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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年7月7日11時45分 新潟県寺泊港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第三十三明悦丸 総トン数 1,357トン 全長 85.70メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
2,942キロワット 3 事実の経過 第三十三明悦丸(以下「明悦丸」という。)は、主に北日本諸港間を砂利等の輸送に従事する、上甲板に旋回式ジブクレーン1基を有する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか6人が乗り組み、割石2,000トンを載せ、船首3.50メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、揚荷の目的で、平成11年7月6日16時00分北海道江差港を発し、新潟県寺泊港に向かった。 ところで、寺泊港は、南側に岸線が西北西方向に向く西ふ頭及び北北西方向に延びる第1防波堤、北側に同線が西北西方向に向く東ふ頭及び同方向に延びる防砂堤並びに東側に同線が北北東方向に向く中央ふ頭などの岸壁や防波堤等が設けられており、港内の中央部に東ふ頭西北西端から第2防波堤が南南西から西南西方向に逆くの字形に延び、東側の陸岸中央部から西北西方向に中央ふ頭が突きだしていた。西ふ頭岸壁(以下「西岸壁」という。)前面は、第2防波堤、中央ふ頭及び西ふ頭に囲まれる奥行き約300メートル幅約200メートルの水域であった。西岸壁に出船左舷付けで接岸するには、第2防波堤西南西端と第1防波堤の間を航過して同岸壁前面で反転するが、A受審人は、船長になってから他港の入港操船を数回経験していたものの、海上公試運転成績書をあたって操縦性能を確認していなかった。 A受審人は、発航後、寺泊港の入港操船方法を検討し、船橋当直(以下「当直」という。)を単独の4直3時間制に定め、翌7日04時00分山形県飛島西方沖合で当直に就き、07時00分当直を航海士に引き継ぎ、そのまま在橋して見張りに当たり、11時15分寺泊港沖防波堤北端から北北東方1.5海里に近づいたので当直航海士から当直を引き継いで入港用意を令し、船首に一等、次席一等及び二等各航海士3人を、船尾に機関長及び一等機関士2人をそれぞれ配し、自ら船橋で操船指揮を執り、機関を微速力前進とし、手動操舵で航行を続けた。 11時35分少し前A受審人は、船首が寺泊港第一防波堤灯台から048度(真方位、以下同じ。)150メートルの地点で、針路を162度に定め、機関を微速力前進にかけ、3.5ノットの対地速力で、同港第1防波堤に沿って進行した。 11時41分半A受審人は、船首が寺泊港第2防波堤灯台(以下「第2灯台」という。)から252度75メートルの地点に達したとき、左回頭を開始し、機関を中立にして3.0ノットの前進惰力で続航し、その後大きく右回頭を始め、同時44分少し前船首が同灯台から165度180メートルの地点に達し、168度に向首したころ右舷錨を投入し、錨鎖を延ばしながら右舵30度にしたものの、前進惰力が徐々に落ちて十分な右回頭速度が得られず、西岸壁に衝突のおそれがある態勢で進行したが、もう少し接近してもバウスラスタ(以下「スラスタ」という。)により同岸壁の手前で安全に回頭できるものと思い、機関及び右舷錨を併用して行きあしを止めてから機関をかけて舵効を得るなど、操縦性能に対する配慮を十分に行うことなく、ゆっくりと右回頭を続けて同岸壁に接近した。 11時45分少し前A受審人は、船首が第2灯台から176度260メートルの地点に達し、210度に向首したとき、船首配置の一等航海士から岸壁まで20メートルの距離に接近した旨の報告を受け、岸壁に衝突する危険を感じ、機関を全速力後進にかけ、スラスタを右回頭出力一杯としたが及ばず、11時45分第2灯台から178度280メートルの地点において、明悦丸は、船首が220度に向き、2.0ノットの前進惰力に落ちたとき、その船首が西岸壁に衝突した。 当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 岸壁衝突の結果、明悦丸の球状船首は凹損を生じ、西岸壁に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件岸壁衝突は、寺泊港において、西岸壁前面で反転して出船左舷付けの操船をする際、操縦性能に対する配慮が不十分で、十分な右回頭速度が得られないまま同岸壁に接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、寺泊港において、西岸壁前面で反転して出船左舷付けの操船をする場合、同岸壁前面で安全に回頭できるよう、機関及び右舷錨を併用して行きあしを止めてから機関をかけて舵効を得るなど、操縦性能に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、もう少し接近してもスラスタにより同岸壁の手前で安全に回頭できるものと思い、操縦性能に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、十分な右回頭速度が得られないまま西岸壁に接近して衝突を招き、明悦丸の球状船首に凹損及び西岸壁に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |