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2000年(平成12年)

平成11年横審第127号
    件名
漁船さぬき丸プレジャーボート萌恵衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

西村敏和、半間俊士、長浜義昭
    理事官
小金沢重充

    受審人
A 職名:さぬき丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
さぬき丸・・・推進器軸及び舵軸などに損傷
萌恵・・・両舷外板などを大破、転覆、のち廃船、船長が溺死

    原因
さぬき丸・・・見張り不十分、船員の常務(左転・増速)不遵守(主 因)
萌恵・・・法定灯火不設備(一因)

    主文
本件衝突は、さぬき丸が、見張り不十分で、低速で航行中の萌恵に向けて転針・増速したことによって発生したが、萌恵が法定灯火を設備していなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月16日05時20分
静岡県田子漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船さぬき丸 プレジャーボート萌恵
総トン数 1.0トン
全長 9.20メートル 4.24メートル
登録長 6.84メートル 3.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 110キロワット 3キロワット
3 事実の経過
さぬき丸は、FRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、めじまぐろひき縄漁の目的で、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成10年11月16日05時15分静岡県田子漁港田子漁業協同組合前の岸壁を発し、同漁港西方の田子島付近の漁場に向かった。
ところで、田子漁港は、駿河湾に面した伊豆半島西岸の中央部に位置し、同漁港西方の尊之島の南北端にはそれぞれ南北方向に延びる防波堤が築造され、それらによって囲まれた入江には各所に大型のいけすが設置されており、漁港施設が整備されて小型漁船が多数係留しているほか、港内及び周辺海域では遊漁やダイビングも盛んで、ダイビング支援船やプレジャーボートなども係留されていた。また、尊之島南端に築造された瀬浜防波堤は、長さ80メートル、幅8メートル及び海面上の高さ5.5メートルで、瀬浜海岸に向けてほぼ南に延び、同防波堤西方海域には田子島、赤島、大島及び中島などが点在し、周囲に浅礁が広がって刺網漁業が盛んなほか、あおりいかの好漁場ともなっており、このため小型漁船などが同防波堤南端と同海岸との間の水路(以下「瀬浜水路」という。)を通航していたが、同水路の幅員は低潮時には10数メートルしかなく、同海岸から干出岩が張り出して可航幅が狭いうえ、夜間標識が設置されていないなど、夜間の通航には注意を要するところとなっていた。
A受審人は、民宿やキャンプ場を経営する傍ら漁業を営み、宿泊客が少ないときには早朝に田子島沖合でのめじまぐろひき縄漁などに出漁することがあり、漁場との航程を短縮するため、高潮時前後の瀬浜水路の可航幅が若干広くなるときには同水路を通航することにしており、これまでも夜間に同水路を通航していたので、瀬浜防波堤西方海域において日出前と日没前後に、あおりいか漁を操業する小型漁船などがいることを知っていた。
A受審人は、操舵室の左舷側に立って操船にあたり、マスト灯を表示せず、両色灯と船尾灯だけを表示し、暖気運転を兼ねて機関回転数毎分1,200の微速力前進にかけ、5.6ノットの対地速力で、田子港東防波堤灯台を右舷船首に見て北西方に進行していたところ、同じころ出航した船外機装備のランナバウト型プレジャーボートムセン丸(長さ5.09メートル)が自船の前方を同航しており、このころ付近に出漁する小型漁船がいたので、ムセン丸の船尾灯を向進目標にして同船との船間距離を約10メートルに詰めて追走した。

A受審人は、ムセン丸が田子漁港東防波堤を通過したところで左転して瀬浜水路に向かうのを認め、空がやっと白みかけたところであったが、高潮時を過ぎて間もないころであり、同船の後方を追走すれば同水路を安全に通航できると考えて自船も左転し、瀬浜海岸の北東側に設置された大型のいけすの間を通過したのち、水道の中央部を同水路に向けて続航した。
05時19分半A受審人は、瀬浜防波堤南端を右舷側に約2メートル隔てて通過し、その後もムセン丸の後方約10メートルを追走していたところ、同時20分少し前、同船が突然停留したので、田子港東防波堤灯台から248度(真方位、以下同じ。)540メートルの地点において、同船を避けるため急いで右転し、船首を北西方に向けたとき、左舷前方40メートルのところに、低速で南下中の萌恵の赤色灯を視認し得る状況であったが、ムセン丸を避けることに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。

05時20分わずか前A受審人は、田子港東防波堤灯台から249.5度550メートルの地点に達し、ムセン丸を左舷側に約10メートル隔てて替わし終えたとき、依然として左舷船首20メートルのところに接近した萌恵に気付かないまま、瀬浜水路の西方にある大島と中島との間を通過して田子島西方の漁場に向かうため、左転して針路を270度に定め、機関回転数毎分2,350の半速力前進にかけて増速したところ、同船に向首する態勢となり、05時20分田子港東防波堤灯台から250度570メートルの地点において、さぬき丸は、原針路、約10ノットとなった速力で、その船首が、萌恵の左舷船尾部に前方から80度の角度で衝突し、乗り切った。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、視界は良好で、日出時刻は06時18分であった。
A受審人は、衝撃を感じて衝突したことを知り、直ちに機関を中立にし、その後機関を使用して萌恵に接近しようとしたが、推進器軸などに損傷を生じて航行不能となり、大声でムセン丸や付近であおりいか漁を操業中の八代丸に萌恵の救助を要請した。

また、萌恵は、最大搭載人員3人の和船型FRP製プレジャーボートで、船長Bが1人で乗り組み、あおりいか釣りの目的で、船首尾とも約0.2メートルの等喫水をもって、同日04時45分ごろ田子漁港竹ノ浦の定係地を発し、瀬浜防波堤西方の釣り場に向かった。
ところで、B船長は、昭和50年に四級小型船舶操縦士の免許を取得し、平成9年5月ごろからは1週間に3日程度萌恵で田子漁港内において釣りを行っていたが、同船には、法定灯火として、航行中の長さ12メートル未満の動力船が表示するマスト灯1個及び船尾灯1個(又はこれらに代わる白色の全周灯1個)並びにげん灯1対(又はこれに代わる両色灯1個)、ないしは長さ7メートル未満で最大速力が7ノットを超えない動力船が表示する白色の全周灯1個を設備する必要があったが、いずれの法定灯火も設備していなかったので、日没から日出までの間の航行が禁止されていた。そのため、同船長は、暗くなる前に帰港するようにはしていたが、釣りに出かけるときには必ず懐中電灯を持参し、萌恵の船首端から0.8メートル後方にある長さ0.9メートルのかんぬきに高さ約1.5メートルの支柱を固定し、赤色透過性のカバーを付けた懐中電灯をその先端に取り付け、海面上の高さを約1.8メートルとして全周から視認できる赤色灯とし、同灯火は約40メートル隔てたところから視認できる状況で、これまでも夜間に同灯火を表示して漁港内で釣りを行うことがあった。
04時55分ごろB船長は、瀬浜防波堤西方の釣り場に到着し、船尾右舷側の物入れの上に腰を降ろして船首方向を向き、前示赤色灯1個を表示し、右手で釣り竿を持ち、餌木(擬似針)を使用した仕掛けを瀬から少し上げたところに保ち、左手で船外機を操作して、約1ノットの対地速力であおりいか釣りを始めた。
こうして、B船長は、瀬浜防波堤の西方海域を低速で航走しながら釣りを続け、05時20分少し前、田子港東防波堤灯台から251度570メートルの地点において、170度の方向に進行していたとき、左舷船首56度40メートルのところのさぬき丸が右転し、ムセン丸を替わしたのち、同時20分わずか前、左舷船首80度20メートルの至近に迫ったとき、今度は左転して増速し、自船に向首する態勢となったが、衝突を避けるための措置をとることができないまま、萌恵は、原針路、原速力で前示のとおり衝突した。

衝突の結果、さぬき丸は、推進器軸及び舵軸などに損傷を生じたが、のち修理され、萌恵は、両舷外板などを大破して転覆し、のち廃船となり、B船長(昭和8年12月23日生)は、海中に投げ出され、付近で操業中の八代丸に収容されて病院に搬送されたが溺死した。

(原因)
本件衝突は、夜間、静岡県田子漁港において、漁場に向けて西行中のさぬき丸が、見張り不十分で、懐中電灯を使用した赤色灯1個を掲げ、低速で南下中の萌恵に向けて左転・増速したことによって発生したが、萌恵が、法定灯火を設備せずに航行したことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、静岡県田子漁港において、同漁港沖合の漁場に向かう場合、前路の他船を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、狭い水路を通過して間もなく、先航する小型船が急に停留したので、これを替わすことに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、懐中電灯を使用した赤色灯1個を掲げ、低速で南下中の萌恵に気付かず、漁場に向かう針路とするため、同船に向けて左転・増速して衝突を招き、さぬき丸の推進器軸及び舵軸などに損傷を生じさせ、萌恵の外板などを大破して転覆させ、B船長を溺死させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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