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2000年(平成12年)

平成11年神審第73号
    件名
瀬渡船武庫丸プレジャーボートゆうばれ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、米原健一
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:武庫丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:ゆうばれ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:ゆうばれ乗組員 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
武庫丸・・・・操舵室上部のマストが倒れたほか、船首部を圧壊、 船長及び釣客11人が頭部打撲
ゆうばれ・・・マストが折損、左舷側中央部外板にV字状破口、乗組員3人及び同乗者1人が頸椎捻挫

    原因
武庫丸・・・・速力不適切、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
ゆうばれ・・・法定灯火不表示、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    二審請求者
受審人B、補佐人三島次郎

    主文
本件衝突は、武庫丸が、安全な速力で航行しなかったばかりか、見張り不十分で、ゆうばれとの衝突を避けるための措置をとらなかったことと、ゆうばれが、法定の灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、武庫丸との衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月19日20時07分
兵庫県尼崎西宮芦屋港
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船武庫丸 プレジャーボートゆうばれ
総トン数 8.5トン 8.5トン
全長 14.00メートル 12.51メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 356キロワット 31キロワット
3 事実の経過
武庫丸は、主に兵庫県尼崎西宮芦屋港において防波堤への釣客送迎に従事するほか、時折、作業警戒船として神戸港などに赴くことのある船体中央部に操舵室を備えたFRP製瀬渡船で、A受審人が1人で乗り組み、すでに西宮防波堤に渡していた釣客を迎えに行くため、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成10年7月19日19時40分航行中の動力船の灯火を表示して西宮市鳴尾川河口部左岸の定係地を発し、同防波堤西端付近に定めていた釣客乗降地点に向かった。

ところで、西宮防波堤は、尼崎西宮芦屋港の港域内にあり、西宮市南部の鳴尾浜の陸岸から1ないし1.5海里南方沖合に東西方向2.5海里にわたって設けられており、同防波堤と陸岸との間の海域は、無人のバージや小型鋼船の錨地となっていて、当時も十数隻のバージなどが錨泊灯を点じて船首を北東風に立てた状態で錨泊していた。
A受審人は、20時00分少し前錨泊船の間を南下して乗降地点に至り、船首付けで接岸のうえ釣客11人を乗船させ、直ちに機関を後進にかけて後退反転したのち、同時01分西宮防波堤西灯台から085度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点を発進し、針路を鳴尾浜にあるスポーツ施設の夜間照明にほぼ向首する056度に定め、機関を全速力前進にかけて20.0ノットの対地速力で進行した。
発進時からA受審人は、操舵室中央のいすに腰を掛けて手動操舵に当たり、当時は小雨模様で、操舵室前面にある3枚の窓ガラスのうち左右両側の窓ガラスに装備されている2基の旋回窓を動かしていたものの、阪神高速道路湾岸線の照明や前示スポーツ施設の照明などにより見張りが妨げられる状況であったうえ、数隻の錨泊船を避けるため直進できない状態であった。しかし、これらを考慮して安全な速力とすることなく、この時間帯に西宮防波堤内側を東西に航行する船はいないと思い、そのままの速力で錨泊船を避けながら続航した。

20時04分A受審人は、西宮内防波堤灯台から198度1海里の地点に達したとき、右舷船首14度1海里のところにゆうばれが表示する紅灯2灯を視認でき、その後これら灯火が錨泊船の陰に一時隠れることがあったものの、方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近することが分かる状況であったが、見張り不十分で、陸岸の灯火に紛れた紅灯2灯に気付かないまま、進路上に錨泊船がいなくなったので056度の針路のまま直進した。
20時06分A受審人は、ゆうばれが表示する紅灯2灯の方位が変わらないまま650メートルに接近したが、依然これに気付かず、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないで進行中、同時07分わずか前、鳴尾川河口部が近づいたのでこれに向けるよう針路を左に転じた直後、20時07分西宮内防波堤灯台から130度1,220メートルの地点において、045度に向いた武庫丸の船首が、ゆうばれの左舷側ほぼ中央部に、原速力のまま後方から70度の角度で衝突した。

当時、天候は雨で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、ゆうばれは、帆走設備及びフィンキールを備えたFRP製ヨットで、B及びC両受審人ほか5人が乗り組み、同乗者1人を乗せ、同日07時30分定係地としている西宮内防波堤灯台から350度1海里ばかりの西宮東護岸防波堤ヨットだまりを出航し、10時ごろから大阪湾で行われたヨットレースに参加したのち、大阪北港ヨットハーバーにおいて帆を格納したうえ、フィンキール下端まで2.3メートルの喫水をもって、19時25分帰途についた。
B受審人は、機走により大阪港内を経て尼崎西宮芦屋港内に入り、西宮防波堤内側を西行して定係地に向かう予定であったが、海面上約1.5メートルの船首部パルピット前端に両色灯を及び船尾部付近に船尾灯をそれぞれ表示したものの、長さ12メートル以上の航行中の動力船が表示しなければならないマスト灯を掲げなかったうえ、海面上18メートルのマスト頂部に、航行中の帆船の三色灯を点灯したままで、法定灯火を表示することなく、自らが出航操船に当たったのち、無資格の乗組員Dが帰航の進路を知っているので大丈夫と思い、19時30分ごろいつものコースで走れとのみ指示しただけで、自ら操船の指揮に当たらず、同人に航海当直を任せ、キャビンに入って休息した。

D乗組員は、大阪港から尼崎西宮芦屋港に入ったころ降雨となり、間もなくC受審人が雨合羽を着てキャビンから出てきたので、19時52分武庫川河口部で同人と当直を交替してキャビンで雨合羽に着替えた後、針路目標となる西宮内防波堤灯台の灯火を見付けるため船首部で前方の見張りに当たった。
一方、C受審人は、コックピットに立って前方を向き舵輪を握って操舵に当たり、19時57分西宮鳴尾防波堤灯台から220度100メートルの地点に達したとき、針路を阪神高速道路湾岸線西宮港大橋頂部の白色閃光灯を右舷船首方に見る322度に定め、機関回転数を航海全速力時より少し下げた毎分1,900とし、5.0ノットの対地速力で進行した。
20時04分C受審人は、西宮内防波堤灯台から133度1,660メートルの地点に差し掛かったとき、左舷船首72度1海里のところに武庫丸が北上中で、時折錨泊中のバージに隠れることがあったものの、武庫丸の緑、白各1灯を視認できる状況で、その後その方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近していたが、目標としていた西宮港大橋の白色閃光灯など前方の見張りに気を取られ、左舷側の見張りを十分に行わなかったので、錨泊船の灯火などに紛れていた武庫丸の灯火に気付かなかった。

20時06分C受審人は、武庫丸が左舷船首72度650メートルに接近したが、依然左舷側の見張り不十分でこのことに気付かず、右転するなどして、衝突を避けるための措置をとらずに続航中、同時07分少し前、甲板上の乗組員の叫び声で左舷側に振り向いたところ、間近に迫った武庫丸の船体を認め、とっさに右舵一杯をとったが効なく、ゆうばれの船首が335度を向いたとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
キャビンでGPSプロッターを立ち上げようとしていたB受審人は、衝撃があって衝突を知り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、武庫丸は、操舵室上部のマストが倒れたほか、船首部を圧壊し、ゆうばれは、マストが折れたほか、左舷側中央部外板にV字状破口を生じて浸水した。また、A受審人及び武庫丸の釣客11人が頭部打撲などを、ゆうばれの乗組員3人及び同乗者1人が頸椎捻挫などの傷をそれぞれ負った。


(主張に対する判断)
ゆうばれ側補佐人は、武庫丸が無灯火であったため同船を発見するのが遅れた旨を主張するので、この点について検討する。
A受審人は、同人に対する質問調書において、定係地の桟橋を発航するときマスト灯、左右各舷灯及び船尾灯を点灯した旨を述べており、また、釣客Eは、竹内理事官の照会に対し、武庫丸が鳴尾浜から出てくるのを目視で確認してから帰り支度をしたので武庫丸の緑灯、紅灯及び白灯を見た旨の回答を寄せている。
一方、当廷において、C受審人は、相手船を間近に認めたが灯火には気付かなかった旨を、F、G両証人は、武庫丸の船体と同船が立てていた白波しか視認していない旨をそれぞれ供述している。また、初認時の模様について、C受審人は、2人の声で左舷を振り向いたとき武庫丸の船影を認めた旨を、G証人は、衝突の5秒ぐらい前に50ないし100メートルのところに相手船の船首と右舷側を認めた旨を、C受審人及びF証人は、当時錨泊している多数のバージが存在していたが、これらが灯火を点灯していたかどうか分からない旨をそれぞれ供述している。さらに、本件発生直後の混乱の中、ゆうばれの誰もが武庫丸の航海灯の点灯状況を確認していない。

以上のことから、ゆうばれ側が衝突のわずか前に相手船の船体を認めたとき、その灯火まで確認する余裕がなかったもので、これらの供述をもって武庫丸が無灯火で航行していた旨のゆうばれ側補佐人の主張を採用することはできない。

(航法の適用)
本件衝突は、夜間、尼崎西宮芦屋港の西宮防波堤内の海域において、互いに進路を横切る態勢で航行中の両船間に発生したもので、以下適用航法について検討する。
本件が発生した地点は港内であったが、両船はどちらも航路内を航行しておらず、防波堤、ふとうその他の工作物又は停泊船から離れており、また、いずれも専ら同港内だけを航行する雑種船ではなく、両船間に港則法関係航法の適用はない。
したがって、両船間には海上衝突予防法の航法が適用されることになり、両船の態勢から同法第15条第1項に規定する横切り船航法の適用が検討の対象となるが、ゆうばれは、マスト灯を表示していなかったうえ、船首部パルピット前端の海面上1.5メートルのところに表示していた両色灯以外に全長20メートル未満の帆船が表示することができる三色灯を海面上の高さ18メートルのマスト頂部に点灯していた。

武庫丸が、ゆうばれの海面上の低い位置にある紅灯1灯とその5メートルばかり後方で非常に高い位置にある紅灯1灯をそれぞれ視認した場合、マスト灯や白色全周灯を表示しないまま航行している帆船や漁ろうに従事している船舶、さらに2隻の航行中の動力船が重なっているものなどと解釈することが可能で、海上衝突予防法のどの航法を適用すべきか判断することはできない。よって、本件衝突においては、両船がそれぞれ船員の常務により衝突を避けるべきであったとするのが相当である。

(原因)
本件衝突は、夜間、降雨のなか、バージなどが多数錨泊する尼崎西宮芦屋港の西宮防波堤内において、武庫丸が、安全な速力で航行しなかったばかりか、見張り不十分で、ゆうばれとの衝突を避けるための措置をとらなかったことと、ゆうばれが、法定の灯火を表示せず、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
ゆうばれの運航が適切でなかったのは、船長が自ら操船の指揮を執らなかったことと、当直者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、降雨のなか、尼崎西宮芦屋港の西宮防波堤から釣客を収容して帰途につく場合、同防波堤と陸岸との間の海域には多数のバージなどが錨泊しているうえ、前路の陸岸の灯火により見張りを妨げられる状態であったから、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、夜間に西宮防波堤内を東西に航行する船はいないものと思い、周囲の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、方位が変わらず接近するゆうばれの灯火を見落とし、衝突を避けるための措置をとることなく進行してゆうばれとの衝突を招き、武庫丸に船首部圧壊などの損傷を、ゆうばれに左舷側中央部外板破口などの損傷をそれぞれ生じさせ、また、自身及び武庫丸の釣客11人に頭部打撲など、ゆうばれの乗組

員3人及び同乗者1人に頸椎捻挫などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、ヨットレースに参加したのち、夜間、降雨のなか、多数のバージなどが錨泊している尼崎西宮芦屋港の西宮防波堤内を、陸岸に沿って航行する場合、自ら操船の指揮を執るべき注意義務があった。しかるに、同人は、部下の乗組員が帰航の進路をよく知っているので任せても大丈夫と思い、自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、武庫丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるとともに、A受審人及び武庫丸の釣客並びにゆうばれの乗組員及び同乗者を負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

C受審人は、夜間、降雨のなか、多数のバージなどが錨泊している尼崎西宮芦屋港の西宮防波堤内を、陸岸に沿って航行する場合、左方から衝突のおそれがある態勢で接近する武庫丸を見落とすことがないよう、左方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、目標とした西宮港大橋の白色閃光灯など前方の見張りに気を取られ、左方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、武庫丸の接近に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるとともに、A受審人及び武庫丸の釣客並びにゆうばれの乗組員及び同乗者を負傷をさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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