日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成10年神審第126号
    件名
貨物船敦和丸漁船第八光祥丸衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年1月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明
    理事官
橋本學

    受審人
A 職名:敦和丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第八光祥丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
敦和丸・・・右舷船首付近外板に擦過傷
光祥丸・・・左舷側後部防舷材などに折損

    原因
敦和丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
光祥丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、敦和丸が、見張り不十分で、停留状態で漁ろうに従事する第八光祥丸を避けなかったことによって発生したが、第八光祥丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月21日09時55分
京都府久美浜港沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船敦和丸 漁船第八光祥丸
総トン数 4,884トン 16トン
全長 106.00メートル
登録長 16.24メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,346キロワット
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
敦和丸は、専ら山口県仙崎港から福井県敦賀港に石灰石を運送する船尾船橋型の粉体専用運搬船で、A受審人ほか11人が乗り組み、石灰石7,910トンを載せ、船首6.87メートル船尾7.68メートルの喫水をもって、平成9年10月20日16時20分仙崎港を発し、敦賀港に向かった。
A受審人は、船橋当直を単独の3直4時間交替制として本州北西岸沖合を東行し、翌21日08時ごろ昇橋して自ら当直に就き、09時25分京都府北西部の捨ケ鼻灯台から325度(真方位、以下同じ。)10.3海里の地点に達したとき、針路を085度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で進行した。

ところで、敦和丸の船首部には上甲板上の高さが10.8メートル、幅が5.0メートルの揚荷装置用構造物が設備されており、操舵室内で見張りに当たると正船首方向に約5度にわたる死角を生じるため、当直者は操舵室内を左右に移動して死角を補う見張りを行う必要があった。
09時45分A受審人は、捨ケ鼻灯台から347度9.1海里の地点に差し掛かったとき、ほぼ正船首方向2.0海里のところに停留している第八光祥丸(以下「光祥丸」という。)を視認できる状況であったが、左舷側及び右舷側にいか釣り漁船が目印として投入した浮標を認めており、これらに気を取られて前方の死角を補う見張りを十分に行わず、光祥丸の存在に気付かないまま続航した。
09時52分A受審人は、光祥丸が正船首方向1,200メートルのところに接近したとき、同船が鼓型形象物を掲げ、停留して漁ろうに従事していることが分かる状況となったが、依然死角を補う見張りを行わず、その存在に気付かないまま、これを避けることなく進行した。

こうして敦和丸は、09時55分捨ケ鼻灯台から000度9.1海里の地点において、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が、光祥丸の左舷後部に後方から35度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、視界は良好であった。
また、光祥丸は、船体中央部に操舵室を設けた、かけまわし式底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか5人が乗り組み、船首0.7メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同月20日05時00分兵庫県香住港を発し、同港沖合3海里ばかりの漁場に至って操業を行い、翌21日早朝、久美浜港沖合10海里ばかりに移動し、06時ごろからトロールにより漁ろうに従事する船舶の鼓型形象物を掲げて操業を再開した。
B受審人は、専ら操舵室内で操船及び作業の指揮に当たり、08時ごろから当日2回目の操業のため曳網索及び漁網のかけまわし作業を行ったのち、船首を075度に向けて曳網を開始した。

09時25分B受審人は、捨ケ鼻灯台から003度9.3海里の地点に達したとき、曳網を終えて機関を中立にし、周囲の状況をレーダーで確認したところ、左舷後方7度6.5海里に敦和丸の映像を初めて認め、同船が来航していることを知ったが、日中であり、衝突のおそれがあれば相手船の方で避けるものと思い、その後その動静を監視しないまま、船首部から曳網索を巻き取るため反転し、機関中立の状態で長さ1,600メートルの曳網索の巻き取り作業を開始し、239度方向に2.4ノットの対地速力でゆっくりと前進した。
09時40分B受審人は、前示衝突地点付近において曳網索の巻き取りを終え、折からの風を右舷正横方向から受けるよう船首をほぼ120度に向け、停留状態で右舷側から網の揚収作業を開始した。
09時45分B受審人は、右舷船尾35度2.0海里のところに自船に向かって来航する敦和丸を視認できる状況で、その後も避航する気配を見せないまま、衝突のおそれがある態勢で接近したが、網を船内に取り込む作業に気を取られ、同船との衝突のおそれの有無を判断できるようその動静監視を十分に行わず、同時52分同船が1,200メートルに接近したものの、依然これに気付かないで、接近する敦和丸に対して避航を促すための警告信号を行うことなく作業を続けた。

こうして、光祥丸は、船首が120度を向いた状態で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、敦和丸は右舷船首付近外板に擦過傷を生じたのみであったが、光祥丸は左舷側後部防舷材などに折損を生じ、のち修理された。


(原因)
本件衝突は、京都府久美浜港沖合の日本海において、敦和丸が、見張り不十分で、停留状態でトロールにより漁ろうに従事する光祥丸を避けなかったことによって発生したが、光祥丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直に当たって京都府久美浜港沖合を東行する場合、船首部の揚荷装置用構造物によって船首方向に死角が生じて見張りが妨げられる状態であったから、前路でトロールにより漁ろうに従事する光祥丸を見落とすことがないよう、操舵室内を移動するなど、船首方向の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、いか釣り漁船が海中に投じていた目印用浮標の存在に気を取られ、船首方向の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、停留状態で漁ろうに従事する光祥丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、敦和丸の右舷船首付近外板に擦過傷を、光祥丸の左舷側後部防舷材などに折損を、それぞれ生じさせるに至った。
B受審人は、久美浜港沖合において、底引き網漁に従事中、レーダーで来航する敦和丸の映像を認めたのち停留して網の揚収作業を行う場合、同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう、その後の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、相手船の方で避航するものと思い、その後網の揚収作業に気を取られて敦和丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、接近する敦和丸に気付かず、同船に対して警告信号を行わずに衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。


参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION