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2000年(平成12年)

平成11年函審第74号
    件名
漁船第35豊進丸漁船第三勘榮丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:第35豊進丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:第三勘榮丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
豊進丸・・・船首部外板及び球状船首に亀裂をともなう凹損
勘榮丸・・・左舷側中央部外板に大破口、機関室及び後部魚倉に浸水、沈没、船長が腰部打撲傷、乗組員4人が右肩打撲傷、前胸部打撲傷、左肩打撲傷及び右足底部異物混入

    原因
豊進丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守
勘榮丸・・・船橋当直者を配置せず、警告信号不履行

    主文
本件衝突は、第35豊進丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の第三勘榮丸を避けなかったことと、第三勘榮丸が、船橋当直者を配置せず、警告信号を行わなかったこととによって発生したものである。
受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Cの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月27日09時40分
北海道釧路港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第35豊進丸 漁船第三勘榮丸
総トン数 173トン 152トン
全長 39.45メートル
登録長 30.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 338キロワット 345キロワット
3 事実の経過
第35豊進丸(以下「豊進丸」という。)は、さんま棒受網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか14人が乗り組み、操業の目的で、平成10年9月23日06時10分岩手県宮古港を発し、北海道厚岸港南東方20海里ばかりの漁場に向かい、翌24日夕刻同漁場に至り、西方に移動しながら操業を続け、さんま約38トンを獲て、船首2.00メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、同月27日05時00分同港の南南東方14海里ばかりの漁場を発進し、岩手県宮古港に向け帰航の途についた。

A受審人は、航海中の船橋当直を自分と甲板長、B指定海難関係人及び甲板員4人の無資格者による2時間交替の輪番制としていたので、漁ろう長に当直を任せて朝食をとったのち昇橋し、06時15分厚岸灯台から194度(真方位、以下同じ。)21.2海里の地点で針路を襟裳岬南東方沖合18海里ばかりのところに向く226度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
ところで、豊進丸は、前部上甲板右舷側ブルワーク内側に操舵室屋根より高い起倒式集魚灯ブーム3本が等間隔に設けられ、前部マスト基部には、同ブーム1本と左舷側の棒受網に魚群を誘導するための大型集魚灯ブーム1本が設けられており、航行中はこれらのブーム全てを垂直に立てておくので、操舵室右舷側の見張り場所からは船首方の一部の見通しが妨げられて死角を生ずる状況であった。

A受審人は、07時00分釧路埼灯台から158度29.5海里の地点に達したとき、次直の甲板長に船橋当直を任せたが、その際、自分の船橋当直中は操舵室内左舷側に移動して船首方の死角を補う見張りを行っていたことから、他の無資格の船橋当直者も船首死角を補う見張りを行い、接近する他船があれば報告してくれるものと思い、操舵室内左舷側に移動して船首方の死角を補う見張りを行い、接近する他船があれば速やかに船長に報告するよう指示せず、また、このことを次直のB指定海難関係人に申し送るよう指示することもせずに自室に退いて休息した。
B指定海難関係人は、09時00分釧路埼灯台から184度42.0海里の地点で昇橋し、前直の甲板長から当直を引継いだのち、操舵室右舷側のいすに腰を掛けて前方の見張りに当たっていたところ、09時34分正船首1.0海里に第三勘榮丸(以下「勘榮丸」という。)を視認できる状況となったが、操舵室内左舷側に移動して船首方の死角を補う見張りを行わなかったので、同船に気付かず、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、A受審人に同船の接近を報告しないまま続航中、09時40分釧路埼灯台から190度47.0海里の地点において、突然船首に衝撃を感じ、豊進丸の船首が、原針路、全速力のまま、勘榮丸の左舷側中央部付近に直角に衝突した。

当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
A受審人は、B指定海難関係人から勘榮丸の接近の報告が得られないまま自室で休息中、衝撃で目覚めて急ぎ昇橋し、初めて本件発生を知り、左舷側に大傾斜している同船と付近海面に漂流している同船の乗組員を認め、急ぎ人命救助作業指揮に当たった。
また、勘榮丸は、主としてさんま棒受網漁業に従事する鋼製漁船で、C受審人、D指定海難関係人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、船首1.50メートル船尾3.30メートルの喫水をもって、同月25日10時00分岩手県宮古港を発し、翌26日02時30分厚岸港の南方36海里ばかりの漁場に至り、03時00分操業を開始した。
C受審人は、同日05時ごろ日出とともに操業を中止し、同漁場で16時ごろまで漂泊待機したのち、18時ごろ同漁場の南西方20海里ばかりの漁場に移動して操業を再開し、翌27日05時ごろさんま約20トンを獲て、操業を中止して西方に向けて漁場移動を開始し、07時00分釧路埼灯台から190度47.0海里の地点で機関を停止し、夜間操業に備えて漂泊待機した。

漂泊したときC受審人は、乗組員全員に対し、夜間操業開始時刻まで休息するよう指示し、降橋して朝食を済ませたのち07時30分再び昇橋して周囲の見張りに当たっていたところ、視界が良好で周囲に航行船が認められなかったことから、航行船があっても漂泊している自船を避けてくれるものと思い、船橋当直者を配置することなく08時00分自室に退いて休息した。
D指定海難関係人は、いつも漂泊待機中に操舵室後部で漁模様などについて同業船と連絡に当たっており、時々操舵室前面に出て周囲の見張りに当たっていたものの、当日は漂泊して間もなく同業船との連絡が終わり、視界が良好で、前夜の操業指揮で疲れていたこともあって、C受審人の指示どおり自室に退いて休息した。
こうして、C受審人は、船橋を無人としたまま漂泊していたところ、09時34分左舷正横1.0海里に豊進丸を視認でき、その後同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めることができる状況となった。しかし、同人は、船橋当直者を配置していなかったので、豊進丸が自船に向首接近する旨の報告が得られず、警告信号を行うことなく漂泊中、前示のとおり衝突した。

C受審人は、衝撃で目覚めて急ぎ昇橋したところ、機関室及び後部魚倉に激しく浸水していることを知り、船体が急速に左舷側に大傾斜していくので、救命いかだを降下したものの、乗組員を移乗させる余裕がなく、乗組員とともに海中に逃れて漂流中、全員が豊進丸に救助された。
衝突の結果、豊進丸は、船首部外板及び球状船首に亀裂をともなう凹損を生じ、のち損傷部は修理されたが、勘榮丸は、左舷側中央部外板に大破口を生じて機関室及び後部魚倉に浸水し、09時55分前示衝突地点付近で沈没し、C受審人が腰部打撲傷、乗組員4人がそれぞれ右肩打撲傷、前胸部打撲傷、左肩打撲傷及び右足底部異物混入などを負った。


(原因)
本件衝突は、北海道釧路港南方沖合において、厚岸港南方漁場から襟裳岬南東方沖合に向け航行中の豊進丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の勘榮丸を避けなかったことと、勘榮丸が、船橋当直者を配置せず、警告信号を行わなかったこととによって発生したものである。
豊進丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、操舵室内左舷側に移動して船首方の死角を補う見張りを行い、接近する他船があれば速やかに船長に報告する旨の申し送りを指示しなかったことと、同当直者が、操舵室内左舷側に移動して船首方の死角を補う見張りを行わず、勘榮丸の接近を船長に報告しなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、北海道釧路港南方沖合において、厚岸港南方漁場から襟裳岬南東方沖合に向け航行中、無資格の乗組員に輪番制で船橋当直を任せる場合、操舵室右舷側の見張り位置からは船首方の一部に死角を生ずる状況であったから、操舵室内左舷側に移動して船首方の死角を補う見張りを行い、接近する他船があれば速やかに船長に報告する旨の申し送りを指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、自分の船橋当直中は操舵室内左舷側に移動して船首方の死角を補う見張りを行っていたことから、他の無資格の船橋当直者も死角を補う見張りを行い、接近する他船があれば報告してくれるものと思い、船橋当直者に対し、操舵室内左舷側に移動して船首方の死角を補う見張りを行い、接近する他船があれば速やかに船長に報告する旨の申し送りを指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者から勘榮丸の接近の報告が得られず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、豊進丸の船首部外板及び球状船首に亀裂をともなう凹損を生じさせ、勘榮丸の左舷側中央部外板に大破口を生じさせ機関室及び後部魚倉に浸水、沈没させ、C受審人に腰部打撲傷、乗組員4人にそれぞれ右肩打撲傷、前胸部打撲傷、左肩打撲傷及び右足底部異物混入などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
C受審人は、北海道釧路港南方漁場において、さんま棒受網漁業の夜間操業に備えて漂泊待機する場合、船橋当直者を配置すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、視界が良好で周囲に航行船が認められなかったことから、航行船があっても漂泊している自船を避けてくれるものと思い、船橋当直者を配置しなかった職務上の過失により、豊進丸が自船に向首接近する旨の報告が得られず、同船に対して警告信号を行うことなく漂泊を続けて衝突を招き、豊進丸に前示の損傷を生じさせ、勘榮丸を沈没させ、自身も腰部打撲傷を負い、乗組員4人に前示の打撲傷などを負わせるに至った。

以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B指定海難関係人が、北海道釧路港南方沖合において、単独船橋当直に就いて厚岸港南方漁場から襟裳岬南東方沖合に向け航行する際、船首方の死角を補う見張りを行わず、勘榮丸の接近を船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
D指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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