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2000年(平成12年)

平成11年神審第87号
    件名
漁船宝徳丸漁船八幡丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、米原健一、西林眞
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:宝徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:八幡丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
宝徳丸・・・球状船首が損傷脱落
八幡丸・・・左舷後部外板に破口、機関室に浸水、機関に濡損

    原因
宝徳丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
八幡丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、宝徳丸が、見張り不十分で、前路に停留している八幡丸を避けなかったことによって発生したが、八幡丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月5日18時30分
富山県新湊漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船宝徳丸 漁船八幡丸
総トン数 19.99トン 10トン
全長 24.00メートル
登録長 14.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
宝徳丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、いか漁の目的で、船首0.4メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成10年8月5日18時00分富山県新湊漁港を発し、能登半島珠洲岬北東沖合の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、舵輪左舷後方のいすに腰を掛けた状態では、船首部に装備されたパラシュート型シーアンカー用の巻揚機に前方の見通しを妨げられ、正船首方から右舷10度の範囲に死角を生じることから、平素立ち上がるなどして死角を補う見張りを行っていた。

発航後、A受審人は、操舵室の窓及び後部の扉並びに同室後方の機関室の扉を開放した状態で、舵輪後方に立って操船と見張りに当たり、沖合に設置された定置網を適宜避けながら手動操舵により北上し、18時20分氷見港唐島灯台(以下「唐島灯台」という。)から110度(真方位、以下同じ。)5.1海里の地点に達したとき、前路に定置網等の障害物や他の船舶がいないことを確認したのち、舵輪左舷後方のいすに腰を掛け、針路を025度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行した。
18時28分A受審人は、唐島灯台から096度5.4海里の地点に差し掛かったとき、正船首わずか右620メートルに停留して揚縄中の八幡丸を視認することができる状況で、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、前路に他の船舶はいないものと思い、立ち上がるなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同じ針路、速力で続航した。

こうして、A受審人は、18時29分八幡丸が正船首方300メートルに接近し、同船が鳴らすモーターサイレンの音を聞いたものの、自船の機関音に紛れて判別することができなかったので八幡丸の存在に依然気付かず、同時30分わずか前左舷船首前方至近に迫った同船の船首部を初めて認めたが、何をする間もなく、18時30分唐島灯台から093度5.5海里の地点において、宝徳丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、八幡丸の左舷船尾に前方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、日没は18時56分で、視界は良好であった。
また、八幡丸は、かご縄漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人、C指定海難関係人ほか2人が乗り組み、ばい貝かご縄漁業の目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日16時00分新湊漁港を発し、同漁港沖合5海里の漁場に向かった。

ところで、B受審人が行うばい貝かご縄漁業は、直径20ミリメートルの合成繊維製索2,000メートルにかご100個を取り付け、重さ約6キログラムの石のおもり10個ばかりとともに水深およそ650メートルの海底に投入し、翌日引き揚げるもので、1組の漁具を船上に引き揚げ、ばい貝など漁獲物を取り込み、餌を取り替えたのち再び投入し終わるのに約2時間を要した。
16時20分B受審人は、目的の漁場に至り、機関を中立としたのち、船舶所有者であり、時折甲板員として乗船していたC指定海難関係人を操舵室で見張りに当たらせ、自らと他の乗組員で揚縄作業やかごの整理を行うこととし、漁労に従事していることを示す形象物を掲げず、南西方向およそ3,000メートルにわたって投入していた2組の漁具の揚縄作業を開始した。
B受審人は、操舵室左舷側のドラムを使用して船首左舷側から揚縄を行い、次第に船体が南西方にゆっくり移動し、18時28分前示衝突地点に至って船首が245度を向き2組目の揚縄作業を開始したとき、左舷船首40度620メートルに自船に向首進行してくる宝徳丸を初めて視認し、引き続きその動静を監視していたところ、その後同船の方位に変化がなく衝突のおそれのある態勢で接近することを知り、宝徳丸に避航の気配がなかったが、いずれ同船が停留中の自船を避けるものと思い、揚縄作業を続行した。

こうして、B受審人は、18時29分宝徳丸が300メートルに接近したとき、操舵室にいたC指定海難関係人が同船に対してモーターサイレンを鳴らし始めたものの、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとらず、同時30分少し前ようやく危険を感じ、急いで操舵室に駆け込み機関を前進にかけたが及ばず、八幡丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、宝徳丸は球状船首が損傷脱落し、八幡丸は左舷後部外板に破口を生じて機関室に浸水し、機関に濡損を生じて自力航行が不能となったが、宝徳丸によって新湊漁港に引き付けられ、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、富山県新湊漁港沖合において、宝徳丸が、見張り不十分で、前路に停留している八幡丸を避けなかったことによって発生したが、八幡丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、新湊漁港沖合において、能登半島珠洲岬北東沖合の漁場に向けて北上する場合、舵輪左舷後方のいすに腰を掛けると正船首方から右舷10度の範囲に死角を生じる状況であったから、右舷前方で停留している八幡丸を見落とすことがないよう、立ち上がるなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路に他の船舶はいないものと思い、立ち上がるなどして死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、八幡丸の存在に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、宝徳丸の球状船首を損傷脱落させ、八幡丸の左舷後部外板に破口を生じさせたうえ、機関室に浸水を招いて機関に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、新湊漁港沖合において、停留してばい貝かご縄を揚収中、宝徳丸が左舷前方から自船に向首して避航の気配を示さないまま接近するのを認めた場合、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、いずれ宝徳丸が自船を避けるものと思い、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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