希・・・・・左舷船首部に軽微な擦過傷

    原因
あさなぎ丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
真希・・・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    二審請求者
副理事官尾崎安則

    主文
本件衝突は、あさなぎ丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る真希IIIの進路を避けなかったことによって発生したが、真希IIIが、見張り不十分で、警告する信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月14日21時22分
瀬戸内海 広島湾
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート プレジャーボート
あさなぎ丸 真希III
総トン数 1.80トン 2.70トン
全長 9.00メートル
登録長 6.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 95キロワット 77キロワット
3 事実の経過
あさなぎ丸は、後部甲板上にキャンバス製のオーニングを施し、ここで操舵に当たるFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、広島湾厳島西岸にある厳島神社の前面水域で催される水中花火大会を見物する目的で、船首0.22メートル船尾0.34メートルの喫水をもって、平成10年8月14日17時30分広島港内の江波マリーナを発し、途中草津漁港に寄って家族、知人など6人を同乗させ、18時45分ごろ花火大会会場に至って投錨した。
ところで花火大会が実施される水域は、厳島北端の聖埼から南西方1.3海里ばかりのところで、聖埼沖合から花火大会会場に至る、厳島とその西方対岸の広島県佐伯郡及び廿日市市の陸岸に囲まれた幅約1海里の海域には、多数のかき筏が、広島県の陸岸寄りに設置されていた。

また、花火大会主催者である宮島観光協会は、例年、同大会当日には何百隻ものプレジャーボート等が見物に訪れ、帰航時には一斉にかき筏の設置されている海域を航行することになることから、広島海上保安部と連名で、かき筏設置区域、聖埼沖の事故多発海域、連絡船航路などの概図及び見張りを励行する旨を含む9項目の注意事項を記載したパンフレットを作成し、近郊の漁業協同組合及びマリーナに配布して、かき筏への接触事故、衝突事故などの防止を図っていた。
こうしてA受審人は、花火大会終了後の21時10分ごろ抜錨し、所定の灯火を表示し、同乗者1人を船首に配置して前方の見張りに当たらせ帰途に就き、同時17分地御前港西防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から187度(真方位、以下同じ。)3,100メートルの地点に達したとき、聖埼とその北方沖のかき筏設置区域間の水域に向け針路を062度に定め、機関を微速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で、後部甲板上に立って手動操舵により進行した。

21時20分A受審人は、それまで周囲に多数いた同航する他船がまばらになったころ、聖埼西方沖の防波堤灯台から180度2,850メートルの地点に達し、そのとき右舷正横後13度340メートルのところに、真希?(以下「真希」という。)の白、紅2灯を視認することができ、その後方位に変化がなく、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたが、後方から接近する他船は自船を替わすものと思い、前方の見張りにのみ集中し、周囲の見張りを十分に行うことなく進行し、真希の灯火に気付かず、同船の進路を避けずに続航中、同時22分わずか前前部甲板上に座っていた同乗者の叫び声を聞いて後方を振り向いたとき、至近に迫った真希を初認したが、どうすることもできず、あさなぎ丸は、21時22分防波堤灯台から174度2,750メートルの地点において、その右舷中央部に真希の船首部が後方から41度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
また、真希は、中央部に操舵室を備えたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、家族、知人など6人が同乗し、前示水中花火大会を見物する目的で、船首0.45メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同日18時30分広島港内の五日市漁港を発し、同大会会場に至って先着していた友人の台船に接舷して花火を見物した。
21時10分ごろB受審人は、花火見物を終え、所定の灯火を表示し、船首部甲板に同乗者3人を座らせて見張りに当て帰途に就き、同時17分防波堤灯台から189度3,600メートルの地点に達したとき、針路を062度に定め、機関を半速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で、操舵室内に立って手動操舵で進行した。

21時20分B受審人は、防波堤灯台から178度3,200メートルの地点に達したとき、左舷前方の聖埼北方沖に設置されているかき筏群越しの陸岸に、周囲の灯火に照らされた球状ガスタンクを視認し、いったん同タンクを船首目標にしてかき筏設置区域に接近したのち、かき筏群の間を縫って陸岸に向かおうと、同タンクに向けて針路を021度に転じた。
そのときB受審人は、左舷船首36度340メートルのところに、あさなぎ丸の白、緑2灯を視認でき、その後方位に変化がなく、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたが、船首目標の陸岸にある球状ガスタンクを注視することに専念し、周囲の見張りを十分に行うことなく進行し、あさなぎ丸の灯火に気付かず、呼笛を吹くなどして警告する信号を行わず、さらに接近しても衝突を避けるための協力動作をとらずに続航中、同時22分わずか前船首部甲板にいた同乗者の手振りで、左舷船首至近に迫ったあさなぎ丸に気付き、急ぎ機関を後進にかけたが効なく、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、あさなぎ丸は、右舷外板、同トップレールなどに擦過傷等を生じたがのち修理され、真希は、左舷船首部に軽微な擦過傷を生じ、あさなぎ丸の同乗者1人が背部挫創を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、広島湾厳島沿岸において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、あさなぎ丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る真希の進路を避けなかったことによって発生したが、真希が、見張り不十分で、警告する信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、広島湾厳島沿岸を航行する場合、前路を左方に横切る真希を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方から接近する他船は自船を替わすものと思い、前方の見張りにのみ集中し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、真希の灯火に気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、あさなぎ丸の右舷外板、トップレールなどに擦過傷を、真希の左舷船首部に擦過傷を生じさせ、あさなぎ丸の同乗者に背部挫創を負わせるに至った。
B受審人は、夜間、広島湾厳島沿岸を航行する場合、前路を右方に横切るあさなぎ丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、陸岸の船首目標を注視することに専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、あさなぎ丸の灯火に気付かず、警告する信号を行わず、接近しても衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、あさなぎ丸の同乗者を負傷させるに至った。


参考図






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