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2000年(平成12年)

平成11年横審第95号
    件名
漁船第二福栄丸漁船三徳丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、河本和夫、西村敏和
    理事官
小金沢重充

    受審人
A 職名:第二福栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:三徳丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
福栄丸・・・船首船底に擦過傷
三徳丸・・・両舷外板を損壊、船長が、右肋骨骨折、左足関節挫創、外傷性気胸及び頚椎捻挫の傷を負い約2箇月の入院加療

    原因
福栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
三徳丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二福栄丸が、見張り不十分で、停留中の三徳丸を避けなかったことによって発生したが、三徳丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月6日06時45分
茨城県大洗港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二福栄丸 漁船三徳丸
総トン数 4.94トン 1.05トン
登録長 1 3.86メートル 5.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 264キロワット
漁船法馬力数 30
3 事実の経過
 第二福栄丸(以下「福栄丸」という。)は、FRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、かにかご漁の目的で、船首0.20メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成10年8月6日03時40分茨城県大洗港を発し、同港南南東方8海里ばかりの漁場に向かい、同漁場で約2時間の操業を行って約70キログラムを漁獲したのち、06時00分同漁場を発して帰途に着いた。
ところで、大洗港は、港奥北岸は東側から、魚市場及び船揚場を含む漁港区である第1ふ頭、第2ふ頭と続き、その南西側にフェリーターミナルのある第3、第4各ふ頭があり、第4ふ頭の南側から南東方に約450メートル伸びる西防砂堤と、同港のほぼ中央部にC字状に築造された南防波堤とで船だまりが形成されていた。

南防波堤は、その南端に大洗港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)が設置されており、同端から北西方に約200メートル、次いで北方に約510メートルとくの字に伸び、その北端から北東方に大きく弧を描く形で670メートル東方に伸びて同港北岸の東端に至り、南方に約180メートル突き出ている護岸につながっていた。船だまりの東側には、南防波堤に沿い、南北方向に490メートル隔てて2個の赤色灯浮標(以下南側を「南赤色灯浮標」、北側を「北赤色灯浮標」という。)が設置され、その位置は南赤色灯浮標が同灯台から306度(真方位、以下同じ。)230メートルの地点、北赤色灯浮標が南防波堤灯台から345度660メートルの地点で、魚市場に向かう船の右舷標識となっていた。
また、福栄丸は、かにかご漁など船首部魚倉に氷を積まないときに12ノット以上の速力で航行すると船首が浮上し、操舵室中央の操舵位置では、船首の両舷各5度の範囲で水平線が見えない死角が生じる状態であった。

帰途に着いたA受審人は、操舵室において操舵輪の後のいすに腰掛け、単独で操船にあたり、針路を大洗港に向かう336度に定め、視界がやや悪かったので、航海速力より少し減じた14ノットの速力で北上し、06時20分南防波堤灯台から157度6.2海里の地点で視界が回復したとき、機関を全速力前進にかけて15.9ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
06時43分半A受審人は、南防波堤灯台から214度150メートルの地点に達したとき、右舷船首5度から15度の間で港内を見通せるようになり、右舷船首15度760メートルのところで停留している三徳丸を認め得る状況であったが、右舷前方を一見しただけで、南防波堤と前示2つの赤色灯浮標を結ぶ線との間に数隻の漁船を認めたことから、漁船は2つの赤色灯浮標を結ぶ線の南防波堤寄りにいるだけで、自船の前路には他船はいないと思い、前方の見張りを十分に行うことができるよう、12ノット以下の速力とすることなく、船首方の死角を生じさせたまま、前方の見張りを十分に行うことなく進行し、同時44分南赤色灯浮標の西方20メートルばかりにあたる、南防波堤灯台から305度235メートルの地点で、右転して針路を南防波堤に沿う000度としたところ、正船首方490メートルのところで停留している三徳丸に向首して衝突のおそれが生じていたが、このことに気付かず、同船を避けないで同一速力のまま続航中、06時45分南防波堤灯台から343度660メートルの地点において、福栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が三徳丸の右舷中央部に前方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
A受審人は、衝撃で衝突を知り、事後の措置にあたった。
また、三徳丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、すずき一本釣り漁の目的で、船首0.02メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同月5日18時30分大洗港を発し、同港南東方2海里ばかり沖合の黒金礁と称する漁場に向かい、夜通しの操業で漁獲した、すずき3匹約9キログラムを生きたまま生簀(いけす)に入れ、翌6日05時00分同漁場を発して帰途に着いた。

B受審人は、05時15分ごろいつもの係留場所である第1ふ頭東側の船揚場に戻ったところ、港奥である同係留場所周辺に赤潮が発生しており、生簀に赤潮が混入してすずきに悪い影響を与えないよう、赤潮のないところで07時に開く魚市場の開場を待つこととし、05時30分北赤色灯浮標付近に移動して停留を始めた。
B受審人は、停留中、生簀のすずきの状態に気を配りながら、2度ばかり船だまり内を移動し、06時25分ごろ魚市場に向かう漁船の通航路となっている北赤色灯浮標の西側近くの前示衝突地点付近に戻り、機関を低速回転としてクラッチを切り、停留を続けた。
06時43分半B受審人は、前示衝突地点で船首が120度を向首し、船体中央部にある生簀の後方に立ち、生簀内のすずきの様子を見ていたとき、右舷船首51度760メートルのところに、南防波堤の陰から出てきた福栄丸を認め得る状況であったが、すずきの様子に気をとられ、周囲の見張りを十分に行うことなく停留を続けていたところ、同時44分同船が右転して右舷船首60度490メートルのところから自船に向首し、衝突のおそれのある状態となったことに気付かず、クラッチを入れて移動するなど衝突を避ける措置をとらないまま停留中、同時45分少し前福栄丸の機関音を聞いて右舷方を見たとき、至近に同船を認めたがどうすることもできず、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、福栄丸は、船首船底に擦過傷を生じたのみであったが、三徳丸は、両舷外板を損壊し、のち修理され、B受審人は、衝突直前海に逃れたが、衝突の衝撃で押された三徳丸と接触し、右肋骨骨折、左足関節挫創、外傷性気胸及び頚椎捻挫の傷を負い約2箇月の入院加療を要した。

(原因)
本件衝突は、大洗港内において、入航してきた福栄丸が、見張り不十分で、前路で停留している三徳丸を避けなかったことによって発生したが、三徳丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、大洗港内において、南防波堤南端を替わり、魚市場に向けて入航する場合、12ノット以上の速力で航行すると船首が浮上し、船首死角が生じる状態であったから、右舷前方で停留している三徳丸を見落とさないよう、船首が浮上しない速力として船首死角が生じないようにするなどして前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、右舷前方を一見し、自船が魚市場に向かう進路線上には船はいないと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、三徳丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、福栄丸の船首船底に擦過傷を、三徳丸の両舷外板に損壊をそれぞれ生じさせるとともに、B受審人に約2箇月の入院加療を要する右肋骨骨折、左足関節挫創、外傷性気胸及び頚椎捻挫の傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、大洗港内において、魚市場の開場を待つため、同市場に向かう漁船の通航路となっている北赤色灯浮標の西側近くに停留する場合、港内に入航し、自船に向けて針路を転じた福栄丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、生簀内のすずきの様子に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近してきた福栄丸に気付かず、機関を使用するなどの衝突を避ける措置をとらないまま停留を続け、同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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