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2000年(平成12年)

平成10年神審第71号
    件名
貨物船第二十五天鈴丸貨物船むさしの丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、佐和明、西田克史
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:第二十五天鈴丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:むさしの丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
天鈴丸・・・・・左舷中央部より少し後方の外板に破口を伴う凹傷、のち船体が左舷側に傾き沈没、機関長が顔面及び肩に打撲傷
むさしの丸・・・船首部に破口を伴う凹傷

    原因
天鈴丸・・・・・狭視界時の航法(速力)不遵守
むさしの丸・・・狭視界時の航法(レーダー、速力)不遵守

    主文
本件衝突は、第二十五天鈴丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、むさしの丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月16日04時25分
潮岬南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十五天鈴丸 貨物船むさしの丸
総トン数 498トン 432.16トン
全長 73.40メートル 50.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット
3 事実の経過
第二十五天鈴丸(以下「天鈴丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,265トンを載せ、船首3.60メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成9年5月15日14時05分広島県福山港を発し、鳴門海峡経由で愛知県名古屋港に向かった。
A受審人は、発航後、船橋当直を同人、一等航海士及び次席一等航海士による3直4時間交替制とし、翌16日01時00分和歌山県田辺港沖合において、それまで当直中であった次席一等航海士から霧になった旨の報告を受け、間もなく昇橋して操船の指揮を執り、そのころ当直に就いた一等航海士を補佐に付け、航行中の動力船の灯火を表示して紀伊半島南岸沿いを東行した。

03時07分A受審人は、江須埼灯台から205度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点で、霧が濃くなり視程が100メートルばかりに狭まったので、一等航海士に手動で操舵を行わせるとともに、自動で霧中信号の吹鳴を開始し、針路を115度に定め、機関を10.0ノットの全速力から半速力に、その後時々更に減速し、東方に流れる海流により4度左方に圧流され、6.2ノットの対地速力で進行した。
04時00分A受審人は、潮岬灯台から265度3.9海里の地点に達したとき、左舷船首12度4.1海里にむさしの丸のレーダー映像を初めて認め、同じ針路のままでも同船とは左舷を対して無難に航過できると思ったものの、安全のために沖出しすることとし、針路を125度に転じ、機関を4.5ノットの微速力前進にかけ、折からの東流により10度左方に圧流されながら5.7ノットの対地速力で続航した。

A受審人は、04時15分少し前潮岬灯台から250度2.8海里の地点に至り、視程が150メートルばかりの視界制限状態の下、レーダーにより左舷船首24度1.7海里に存在するむさしの丸と著しく接近することを避けることができない状況となったのを知ったが、もう少し接近するまでは大丈夫と思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行き脚を止めることなく進行した。
こうして、A受審人は、3海里レンジ及び6海里レンジの各レーダーを交互に見ていたところ、04時22分むさしの丸が方位に変化がないまま0.5海里に接近したのを認め、このとき、レーダーを覗いていた操舵中の一等航海士から相手船が近寄ってくる旨の報告を受けた。
そして、A受審人は、レーダーから目を離して前方に注目し、むさしの丸の吹鳴する霧中信号に気付かないまま、同じ針路及び速力で続航中、04時25分少し前左舷船首近距離にむさしの丸のマスト灯を初めて認め、右舵一杯を令するとともに機関を停止し、次いで全速力後進にかけたが及ばず、04時25分潮岬灯台から232度2.2海里の地点において、天鈴丸は、船首が144度を向いたとき、むさしの丸の船首が左舷中央部より少し後方に前方から55度の角度で衝突した。

当時、天候は霧で風力1の西風が吹き、付近海域には1.5ノットの東流があり、視程は約150メートルであった。
また、むさしの丸は、船尾船橋型の廃棄物排出船で、B受審人ほか4人が乗り組み、廃油500キロリットルを載せ、船首2.60メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、同月15日13時30分名古屋港を発し、関門港に向かった。
B受審人は、発航後、船橋当直を体調不良の甲板員に行わせず、自身及び一等航海士による2直6時間交替制とし、翌16日03時45分潮岬半島沖合において、一等航海士から霧になった旨の報告を受け、間もなく昇橋して操船の指揮を執り、すでに機関を6.0ノットの半速力に減速していた同航海士を補佐に付け、航行中の動力船の灯火を表示して紀伊半島南岸沿いを西行した。
04時00分B受審人は、潮岬灯台から174度1.3海里の地点に達したとき、霧のため予定していた瀬戸内海の通航を取り止めることに決め、針路を室戸岬沖に向く264度に定めて自動操舵とし、機関を引き続き半速力前進にかけ、折からの東流に抗し、4.5ノットの対地速力で手動により一等航海士と交互に霧中信号を行いながら進行した。

B受審人は、04時05分右舷船首近距離に前路を左方に横切る第三船のマスト灯2灯を認め、自動操舵のままで針路を30度右に転じ、同船を避航した後、濃淡のある霧のため視程が変化するなか、前路に他船の灯火を認めなかったことから、同時07分針路を264度に復した。このとき同人は、右舷船首17度3.0海里に東行する天鈴丸のレーダー映像を初めて認めたが、右舷を対して無難に航過するものと思い、その後操舵スタンド左舷側でいすに腰を掛けたまま、家族のことを心配していて、レーダーにより継続してその動静監視を行うことなく続航した。
04時15分少し前B受審人は、潮岬灯台から217度1.6海里の地点に至り、視程が150メートルばかりの視界制限状態の下、右舷船首17度1.7海里のところに存在する天鈴丸と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、レーダーにより同船の動静監視を行っていなかったので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行き脚を止めなかった。

B受審人は、天鈴丸が吹鳴する霧中信号に気付かないまま、同じ針路及び速力で進行していたところ、04時25分少し前レーダーを見ていた一等航海士から天鈴丸の映像が前方から迫ってくる旨の報告を受け、レーダーを一べつして前方を見ていたとき、右舷船首近距離に同船の白、白、紅3灯を初めて視認し、急いで機関を停止、次いで全速力後進にかけ、同航海士が操舵を手動に切り替えて右舵一杯としたが及ばず、むさしの丸はその船首が269度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、天鈴丸は、左舷中央部より少し後方の外板に破口を伴う凹傷を生じて貨物倉に浸水し、機関長は顔面及び肩に打撲傷を負い、乗組員全員がむさしの丸に移乗後、船体が左舷側に傾き沈没した。一方、むさしの丸は、船首部に破口を伴う凹傷を生じ、のち修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、霧のため視界制限状態となった潮岬南西沖合において、東行する天鈴丸が、レーダーで前路に認めたむさしの丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行き脚を止めなかったことと、西行するむさしの丸が、レーダーによる動静監視が不十分で、天鈴丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行き脚を止めなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった潮岬南西沖合を東行中、レーダーで前路に認めたむさしの丸と著しく接近することを避けることができない状況となったのを知った場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行き脚を止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、もう少し接近するまでは大丈夫と思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行き脚を止めなかった職務上の過失により、むさしの丸との衝突を招き、自船の左舷中央部より少し後方の外板に破口を生じさせて沈没させたほか、機関長の顔面及び肩に打撲傷を負わせ、むさしの丸の船首に破口を伴う凹傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

B受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった潮岬南西沖合を西行中、レーダーで右舷船首方に天鈴丸の映像を探知した場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダーにより継続してその動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷側を無難に航過するものと思い、レーダーにより継続して天鈴丸の動静監視を行わなかった職務上の過失により、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行き脚を止めないで進行して同船との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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