日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年神審第69号
    件名
漁船平集丸プレジャーボートミサ4衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、佐和明、米原健一
    理事官
野村昌志

    受審人
A 職名:平集丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:ミサ4船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
平集丸・・・船首に擦過傷
ミサ4・・・船尾に亀裂

    原因
平集丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ミサ4・・・灯火・形象物不表示、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、平集丸が、見張り不十分で、錨泊中のミサ4を避けなかったことによって発生したが、ミサ4が、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げず、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月22日07時20分
兵庫県東播磨港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船平集丸 プレジャーボートミサ4
総トン数 3.90トン
全長 11.20メートル 9.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 132キロワット
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
平集丸は、船体中央部やや船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、たこ一本釣り漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成10年11月22日06時40分兵庫県東播磨港内の阿閇漁港を発し、同港新島地区南方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、07時00分ごろ東播磨港別府東防波堤灯台(以下「別府東防波堤灯台」という。)南方2.2海里付近の漁場に至り、機関を中立運転として漂泊を開始したあと、両舷側から釣糸を出し、折からの潮流により西北西方に0.8ノットで圧流されながら一本釣りを行った。

07時17分半、A受審人は、別府東防波堤灯台から179.5度(真方位、以下同じ。)3,970メートルの地点において、1回目の潮昇りをすることにし、針路を130度に定め、機関を半速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で、舵輪の後方に立ち見張りを兼ね手動で操舵に当たって進行した。
定針したころA受審人は、左舷船首5度390メートルに船首を潮流に立てて東南東に向け錨泊しているミサ4、及びその南方至近に同じように船首を東南東に向けて錨泊している第三船が存在し、両船を操舵室前窓越しに視認できる状況であったが、早朝で自船の至近には釣船を見掛けなかったことから、前路に他船はいないものと思い、折から昇った朝日の海面反射で船首方向が眩しかったので、一べつしただけで前方から目をそらし、サングラスを使用するなど前方の見張りを十分に行わず、両船に気付かないで続航した。

07時19分少し過ぎA受審人は、別府東防波堤灯台から176度4,170メートルの地点に達し、ふと船首方に目を向けたとき、正船首80メートルに第三船を初認したものの、白色船体のミサ4が左舷船首18度100メートルに存在していることを認めなかった。そして同人は、慌てて第三船を右舷側にかわすため、左舵をとって112度の針路に転じたところ、ミサ4に向首するようになり衝突のおそれがあったが、依然前路に支障となる他船はいないものと思い、第三船に気をとられて、船首方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、ミサ4を避けることなく進行中、07時20分別府東防波堤灯台から175度4,200メートルの地点において、平集丸は、原針路、原速力のまま、その船首がミサ4の船尾に、ほぼ平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、衝突地点付近には西北西に流れる0.8ノットの潮流があった。

また、ミサ4は、クルージングなどのレジャーに使用するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日06時30分東播磨港内天川右岸の播磨マリーナを発し、同港新島地区南方沖合の釣り場に向かった。
07時10分B受審人は、播磨灘北部の船舶が東西に航行する前示衝突地点に至り、自船より先に錨泊していた第三船の北東方30メートルのところで機関を停止し、船首から重さ12キログラムの錨を水深10メートルの海底に投じ、錨索を約25メートル延出し、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま錨泊した。
錨泊後、B受審人は、船尾で竿釣りの準備を始め、07時18分船首が112度に向首し、第三船を右舷斜め後方に見る状況となっていたとき、左舷船尾12度310メートルのところに、南東進する平集丸を初めて視認し、その後時折平集丸を見ながら釣りの準備を続けた。

そしてB受審人は、平集丸が自船の船尾方至近を航過する態勢で近づいたのち、07時19分少し過ぎ同船がほぼ正船尾100メートルのところで左転して自船に向首するようになり、衝突のおそれがある態勢で接近することを認めたが、そのうち錨泊中の自船を避けるものと思い、速やかに有効な音響による注意喚起信号を行って避航を促さないでいるうち、同時20分少し前、平集丸が至近に迫ったので衝突の危険を感じ、「オーイ、オーイ」と叫んだものの効なく、ミサ4は、船首を112度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、平集丸は船首に擦過傷を生じたのみであったが、ミサ4は船尾に亀裂などを生じ、のち修理された。


(原因)
本件衝突は、東播磨港新島地区南方沖合の播磨灘北部において、漁場を移動中の平集丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のミサ4を避けなかったことによって発生したが、ミサ4が、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げず、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、東播磨港新島地区南方沖合において、朝日の海面反射で船首方向が眩しい状況のもと、潮昇りのため漁場を移動する場合、前路で錨泊中のミサ4を見落とすことのないよう、船首方の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路に支障となる他船はいないものと思い、船首方の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、ミサ4の存在を見落とし、同船を避けることなく進行してミサ4との衝突を招き、平集丸の船首に擦過傷を、ミサ4の船尾に亀裂などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、東播磨港新島地区南方沖合において、錨泊して魚釣りの準備中、南東進する平集丸を視認し、その後自船に向けて衝突のおそれがある態勢で接近するようになったのを知った場合、速やかに有効な音響による注意喚起信号を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、そのうち錨泊中の自船を避けるものと思い、速やかに有効な音響による注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、平集丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION