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2000年(平成12年)

平成11年神審第84号
    件名
プレジャーボートアヤ漁船松喜丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、佐和明、西林眞
    理事官
橋本學

    受審人
A 職名:アヤ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:松喜丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
アヤ・・・船首部に擦過傷
松喜丸・・・左舷前部に破口及び亀裂、のち廃船

    原因
アヤ・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
松喜丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    二審請求者
理事官橋本學

    主文
本件衝突は、アヤが、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、松喜丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月29日02時30分
石川県金沢港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートアヤ 漁船松喜丸
総トン数 2.85トン
全長 9.90メートル
登録長 8.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 169キロワット
漁船法馬力数 35
3 事実の経過
アヤは、船体中央部に操縦室を設けたFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、平成9年7月29日02時08分石川県金沢港内、大野川に架かる粟崎橋約50メートル上流右岸の清水マリーナを発し、航行中の動力船の灯火を表示して福井県三国港北西方の松出シ礁に向かった。
A受審人は、発航後、操縦室右舷側の操縦席に腰を掛けて見張りと操船に当たり、徐々に速力を上げながら大野川を下航したのち、12.0ノットの対地速力で港内を北上した。

ところで、金沢港は、北方に開き、大野川河口西側から北方向に3,020メートル延びる西防波堤と、くの字形に屈曲して北東方向に延びる東側陸岸との間が水路となっており、当時、西防波堤北端部では防波堤延長工事が施工中で、金沢港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)からそれぞれ063度(真方位、以下同じ。)130メートル、021度380メートル、347度380メートル及び305度130メートルの4地点で囲まれた方形の海域が工事区域に設定され、各4地点に同区域を示すため4秒1閃光の黄色点滅式の標識灯が設置されていた。
02時27分少し前A受審人は、西防波堤灯台から177度1,800メートルの地点で、針路を西防波堤灯台の灯火を船首少し左に見る001度に定め、前路に航行船が見当たらなかったので、同時27分半、機関を回転数毎分2,200に上げ、18.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。

A受審人は、02時28分わずか過ぎ西防波堤灯台から175度1,100メートルの地点に達したとき、正船首わずか右1,500メートルのところに、西防波堤北端部の陰から現れた松喜丸の表示する白、緑2灯のうち緑1灯のみを初認して入港するものと判断したが、これまで他船と互いに右舷を対して航過することがしばしばあったことから、同船が東側の陸岸寄りに南下するものと考え、同船と右舷を対して航過しようとして、針路を西防波堤に近づける356度に転じ、すぐ同船から目を離し、舵輪左方にあるGPSプロッターに手を伸ばし、画面上に残っていた過去の航跡を消去する作業に取り掛かった。
02時28分半、A受審人は、西防波堤灯台から175度900メートルの地点に達したとき、港内に向けて右転を終えた松喜丸の白、紅2灯を右舷船首6度1,200メートルに見るようになり、その後その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、同作業に気をとられ、松喜丸に対する動静監視を行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに機関を使用して行き脚を止めるなど衝突を避けるための措置をとらずに続航した。

A受審人は、02時30分わずか前、GPSプロッターの操作を終えて前方を見たとき、船首至近に迫った松喜丸の船首部を認めたものの、何をする間もなく、02時30分西防波堤灯台から148度70メートルの地点において、アヤは、原針路、原速力のまま、その船首が松喜丸の左舷前部に前方から21度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
また、松喜丸は、船体中央部やや船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、刺し網漁の目的で、船首0.40メートル船尾0.55メートルの喫水をもって、同日00時10分金沢港を発し、同港西北西方4海里付近の漁場に向かった。
01時00分ごろB受審人は、目的の漁場に至り、その後刺し網の投入を終えたところで帰途につくことにし、同時55分西防波堤灯台から293度4.4海里の地点を発進し、針路を西防波堤北端部付近に向く110度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で航行中の動力船の灯火を表示して進行した。

B受審人は、操舵室後方の甲板上に立ち舵柄を操作して見張りと操船に当たり、やがて工事区域北西端の標識灯を右舷側近距離に見て、次いで02時28分わずか過ぎ同区域北東端の標識灯を右舷側20メートルに離して航過したのち港内に向け右転を始め、同時28分少し過ぎいつものように工事区域南東端の標識灯を船首少し右に見る184度の針路としたとき、左舷船首2度1,350メートルのところに、西防波堤沿いに北上中のアヤの表示する白、緑2灯のうち緑1灯のみを初めて視認した。
そこでB受審人は、アヤと左舷を対して航過するつもりで、02時28分半西防波堤灯台から026度340メートルの地点に達したとき、針路を工事区域南東端の標識灯と西防波堤灯台との間に向く197度に転じ、西防波堤に近づく態勢としたところ、同船を左舷船首15度1,200メートルに見るようになった。

B受審人は、アヤの動静を見守り、その後その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢となって急速に接近することを知ったが、自船が右舷側の西防波堤に近寄って航行しているので、そのうちアヤが右転するものと思い、速やかに機関を使用して行き脚を止めるなど衝突を避けるための措置をとらずに進行中、02時30分わずか前アヤが左舷船首至近に迫っても右転しないので、機関を微速力前進にしたが及ばず、松喜丸は、原針路、ほぼ原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、アヤは船首部に擦過傷を生じたのみであったが、松喜丸は左舷前部に破口及び亀裂を生じ、のち修理費の都合で廃船とされた。


(原因)
本件衝突は、夜間、金沢港において、西防波堤沿いに航行中の両船が互いに接近した際、北上中のアヤが、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、南下中の松喜丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、金沢港内を西防波堤沿いに北上中、正船首わずか右に同防波堤北端部の陰から現れた松喜丸の緑1灯のみを視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静を監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、同船が東側の陸岸寄りに南下し、自船と右舷を対して航過できるものと思い、一べつしただけで目を離し、GPSプロッターの画面上に残っていた過去の航跡を消去する作業に気をとられ、その動静を監視しなかった職務上の過失により、その後松喜丸と衝突のおそれがある態勢となって急速に接近することに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、アヤの船首部に擦過傷を、松喜丸の左舷前部に破口及び亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、夜間、漁場からの帰港中、金沢港の西防波堤北端部付近で右転して港内に向けたとき、左舷船首方に西防波堤沿いに北上するアヤの緑1灯を視認し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近するのを知った場合、速やかに機関を使用して行き脚を止めるなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、自船が西防波堤に近寄る態勢としていることから、いずれアヤが右転するものと思い、速やかに機関を使用して行き脚を止めるなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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