日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年神審第36号
    件名
プレジャーボート九弐プレジャーボートクウ被引浮環衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、西林眞
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:九弐船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:クウ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
九弐・・・艇首左舷側付近に擦過傷
クウ・・・浮環に擦過傷、搭乗者が、右肺破裂、下大静脈損傷などを負い、のち出血性ショックにより死亡

    原因
九弐・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
クウ・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    二審請求者
受審人A

    主文
本件衝突は、九弐が、見張り不十分で、クウ及び同艇が曳航する浮環との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、クウが、見張り不十分で、九弐との衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月29日15時30分
大阪府阪南港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート九弐 プレジャーボートクウ
全長 2.13メートル 2.54メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 45キロワット 69キロワット
3 事実の経過
九弐は、ヤマハ発動機株式会社のマリンジェットMJ−700FXと称する1人乗りFRP製水上オートバイで、艇体の中央から前部にかけて機関室を設け、艇首部付近に起倒式ステアリングハンドルを設置し、ステアリングハンドル右側グリップ根元部にスロットルレバー、左側グリップ根元部にスタータスイッチ、エンジンストップスイッチ及びランヤードストップスイッチをそれぞれ装備していた。
その推進力は、機関によって艇体中央部にあるインペラを回転させ、吸引した海水を艇尾ノズルから噴出させることによって得られ、機関の回転はスロットルレバーの開閉によって調整されるようになっており、回頭はステアリングハンドルの操作に応じて左右に振れる艇尾ノズルで噴出流の方向を変えることによって行われていた。

操縦は、艇尾から乗り込んだ操縦者が、甲板上に両膝をついた姿勢で、後方に倒されたステアリングハンドルを両手で握って発進させ、速力の上昇に伴って艇体が安定し始めると、同ハンドルを起こしながら甲板上に立ち上がって行うものであった。
A受審人は、水上オートバイに乗るために海技免状を取得し、大阪府阪南港第3区にある二色の浜海浜緑地の人工海浜沖合において、義兄所有の九弐に過去2度乗艇して練習したことがあった。
ところで、同人工海浜は、阪南港泉佐野沖防波堤灯台(以下「沖防波堤灯台」という。)の北東方約1,700メートルの埋立地南西端にある、南西方向を海に面した長さ約450メートルの砂浜で、砂の流出を防止するため同海浜を囲むように、その両側から長さ50メートルばかりの丘状石積突堤(以下「突堤」という。)が海浜沖合の中央に向けて築造されており、両突堤先端間の距離は約280メートルで、人工的な小湾をなしていた。そして、この南東側突堤の付け根付近の、沖防波堤灯台から055度(真方位、以下同じ。)1,700メートルの地点に灯柱1基(以下「人工海浜灯柱」という。)が設置されていた。

こうして、A受審人は、平成10年8月29日10時30分ごろ姉夫婦とともに二色の浜海浜緑地に着き、11時ごろから3人が交替で九弐に乗艇し、人工海浜沖合の航走に興じていた。
15時28分半A受審人は、帰る間際にもう1度人工海浜沖合を1周することとし、人工海浜灯柱から005度80メートルの人工海浜波打ち際に止められていた九弐に乗り、針路を北西側突堤付け根付近に向け、およそ310度として発進した。
A受審人は、午前中には10隻を超える水上オートバイが人工海浜の沖合を航走していたが、午後からは次第に少なくなり、発進する前には浮環を引いて南東側突堤付近を航走するクウを見かけていたものの、気に留めないまま、速力を徐々に上げながら北西側突堤に向けて進行し、15時29分人工海浜灯柱から323度210メートル付近で、スロットルレバーを2分の1から少し開いた状態とし、時速30キロメートル(以下、速力については「時速」を省略する。)で半径80メートルばかりの円を描きながら左旋回し、北西側突堤から南東側突堤沖側に向かった。

15時29分半A受審人は、左舷前方150メートルばかりの人工海浜波打ち際から沖合に向けて発進したクウ及びその後方に引かれている浮環の存在に気付かないまま、急旋回の練習をする目的で南東側突堤沖側に接近し、同突堤先端沖合で左に急旋回し、次いで右に急旋回を始めたところ、バランスを崩して右舷側に横倒しとなった。
15時29分半少し過ぎA受審人は、九弐を引き起こして再び甲板上に立った姿勢で波打ち際の出発地点に向かう060度の針路とし、低速力で航走を開始したところ、15時29分50秒人工海浜灯柱から300度80メートルの地点で再びバランスを崩し、ハンドルを両手に握ったまま右舷側に倒れた。
15時29分55秒A受審人は、九弐を引き起こして再び出発地点に向けて発進する際、付近は水上オートバイが航走する海域であったが、艇体を立て直して再発進させることに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、左舷側ほぼ正横30メートルのところに左旋回しながら自艇の前路に向けて急速に接近するクウ及びその被引浮環を視認できる状況であったものの、これに気付かず、これらが十分にかわる状態となるまで発進を待つなど、衝突を避けるための措置をとらなかった。

A受審人は、針路を再び060度とし、スロットルレバーをほぼ一杯開いて増速しながら立ち上がったところ、左舷前方至近にクウの右舷側と艇尾を認め、とっさにスロットルレバーから手を離して速力を緩め、この後方をかわそうとしたとき、クウの艇尾から曳索が出ていることに気付くとともに、左舷側至近から急速に接近するクウに引かれた浮環とその搭乗者Cを視認したが、どうすることもできず、15時30分沖防波堤灯台から052度1,680メートルの地点において、060度に向首して約15キロメートルで進行中の九弐の艇首左舷側が、30キロメートルを超す速力で120度方向に移動する浮環の右側後部及びC搭乗者の背面右側に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
また、クウは、カナダ、ボンバルディア社のシードゥSPXと称する2人乗りFRP製水上オートバイで、艇体の中央少し前部にステアリングハンドルを設置し、ハンドルの右側グリップ根元部にスロットルレバー、左側グリップ根元部にエンジンスタート・ストップスイッチ及びトリム調整用ボタンを装備しており、ステアリングハンドル後方から艇尾にかけて操縦者及び同乗者の跨乗用座席が設けられ、座席カバーの下は機関室となっていた。

その推進力は、九弐と同様の方式で艇尾ノズルからの噴出流によって得られ、機関の回転も九弐と同様のスロットルレバーの開閉によって調整されるようになっており、回頭はステアリングハンドルの操作に応じて振れる艇尾ノズルの角度変化によって行われていた。
B受審人は、本件発生の1箇月ばかり前に水上オートバイに乗るために海技免状を取得し、人工海浜沖合において義弟所有のクウに過去5度ばかり乗艇して練習していたところ、同日13時ごろ二色の浜海浜緑地に着き、先に到着していた知人等とバーベキューをして食事をとり、14時ごろからD所有者が操縦するクウでB受審人が乗ったウェークボードを曳航してもらい、海浜緑地南側の水路で遊んだのち、人工海浜に戻って休憩した。
15時28分ごろB受審人は、ウェークボードの代わりにスキービスケットと称する外径1.20メートル内径0.40メートルの、ナイロン製青色カバーを施したネオプレン製浮環を直径8ミリメートル長さ9.40メートルのナイロン製ロープで曳航し、自らクウを操縦するとともに後部座席に知人を乗せ、浮環にはC搭乗者を乗せて人工海浜灯柱から004度100メートルの波打ち際を発進し、両突堤内側を半径約50メートルの円を描いて航走して出発地点に戻った。

B受審人は、後部座席の同乗者を降ろしたのち、15時29分半再びC搭乗者を浮環に乗せたまま針路を北西側突堤に向くほぼ305度とし、スロットルレバーを3分の1ほど開いて、約30キロメートルの速力で航走を開始した。
そして、B受審人は、当時この海域で数隻の水上オートバイが航走していることを認めていたが、自艇が浮環を曳航したまま左回頭することにより遠心力で右方に振り出されていた被引浮環及びC搭乗者の状態確認に気を取られ、周囲の見張りを十分に行うことなく、15時29分半少し過ぎ南東側突堤付近で航走中の九弐が急激な旋回を試みて倒れたのち、再び自艇の予定進路に向けて航走を開始したことに気付かず、九弐から十分離れるまで行き脚を止めるなど、九弐との衝突を避けるための措置をとることなく航走を続けた。
15時29分55秒B受審人は、人工海浜灯柱から310度100メートルの地点に差し掛かったとき、右舷前方約30メートルのところで再度倒れた九弐が起き上がり、自艇の前路に向けて発進し、急速に接近したが、南東側突堤先端及びその近くに止められていた無人の水上オートバイに浮環を衝突させないようにすることに気を取られ、九弐の接近に気付かないまま、ほぼ110度の針路で同先端に接近したのち、針路を出発地点に向く047度に転じたところ、急な左転によって被引浮環がほぼ120度に向けて30キロメートルを超える速力で外側に振り出され、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、九弐の艇首左舷側付近及び浮環にそれぞれ擦過傷が生じたのみであったものの、C搭乗者(昭和53年8月9日生)は、右肺破裂、下大静脈損傷などを負い、本件発生に気付いて救助のため海に飛び込んだB受審人が落水していたC搭乗者を抱きかかえ、来援した他の水上オートバイにつかまって人工海浜に誘導され、救急車によって病院に搬送されたが、のち出血性ショックにより死亡した。

(原因)
本件衝突は、大阪府阪南港第3区にある二色の浜海浜緑地の人工海浜沖合において、九弐が、見張り不十分で、クウ及び同艇が曳航する浮環との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、クウが、見張り不十分で、九弐との衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、単独で九弐を操縦して二色の浜海浜緑地の人工海浜沖合を航走中、倒れた自艇を引き起こして再び航走を開始しようとする場合、同海域は水上オートバイが航走する海域であったから、クウ及び同艇が曳航する浮環を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、艇を引き起こして航走を開始することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左方から浮環を曳航して接近するクウの存在を見落としたまま航走を再開して衝突を招き、自艇の艇首左舷側に擦過傷を、クウの曳航する浮環に擦過傷をそれぞれ生じさせ、また、C搭乗者を右肺破裂等により死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

B受審人は、単独でクウを操縦し、人を搭乗させた浮環を艇尾から曳航して二色の浜海浜緑地の人工海浜沖合を航走する場合、同海域は水上オートバイが航走する海域であったから、クウ及び同艇が曳航する浮環を他の水上オートバイに接近させることのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同浮環を突堤等に衝突させないよう右舷後方の浮環及び搭乗者の状態確認に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷前方で転倒したのち航走を再開しようとする九弐の存在を見落としたまま進行して衝突を招き、九弐及び浮環に前示の損傷をそれぞれ生じさせ、C搭乗者を死亡させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION