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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年11月24日07時30分 宮城県金華山東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五十八新生丸 漁船第二十八丸中丸 総トン数 1 82トン 167トン 全長 39.68メートル 登録長
32.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 735キロワット
698キロワット 3 事実の経過 第五十八新生丸(以下「新生丸」という。)は、さんま棒受網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、船首2.20メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成8年11月23日11時40分宮城県女川港を発し、同港南東方沖合の漁場に向かった。 A受審人は、前示漁場に至って夜間操業を行い、翌24日の早朝に同操業を終え、再び夜間操業を開始するまで漂泊中の第二十八丸中丸(以下「丸中丸」という。)の付近に移動して漂泊することとし、06時00分同漁場を発進し、上段操舵室で単独の船橋当直(以下「当直」という。)に就いて北上した。 ところで、A受審人は、前々日時化のため女川港に停泊して休息をとっていたが、前日発航時から当直及び操業に従事して前示発進まで、ほぼ一昼夜ほとんど休息がとれず、睡眠不足の状況であった。 06時30分A受審人は、一時通信長に当直を引き継ぎ、降橋して食堂で朝食を摂ったのち風邪気味であったので風邪薬を服用し、同時45分再び昇橋して持ち運び式いすを右舷側に置き、同いすに腰を掛けて当直に当たった。 07時22分少し前A受審人は、金華山灯台から088度(真方位、以下同じ。)13.8海里の地点で、船首方1.5海里に丸中丸が東方に向首して漂泊しているのを視認し、針路を同船に向かう002度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対水速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。 定針したころ、A受審人は、丸中丸のレーダー映像を一見して船首輝線より少し左に探知し、波浪の影響により船首が左右に振られながら続航中、睡眠不足の状況と風邪薬の服用とで、眠気を催したが、漂泊地点まで近いので何とか我慢できると思い、いすから立ち上がって操舵室内を移動するとか、立って手動操舵に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、いすに腰掛けたまま当直に当たっているうち、いつしか居眠りに陥り、その後丸中丸に衝突のおそれのある態勢で接近したが、これに気付かず、漂泊している同船を避けないで進行した。 07時30分わずか前A受審人は、ふと目を覚まして船首至近に迫った丸中丸を認めて機関を全速力後進としたが及ばず、07時30分金華山灯台から082度14.1海里の地点において、新生丸は、原針路、原速力のまま、その船首が丸中丸の右舷前部に後方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 また、丸中丸は、さんま棒受網漁業に従事する鋼製漁船で、B、C両受審人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、船首2.10メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、同月23日11時00分女川港を発し、金華山東方沖合の漁場に向かった。 B受審人は、漁場に至って夕刻から夜間操業を行い、翌24日05時45分前示衝突地点で操業を終え、同日夕刻から操業を再開するまでの間、同地点で漂泊をすることとし、漂泊しているのだからまさか衝突のおそれのある態勢で接近する他船はいないと思い、船橋に見張員を立てることなく、乗組員全員を休息させて東方を向いて漂泊を開始した。 ところで、B受審人は、丸中丸の運航についてすべての指揮を執り、C受審人が、操業に関する指示を乗組員に行っていた。 07時22分少し前B受審人は、182度1.5海里に新生丸が自船に向首し、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、船橋に見張員を立てていなかったことから、これに気付かないで、警告信号を行わず、やがて同船が間近に接近したものの、機関を始動して衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、07時29分C受審人が便所に行ったとき、右舷正横至近に迫った新生丸を初めて認め、乗組員に知らせたのち、機関を始動させようとしたが間に合わず、丸中丸は、船首が082度に向いたとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、新生丸は船首部に、丸中丸は船首部及び右舷前部に破口を伴う凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、金華山東方沖合において、新生丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の丸中丸を避けなかったことによって発生したが、丸中丸が、船橋に見張員を立てないで、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、金華山東方沖合において、漂泊中の丸中丸付近に漂泊するため単独の当直に就いて北上中、眠気を催した場合、居眠り運航にならないよう、いすから立ち上がって操舵室内を移動するとか、立って手動操舵に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、漂泊地点まで近いので何とか我慢できると思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いすに腰掛けたまま当直に当たっているうち、いつしか居眠りに陥り、丸中丸を避けないで進行して同船との衝突を招き、新生丸の船首部並びに丸中丸の船首部及び右舷前部にそれぞれ破口を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、金華山東方沖合において、漂泊する場合、衝突のおそれのある態勢で接近してくる新生丸を見落とさないよう、船橋に見張員を立てるべき注意義務があった。しかるに、同人は、漂泊しているのだからまさか衝突のおそれのある態勢で接近する他船はいないと思い、船橋に見張員を立てなかった職務上の過失により、新生丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かないで、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらないで同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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