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2000年(平成12年)

平成12年函審第3号
    件名
漁船第五十一銀世丸防波堤衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹
    理事官
堀川康基

    受審人
A 職名:第五十一銀世丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首船底外板を圧壊、前部魚倉内に浸水

    原因
針路保持不十分

    主文
本件防波堤衝突は、針路の保持が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月26日02時10分
北海道花咲港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十一銀世丸
総トン数 4.9トン
登録長 11.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
第五十一銀世丸(以下「銀世丸」という。)は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、かれい刺網設置の目的でA受審人ほか3人が乗り組み、平成9年8月25日17時00分北海道花咲港魚市場岸壁を発し、18時ごろ落石岬の南南東方7海里ばかりの漁場に至り、折から同漁場付近で操業中のさんま刺網漁船群が移動するまで漂泊待機したのち翌26日00時30分投網を開始し、01時00分準備していた1連の長さ約800メートルの刺網の設置を終え、船首0.20メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、同漁場を発進し、帰途に就いた。
発進後A受審人は、単独船橋当直に就いて落石岬に向け北上したのち同岬の南南東方3海里ばかりのところから、ユルリ海峡の中央付近に向かい、01時53分緩島(ゆるり)灯台を右舷側1海里ばかりに通過したのち花咲港西外防波堤東端に向け北上し、02時05分花咲灯台から211度(真方位、以下同じ。)1,730メートルの地点に達したとき、針路を花咲港東外防波堤南端の少し内側に向く045度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。

ところで、本船の操舵スタンド上面の計器盤右側にはダイヤル式自動操舵装置が設けられており、そのつまみを回して左右の任意の舵角目盛に指針を合わせると、その目盛の舵角がとられて遠隔操舵となり、目盛中央の舵角0度に合わせるとその時の針路で自動操舵に切り替わるようになっているが、このときつまみの指針と0度の目盛に小角度のずれがあると自動操舵に切り替わらず、その舵角で回頭するおそれがあったものの、A受審人は、ダイヤル式自動操舵つまみで操舵することに慣れていることから入出航操船時にもこのつまみを使用していた。
定針後A受審人は、操舵室左舷側のいすに腰をかけて前方の見張りに当たり、02時06分少し過ぎ花咲港東外防波堤南端を右舷側80メートルに航過したとき、ダイヤル式自動操舵つまみの遠隔操舵で針路を花咲港南防波堤灯台の少し西方に向く323度に転じ、同灯台が接近したら右転して同灯台と西防波堤突端との間の内防波堤入口に入航するつもりで続航した。

A受審人は、内防波堤入口に向け転針したとき、ダイヤル式自動操舵つまみの指針を中央にして自動操舵に切り替えたつもりであったが右舵2度ばかりの遠隔操舵になっており、02時07分花咲灯台から222度1,050メートルの地点に達したとき、銀世丸は徐々に右回頭を始め、その後右回頭を続けながら南防波堤の中央部に向かって進行した。しかし、同人は、転じた針路で自動操舵に切り替わったものと思い、操舵室前面下部に取り付けられているGPSビデオプロッターの調整を始め、コンパスを確認するなどして針路の保持を十分に行わなかったので、このことに気付かず続航中、02時10分少し前、右舷船首方の花咲港南防波堤灯台が視認できないことに気付いていすから立って前方を見たとき、船首100メートルに迫った南防波堤の黒影を認め、同時10分わずか前、初めて自船が右回頭していることを知り、機関を全速力後進としたが及ばず、02時10分花咲灯台から304度815メートルの地点において、銀世丸の船首が025度を向いて花咲港南防波堤外側の消破ブロックに、7ノットばかりの前進惰力で後方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ低潮時で、視界は良好であった。
衝突の結果、船首船底外板を圧壊し、前部魚倉内に浸水したが、自力で花咲港魚市場岸壁に着岸し、のち損傷部は修理された。


(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、北海道花咲港に入航中、同港外防波堤入口から内防波堤入口に向け遠隔操舵により右転したのち自動操舵に切り替えた際、針路の保持が不十分で、小角度の右舵がとられたまま同港南防波堤の中央部付近に向け徐々に右回頭しながら進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、北海道花咲港に入航中、同港外防波堤入口から内防波堤入口に向け遠隔操舵により右転したのち自動操舵に切り替えた場合、転じた針路で自動操舵に切り替わっているかどうかを判断できるよう、コンパスを確認するなどして針路の保持を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、転じた針路で自動操舵に切り替わったものと思い、GPSビデオプロッターの調整に気をとられ、コンパスを確認するなどして針路の保持を十分に行わなかった職務上の過失により、小角度の右舵がとられたまま同港南防波堤中央部付近に向け右回頭していることに気付かずに進行して衝突を招き、銀世丸の船首船底外板を圧壊させ、前部魚倉内に浸水させるに至った。






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